58.実は優秀だったお兄ちゃん
「アンタ、臭い!」
空気読まない隊長のピーちゃんが、鼻を押さえながら心底嫌そうに叫んだ。
「えっ」
困惑しながら、自身の腕を匂う男性。
直後に首を傾げたので、自覚が無いのだろう。
自分の臭いって、麻痺するっていうもんなぁ……。
「「そうなンです!」」
ミアちゃんとソラちゃんが、テントから飛び出して来て綺麗にハモった。
「お兄ちゃん、何度言っても髪切らないし!」
「お風呂も入らないし!」
「ご飯もろくに食べないし!」
「髭も剃らないし!」
さくらんぼ色の二つの唇から、交互に不平不満が飛び出し。
「「着替えもしないンです!!」」
最後もハモった。
着替え……。いつからしてないの? なんて、聞きたくないし想像もしたくない。
気持ち悪すぎて、トリハダまで出てきたよ。
勢いで訴えて来たミアちゃんが、はっと我に返ったらしく。
慌てて土下座の体勢をとった。
ソラちゃんも、同じくひれ伏す。
何も事情を知らない臭い男性だけが、おろおろと猫耳娘二人とヒビキとを交互に見ている。
「そんなのはね、もういらない! アンタ達が敵対するってんなら容赦しないけど!」
何かを言おうとしたヒビキを遮ったピーちゃんが、空中で仁王立ちになって威圧する。
「そ、そンな事しません! 御恩返しになンでもします」
ミアちゃんが土下座したままの姿勢で答える。
「なんでも?」
「なンでも!」
「んじゃ、今からお風呂を作るわよ!」
「「「はい?」」」
猫耳娘2人と臭い男性が、そろって変な声を出した。
◆
「「「「あ”~~~」」」」
湯船に浸かる4人が、お爺さんみたいな声をだしている。
岩でできた浴槽は、シングルベッド2つ分程度の広さで。
中央に、簡易な木の板を立てて男湯と女湯とに分けている。
さぁ入浴しましょうというタイミングで、ヒビキが私を男湯に連れて行こうとしたので。
思いっきり暴れて振り切り、女湯の方へ逃げてきた。
やだよ!
いくら知られてないからって、この年になって息子とお風呂って、なんの罰ゲームなのよー!
もちろんピーちゃんも女湯側。
出し入れできるらしい羽は、今はどこかにしまわれている。
「濡れたら飛べなくなるに決まってるでしょ!」
羽が濡れたらどうなるのか聞いたら、叱られた。
トンボのような薄さのピーちゃんの羽は、水分厳禁なのだそうだ。
「久しぶりのお風呂、気持ちいいねェ」
「もう、ずっと体拭くだけだったもんねぇ」
猫耳娘二人が臭くなかったのは、こまめに体を拭いていたかららしい。
……かわいそうに。
臭い男性の名前は、アベルさんと云うらしく。
お風呂を作る時に、ただモノじゃない能力を見せてくれた。
◆
ボロボロパーティ3人組は、直前まで入っていたダンジョンで、持ち物すべてを失ったらしく。
詳しい話は後で聞くことにして、ミアちゃんを3人分の着替えの買い出し係に任命。
ヒビキは、念のためミアちゃんの付き添い(件見張り)をして貰う事に。
ソラちゃんは、枯れ枝を集めてくる係。
アベルさんは病み上がりの為、その辺で座っててもらう事に。
臭いしね!
テキパキと指示をだすピーちゃんに任命されて、浴槽作成担当になった私。
土魔法を使えるのが私だけなんだから、頑張るしかないよね……と、しぶしぶ了承して。
まずは浴槽からでしょう、と。
大きな岩に手を当てて、ウンウン呻りながら集中している私の所に来てくれたアベルさんが。
さっと岩に手を当てて、シングルベッド2つ分程度の穴を、開けてくれた。
釈然としない思いを隠しながら、開けて貰った穴に、じょろろーっと掌から水を出していると。
両手を広げ、瞬く間に大きな水球を空中に作り上げたアベルさんが、岩風呂を満たしてくれた。
プライドを傷つけられつつ、それでもなんとか気を取り直し。
今度は仕切り板を作ろうと。
ソラちゃんが集めてくれた枯れ枝に手を当てて、これまたウンウン唸り。
岩風呂の半分ぐらいの長さまで具現できた仕切り板が、ぽひゅんと音を立てて消えたのを見たアベルさんが!
傍に生えていた木に軽く片手を当てて、岩風呂を仕切る一枚板を出現させたばかりか!!
岩風呂の周りに、フローリングよろしく板を敷き詰めたうえ、簡易な囲いまで作りおった!!
なんなのこの人! スペック高すぎない?!
お手伝いしてくれてるのはありがたいんだけど。
いちいち満面の微笑みで私を見て、頭を撫でてこようとするのが、なんかムカつく!
ええい、触れるな。
もふりたければ、清潔になってからにして!
臭いアベルさんと距離を取りつつ、枯れ枝で風呂桶を作る。
なんとか一つ目が出来上がり、私だってやれば出来るんだー! とニンマリ。
達成感を感じながら顔を上げると、アベルさんが3つ目の風呂桶を作り終わった所だった。
ぐぬぬ。
隙あらばもふろうとしてくる、臭いアベルさんから逃げていると、お買いものを終えたヒビキ達が戻ってきた。
「うわ! すごい! なんか本格的なのが出来てる!」
出来上がっている簡易露天風呂を見て、びっくりしているヒビキに飛びついて避難する。
「おかえり~!」
「おかえり! ミアからなんか聞き出せた?」
「ごめん。なんか緊張してほとんど喋れなかった」
「だらしないわねぇ」
策士なピーちゃんとしては、ミアちゃんの見張りだけでなく、情報を引き出す意図もあったらしいけど。
学校でも男子とばかりつるんでいたヒビキさんですから。
初対面の女子から情報を引き出すのは、かなり難易度が高いと思うの。
私を肩に載せたヒビキは、岩風呂に『灼熱のフライパン』を浸けて、しょんぼりしながらお湯の温度を見始めた。
ピーちゃん曰く、”汚れ”も”状態異常”の一種になるらしく、『王様の角の粉』が効くらしい。
岩風呂にひとつまみほど入れると、ほんのりと乳白色になった。
さて、いよいよ入浴タイム。
男湯と女湯とに分かれた直後。
「うっわ! 出てくるお湯が黒い! これはやばいよアベルさん!」
ざばー、ざばーと、かかり湯をしているらしき男湯から、ヒビキのドン引きする声が聞こえる。
「いいぞ……」
「もっと云ってやって下さいヒビキ様……」
猫耳娘2人が小声で応援している。
……ホントーに苦労したんだね、二人とも……。
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