60.四番目の勇者とニセ勇者
私の背中をもふもふと撫でながら、アベルさんが云う。
「ヒビキさんは、『5番目の勇者』様なのですか?」
「えっ」
『世界樹のしずく』を持っているから、勇者と間違われるのは判る。
だけど”5番目”……?
「いえ、俺はただの『生き物使い』です」
「「えっ」」
「あっ」
使役系最強のスキルが使える事は、内緒にしようと云ってたのに、ツルリと話してしまったヒビキ。
反応したのは猫耳娘2人だけで、アベルさんはヒビキの失言に喰いつく事もなく、頷きながら続きを話す。
「そうでしたか……。でも、そうですよね。『勇者』なら『世界樹のしずく』は最後まで使えないですものね」
「……アベルさんって、もしかして?」
含みのあるアベルさんのもの言いに、ヒビキが何か気付いたらしい。
こくりと頷いたアベルさんが爆弾発言を落とした。
「はい。『4番目の勇者』は僕なんです」
「でも、『4番目の勇者』は、『賭博の街』に居るって聞きましたよ?」
「「あいつは偽物!」」
猫耳娘二人が、くわっと立ち上がって割り込んできた。
◆
現在『賭博の街』で好き放題しているニセ者の『勇者』は、2番目の勇者の末裔のお貴族様なのだそうだ。
2番目の勇者の評判が悪すぎる為に、未だに陰口を叩かれているお家柄らしい。
「僕は、カイン様の乳母の息子で、護衛兼学友として育ちました」
「お兄ちゃんいっつもイジワルされてたの!」
「カイン様は一番が好きなのに、何やってもお兄ちゃんに勝てないから、嫉妬してるンだってみンな言ってた!」
「お前たち……。そんな事は言ってはいけないと教えてきただろう……」
窘められた猫耳娘二人は、可愛らしい頬をぷくーっとふくらます。
「「だって、アイツのせいでお兄ちゃんのしずくが!!」」
あっ、と小さくつぶやいた二人が、そろって両手を口にあてる。
「アベルさん、もしかして……『世界樹のしずく』を使えなくなっているのですか?」
「そうです」
「アイツが触ったの!」
「駄目だって知っててワザとさわったの!」
神様から与えられた『世界樹のしずく』は、他者の手に渡ると泥水に変わる。
「カイン様は、家の汚名を晴らす為に、ずっと『勇者』になる事を望んでおられました」
「あンな性格ねじ曲がってて、勇者様になれる訳ないのにねー」
「「ねー」」
猫耳娘二人は、相当カインさんの事が嫌いらしい。
「カインってやつがロクでもないのは判ったけど、アンタ達なんでそんなに嫌ってるの?」
「「ワタシ達、あの家の奴隷だったの」」
食事も満足に与えられず、カインさんのうっ憤のはけ口に、相当ひどい体罰も受けていたらしい。
みかねたアベルさんが、一切のお給金を貰わない代わりにと、二人を従者にしてくれたのだと。
「ご主人様って呼ンだら嫌がるから、お兄ちゃんになったの」
「ご主人様って呼ぶたンびに、拳骨された」
「「ねー」」
照れ隠しなのか、なんなのか。
筋張った手で私の頬をむにむにと揉みながら、話を続けるアベルさん。
やーめーろー。
髭が折れるから、やめろー。
「15になった夜、神様から僕は『勇者』だと告げられました」
その時に『世界樹のしずく』を与えられ、忌々しい”使い方”も教えられたらしい。
「……お告げの夢から覚めた時、カイン様が僕のベッドのすぐそばに居ました」
護衛と雑用係りも兼ねていたアベルさんは、いつでも駆けつける事ができるように、カインさんの私室と繋がった部屋を割り当てられていた。
当然、部屋の主であるカインさんは出入り自由。
普段であれば、人の気配ですぐに目が覚めるが、神様のお告げを受けていた為、それもかなわず。
夢から覚めた時、枕元に立っていたカインさんは、問答無用で『世界樹のしずく』を奪い取り、泥水に変えてしまったのだと云う。
「……ひどい!」
「そーなの! 最低なの!」
「しかも、『世界樹のしずく』を持ってる自分こそが、勇者だって!」
「この事をばらしたら、ワタシ達をよそのお屋敷に売るってお兄ちゃんを脅したの!」
「カインさんは、どこで『世界樹のしずく』を?」
「2番目の勇者がダンジョンを踏破した際に入手して、お屋敷の宝物庫に隠していた物を持ち出しているんです」
「アベルさんがダンジョンを梯子してたのは『世界樹のしずく』を探す為ですか?」
「……そうです。僕は竜王を倒さなければいけない。そして、その後使う『世界樹のしずく』がどうしても必要だから」
「カインから奪えばいいのに」
おぉ。ピーちゃん冴えてる。
ピーちゃんの言葉に、猫耳娘2人が吃驚した顔をしてる。
思いもつかなかった! って感じだなー……。
「思いつきもしなかった、って顔ね?」
2人は、コクコクと頷いている。
苦笑いをしたアベルさんは――
「そんな事をしたら、処刑されますよ。この子達の親も、僕の母親も」
――と云った。
そこまで性根が腐っているのか。カインという貴族は。
ピーちゃん「ニセ勇者腹立つわぁ」
ヒビキ「ぎゃふんと言わせたいね」
ソラちゃん「ぎゃふんて何?」
ミアちゃん「○んこ踏ンで、ぎゃっって叫んでるンじゃない?」
「「「それは違う」」」
やっと60話まで来ました。
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