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59.アベルさんの劇的ビフォー・アフター

 さっぱりほっこりお風呂上り。


「……アンタ誰?」


 ピーちゃんの顎が落ちそうなぐらい空いてる。

 私の口も、あんぐりと空きっぱなし。


 劇的ビフォーアフターというよりは。

 もはや別人といった風体になったアベルさんが居た。


 背格好は同じなんだけど、同じなんだけど!


 無精ひげを剃り、全身の汚れと臭いを落とし、伸び放題だった濃紺の髪を後頭部で一つに纏めたアベルさんは……。


 さっきまでの不潔感漂う最悪な雰囲気から一転。

 月夜の男神も裸足で逃げ出しそうな美丈夫になっていた。


 その辺で変身ステッキでも拾ったんじゃあるまいか?


 湯上りの熱さましも兼ねているのか、ズボンだけ履いているその上半身は。

 まさにヒビキの憧れ続けた、理想の細マッチョ。

 くっきり割れた腹筋に、厚く逞しい胸板。

 見事なV字を描く、広背筋。

 筋肉自慢のお笑い芸人のような、どこかそらぞらしい筋肉ではなく、実戦で鍛えられたしなやかなアスリートの筋肉……。

 

 やばい、腹筋パンチお見舞いしたい……。


「「お兄ちゃんに戻ったー!!」」


 猫耳娘二人が飛びついても、全くぐらつくことなく受け止めている。


「二人とも、心配掛けたね。なんだかすごくスッキリした気分だ」

「「返事してくれた!」」



「町には戻らずに、ここで話をさせて欲しい」と云ったアベルさん。

 ヒビキとピーちゃんが頷くと、あっと云う間に壁際に椅子を作ってくれた。


 なんでも作れるってかなり羨ましい……。

 私も密かに練習せねばと思いながら、3人の話に集中する。

 

 3人は、ダンジョンを踏破しては次のダンジョンへと、何年間も梯子し続けてきたらしい。

 ただ、最後に潜っていたダンジョンで、病的なまでに下層をめざし続けるようになってしまったのだと云う。

 二人が心配する言葉にも、一切耳を貸さなくなってしまった、と。


「精神系の攻撃を受けてたのかもしれないわね」

「……そうかもしれません。なぜあれほどに焦っていたのか……」

「「たぶン、50階の目玉の魔物のせいだと思う~」」


 50階層には、人間の頭ほどもある赤い目玉の周りに黒い触手が無数に生えた魔物が、居たらしい。


「目玉が時々金色に光ってたンです」 

「アタシあの目玉みて、なンかイライラした!」

「あいつやっつけてからだもン。お兄ちゃんがおかしくなったの」

「「ねー」」


 それまでは小まめに小休憩を挟み、二人を気遣いながら進んでいたアベルさんが、ただひたすらに魔物を倒し、下層へ下層へと急ぐようになったのだと。


「休憩しようって言っても聞いてくれないし」

「眠たいって言っても止まってくれないし」

「「ほんと大変だった!!」」

「全然覚えてないな……。二人ともごめんね」


 それでも最下層の70階に到着できたのは、ソラちゃんの装備している『回復の腕輪』のおかげだったと云う。


 カイ君含め、獣の特徴を持つ生き物は、総じてコボルト族と呼ばれているらしく。

 コボルト族はみな例外なく魔力を持たないのだと教えてくれた。

 

 そのかわり、装備に”精神力”を流す事で、魔法を発動させられるらしい。


 ミアちゃんが空を飛んでいたのも、ダンジョンで入手した『飛翔の靴』のお蔭だと。


「他にどんな装備をもってるの?」

「あとは、アタシの着けている『炎の腕輪』だけです」


「あー。ヒビキが喰らってた奴かぁ」

「……! 本当に申し訳ありませンでした……」


 縮こまるミアちゃんに「もぅ気にしないでいいから……」とヒビキが声をかけている。


 『飛翔の靴』を片足ずつ履いて手を繋ぐと、2人で飛べるらしく。

 ミアちゃんが火の玉で魔物の注意を逸らし、ソラちゃんが回復魔法で援護をしつつ、アベルさんの足手まといにならないように逃げ回るのが、基本のスタンスだったらしい。

 

「でも、ワタシの精神力は70階に着いた時には切れかけてて……」

「ソラちゃんが階層主の触手に足を掴まれて、アタシも一緒に引っ張られちゃって」


「爪の攻撃が来て、もう駄目だと思ったンですけど」

「お兄ちゃんが立ちふさがってくれて……」

 

 アベルさんの胸の部分を覆う鎧(ブレストプレート)が大きく破損していたのは、その時に受けたものらしい。

 大怪我を負いながらも、ダンジョンの主を踏破したアベルさんは、そのまま意識混濁。


 慌てて駆け寄った二人は、その時初めて、魔素の腐敗が進んでいるアベルさんの容体を知った、と。


 1階へ戻れる魔法陣に乗って地上に戻り、必死に腕輪の回復魔法をかけ続けるも、全く効果が見られず。

 ソラちゃんはそのまま回復魔法をかける事にして、ミアちゃんが一番近いキプロスの町へ来た、という事だった。


「そういえば、オカンの事を”始祖様”って云ってたよね?」

「コボルト族の村を作った方だと言われてるンです」

「始祖様は真っ白な毛皮で羽が生えていて、その肉を食べたら不老不死になれて、血を飲んだり掛けて貰うと、どんな怪我や病気も治ったって」


 うわ……ヒビキの顔が般若みたいになってる。

 アベルさんの侵されてた度合いから察するに……あのまま攫われてたら、私かなりやばかった……ね。


 お。二人の背後にアベルさんがそおっと回った。

 ”ぐー”にした両腕を振り上げて……?


 ゴン!


「「んぎゃ!」」


 猫耳娘2人の脳天に拳骨が落ちた。


「二人とも! 始祖様は人型だろ! オカンはどう見ても”ちょっと変わった猫”じゃないか!」


「ごめンなさい……。あの時はなンでか、オカンが始祖様だと思いこんじゃったの」


 たとえ始祖様本人だったとしても、出会い頭に誘拐して問答無用で血を採るのは駄目でしょう……。

 もしかしたら、ミアちゃんにも精神攻撃をしてきた50階の魔物の影響が、残ってたのかもしれないなぁ。


「ワタシとばっちり……」

 

 残りわずかな精神力を使って、必死に『回復の腕輪』を使ってお留守番してたのに、拳骨喰らったソラちゃんはとばっちり1号。

 ”変わった猫”呼ばわりされた私は、とばっちり2号。


 こんなにかわいい白猫なのに!

 ちょっと使いどころの判らない羽が生えてるだけなのに!


 可哀想な1号を慰めようと、とことこそばへ行った私を、アベルさんがひょいと捕まえた。


 ぎゃ。 臭くなくなったから油断してた!

 

誤字ペッタン、ありがとうございます!

読み返してから投稿しているのに、おバカな間違いに気付いてない事が多いので

すごくありがたいです。

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