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60.四番目の勇者とニセ勇者

 私の背中をもふもふと撫でながら、アベルさんが云う。


「ヒビキさんは、『5番目の勇者』様なのですか?」

「えっ」


『世界樹のしずく』を持っているから、勇者と間違われるのは判る。

 だけど”5番目”……?


「いえ、俺はただの『生き物使い』です」

「「えっ」」

「あっ」


 使役系最強のスキルが使える事は、内緒にしようと云ってたのに、ツルリと話してしまったヒビキ。

 反応したのは猫耳娘2人だけで、アベルさんはヒビキの失言に喰いつく事もなく、頷きながら続きを話す。


「そうでしたか……。でも、そうですよね。『勇者』なら『世界樹のしずく』は最後まで使えないですものね」

「……アベルさんって、もしかして?」


 含みのあるアベルさんのもの言いに、ヒビキが何か気付いたらしい。

 こくりと頷いたアベルさんが爆弾発言を落とした。


「はい。『4番目の勇者』は僕なんです」

「でも、『4番目の勇者』は、『賭博の街』に居るって聞きましたよ?」

「「あいつは偽物!」」


 猫耳娘二人が、くわっと立ち上がって割り込んできた。




 現在『賭博の街』で好き放題しているニセ者の『勇者』は、2番目の勇者の末裔のお貴族様なのだそうだ。

 2番目の勇者の評判が悪すぎる為に、未だに陰口を叩かれているお家柄らしい。


「僕は、カイン様の乳母の息子で、護衛兼学友として育ちました」

「お兄ちゃんいっつもイジワルされてたの!」

「カイン様は一番が好きなのに、何やってもお兄ちゃんに勝てないから、嫉妬してるンだってみンな言ってた!」

「お前たち……。そんな事は言ってはいけないと教えてきただろう……」


 窘められた猫耳娘二人は、可愛らしい頬をぷくーっとふくらます。


「「だって、アイツのせいでお兄ちゃんの()()()が!!」」


 あっ、と小さくつぶやいた二人が、そろって両手を口にあてる。

 

「アベルさん、もしかして……『世界樹のしずく』を使えなくなっているのですか?」

「そうです」


「アイツが触ったの!」

「駄目だって知っててワザとさわったの!」


 神様から与えられた『世界樹のしずく』は、他者の手に渡ると泥水に変わる。

 

「カイン様は、家の汚名を晴らす為に、ずっと『勇者』になる事を望んでおられました」

「あンな性格ねじ曲がってて、勇者様になれる訳ないのにねー」

「「ねー」」


 猫耳娘二人は、相当カインさんの事が嫌いらしい。


「カインってやつがロクでもないのは判ったけど、アンタ達なんでそんなに嫌ってるの?」

「「ワタシ(アタシ)達、あの家の奴隷だったの」」


 食事も満足に与えられず、カインさんのうっ憤のはけ口に、相当ひどい体罰も受けていたらしい。

 みかねたアベルさんが、一切のお給金を貰わない代わりにと、二人を従者にしてくれたのだと。


「ご主人様って呼ンだら嫌がるから、お兄ちゃんになったの」

「ご主人様って呼ぶたンびに、拳骨された」

「「ねー」」


 照れ隠しなのか、なんなのか。

 筋張った手で私の頬をむにむにと揉みながら、話を続けるアベルさん。


 やーめーろー。

 髭が折れるから、やめろー。


「15になった夜、神様から僕は『勇者』だと告げられました」 


 その時に『世界樹のしずく』を与えられ、忌々しい”使い方”も教えられたらしい。


「……お告げの夢から覚めた時、カイン様が僕のベッドのすぐそばに居ました」


 護衛と雑用係りも兼ねていたアベルさんは、いつでも駆けつける事ができるように、カインさんの私室と繋がった部屋を割り当てられていた。

 当然、部屋の主であるカインさんは出入り自由。


 普段であれば、人の気配ですぐに目が覚めるが、神様のお告げを受けていた為、それもかなわず。


 夢から覚めた時、枕元に立っていたカインさんは、問答無用で『世界樹のしずく』を奪い取り、泥水に変えてしまったのだと云う。


「……ひどい!」

「そーなの! 最低なの!」

「しかも、『世界樹のしずく』を持ってる自分こそが、勇者だって!」

「この事をばらしたら、ワタシ達をよそのお屋敷に売るってお兄ちゃんを脅したの!」


「カインさんは、どこで『世界樹のしずく』を?」

「2番目の勇者がダンジョンを踏破した際に入手して、お屋敷の宝物庫に隠していた物を持ち出しているんです」


「アベルさんがダンジョンを梯子してたのは『世界樹のしずく』を探す為ですか?」


「……そうです。僕は竜王を倒さなければいけない。そして、その後使う『世界樹のしずく』がどうしても必要だから」


「カインから奪えばいいのに」


 おぉ。ピーちゃん冴えてる。


 ピーちゃんの言葉に、猫耳娘2人が吃驚した顔をしてる。

 思いもつかなかった! って感じだなー……。


「思いつきもしなかった、って顔ね?」


 2人は、コクコクと頷いている。

 苦笑いをしたアベルさんは――


「そんな事をしたら、処刑されますよ。この子達の親も、僕の母親も」


 ――と云った。


 そこまで性根が腐っているのか。カインという貴族は。

 



ピーちゃん「ニセ勇者腹立つわぁ」

ヒビキ「ぎゃふんと言わせたいね」

ソラちゃん「ぎゃふんて何?」

ミアちゃん「○んこ踏ンで、ぎゃっって叫んでるンじゃない?」

     「「「それは違う」」」


やっと60話まで来ました。

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― 新着の感想 ―
[一言] うはぁ、そんな事情が。 偉い(あれ? 勇者いっぱいだからどの勇者が高評価なのか分からなくなってきた)のは先祖であってお前じゃないって最後に言ってやれ( ̄▽ ̄;)
[良い点] 汚いお兄さんは、まさかの勇者様だったんですね。 しかも、見た目もカッコよく、 性格も良く、才能もある、 真の勇者と呼ぶにふさわしい、好人物ですね。 彼を救うことができたのは、 とても良かっ…
2020/08/06 12:57 退会済み
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