61.世界樹の種、譲渡します
「カインさんはなぜ『賭博の街』にいるのですか?」
「お兄ちゃんを待ってるの」
「バカだから。ずーっと待ってるの」
「お前たち……」
辛辣なもの云いをした二人は、アベルさんに視線だけで窘められ、唇を尖らせてふて腐れている。
「アベルさんを待つって?」
「正しくは勇者の鎧を、ですね。あれはエルフの森でしか入手できないのです」
「あン時、面白かったよね!」
「カイン様、森の入口でバリバリって弾き飛ばされてた!」
「「ねー」」
「エルフの森へは、勇者以外の人間が入ろうとすると、弾かれるのですよ」
「自分が入れないから、アベルさんに取りに行かせて、待ってる間『賭博の街』で遊んでるって事ね?」
ピーちゃんの歯に衣着せぬ質問に、くしゃりと顔をゆがませたアベルさんが「そういう事になりますね」と呟くように返事した。
「勇者の鎧……?」
「そうです。勇者の鎧がないと、腐敗して落ちた肉に阻まれて、竜王に近付く事ができないと云われています」
「最初の勇者様が、ドワーフとエルフに頼んで創って貰ったンだってー」
「竜王を倒すと、勝手にエルフの森に帰ってくるンだってー」
「「すごいよねー」」
「ミアちゃんとソラちゃんは一緒に入れたの?」
「だってワタシ達コボルト族だし」
「魔力ないし」
「エルフともドワーフとも仲良しだもン」
「「ねー」」
得意げに、足をぶらぶらしてニコニコしている猫耳娘二人。
かわええ……。
なでなでして甘いおやつで餌付けしたくなるなぁ。
「アベルさん、鎧ってもしかして……」
ヒビキがテントの方へ視線を送ると、アベルさんが頷く。
「そうです。さきほどまで着ていたのが勇者の鎧です」
「鎧は勇者しか着れないンだってー」
「カイン様、ざまぁ~」
「そっか! カインが着れない鎧を渡せないから、街に行けないのね!?」
「ええ。ご自身で着れないと知ったら、逆上して何をするか……」
「……腹いせに、『世界樹のしずく』を叩き割りそうだね」
「「やりそう!!」」
だからダンジョンに籠って、宝箱から稀に出る『世界樹のしずく』を探していたのか……。
なんか、つくづく……。
神様って何考えてんだろ?
わざわざ召喚した2番目の勇者は、権力欲の塊みたいな人だし。
あきらかに精神状態がやばいカインさんがそばに居るのに、アベルさんを4番目に任命して……。
私には変な見張りの星つけるし!
「ドワーフが作って、エルフが魔法をかけたんなら、あの鎧って自動修復できるのよね?」
「え、そうなの?」
「そのぐらいの物を創るんでもなければ、あの種族たちが協力するワケないじゃない」
ピーちゃんのウンチクに、アベルさんが頷いている。
どうやら本当に修復機能が付いているらしい。
「かなり大破してるように見えましたけど、あれでも直るのですか?」
「そうですね。おそらく二十日ほどかかるでしょうが、直りますよ」
エルフの魔法ってすごい……。
一度ぐらい会ってみたいけど、人間嫌いなんだったら無理だろうなぁ。
「あ! そうだ。忘れる前に渡しますね」
椅子から立ち上がったヒビキが、空間収納から『世界樹の種』を取り出す。
手渡されたアベルさんは、小石にしか見えないソレを見ながら、
「これは?」
と、尋ねてきた。
「『世界樹の種』です。妖精の国の女王様から、勇者に会えたら渡して欲しいと頼まれてたんですよ」
「……何のためにですか?」
「この種を芽吹かせる事が出来れば、世界樹を復活させられるらしいんです」
「本当ですか!!」
「でも、どうやったら芽吹かせられるのかはわかんないのよ」
「石……にしか見えませんものね……」
「大っきなハンマーで割ったらいいンじゃない?」
「水に浸けてふやかすとか!」
「そーんな事で芽が出るなら、とっくに誰かがやってるわよ!」
「「えー」」
「「いい案だと思ったのにねー」」と、きゃいきゃいお話ししている猫耳娘たち。
「何かヒントとか……逸話もないのですか?」
「……なにも、判らないみたいです」
「そうですか……」
おもむろに、もふり倒していた私をヒビキに渡したアベルさんが。
右手を”開いていないチョキ”の形にして、その指先で自分の左腕を撫でた。
「うわ!」
「きゃー!」
「に”ゃ!」
「「お兄ちゃん!?」」
撫でた部分のアベルさんの腕がスッパリと切れて、だくだくと血が流れ出し。
『世界樹の種』を持った右手で、その血を受けている。
「な、なな何をしてるんですか!」
「バッカじゃない? バッカでしょ!」
「「お兄ちゃんん!?」」
みんなでパニック。
「いや、『勇者』の血で芽吹かないかなと思って」
「「「それは無いと思う!!!」」」
ピーちゃん「血の臭いって、引き寄せるって言うよねー」
オカン「やめて! フラグになりそうだからやめて!」




