49.タローさんとお買いもの
1区画は商業地区になるからか、町の人からの”うちの子相談”で呼び止められる事も無く、程なくしてタローさんの(商品を置かせて貰っている)お店に到着した。
こぢんまりした2階建てのお店は、1階が店舗になっていて、2階は住まいになっているらしい。
「ドーラおばさんは、母さんのお姉さんで、母さん達が死んじゃってから、色々と世話焼いてくれる人なんだ」
タローさんが軽く説明してくれながら、お店のドアを開けると、カランとドアベルが鳴る。
カウンターで居眠りしていた中年の女性が、ドアベルの音で起きたようだ。
「ドーラおばさん! また寝てたの?!」
「なんだ、タローか。 客が来たらちゃんと起きるんだから、いーじゃないか」
「俺が店番してる時に寝てたら、拳骨してくる癖にー」
「当たり前だろ。アタシャ店主だよ!」
肝っ玉っぽい女店主は、言葉尻はキツイけど優しい目をしていて、タローさんもかなり懐いている様子。
「タロー、お客様の紹介はしてくれないのかい?」
「あ、そーだった。聞いて驚けぇ! この方は――」
「『動物使い』様だろ?」
「――気付いてたんかーい!」
タローさんとドーラおばさんの、ノリ突っ込みが延々続きそうなので、ヒビキが自己紹介を始めた。
「……ヒビキです。初めまして」
「ドーラだよ。よろしく。牛の悩み事を聞いてくれたんだってね。感謝するよ」
どんなけ噂出回るの早いの? この町!
ドーラおばさんと世間話を始めようとしたヒビキを、お店の一角に引っ張っていくタローさん。
「ヒビキ、ここら辺が、俺が木で作った食器! 丈夫で長持ちって評判いいんだぜー」
「すごいね」
「沢山買ってくれよなっ」
シシシと笑うタローさんに、笑いながら頷いたヒビキは、次々と選んではカウンターに並べて行く。
まな板替わりになりそうなカッティングプレート 1枚
カレーライスが似合いそうなちょっと深めのラウンドプレート 2枚
マグカップ型のコップ 2個
ボウル型の大皿 1枚
ボウル型の小皿 2枚
木べら 1個
スプーン 2本
二股の木のフォーク 2本
木のおたま 1個
「あとは……。タロー、オカン用にもう一つコップを買いたいんだけど、持たせて試してもいいかな?」
「あー……。そっか。肉球だもんなぁ。触るのは良いんだけど、俺作ろうか?」
「えっ。いいの?」
「うん。いいぜー。側面は出来るだけ真っ直ぐで、手を突っ込めるように、大きめの持ち手が両側に付いてるのが良いんじゃないか?」
「ありがとう! 形はタローに任せるよ」
……赤ちゃんの、マグみたいな形かな?
確かに、それだと私の手でも持ちやすそう!
どんどん普通の猫から遠ざかって行ってる気が……しないでもないけど。
「あと、料理用のナイフはあるかな?」
ヒビキの肩で、だらんとぶら下がっている私の手を、握ったり離したりしながら、サイズを確かめてくれているタローさん。
「あー……。鉄製の物は置いてないんだ。町を出て、南東にちょっと行ったところに、工房があって、そこで武器とか鉄製のモンなんかは買えるんだ」
「町の中にはないの?」
「ちょっと前まではあったんだけどなー。なんか、トンカントンカン煩いとか、煙がうざいとか苦情が来たらしくて、おっちゃん怒って町を出ちゃったんだよ」
「……それは……。どちらも気の毒だね……」
「ま、もともとおっちゃんは、キムズカシイ? って言われてたからさ。町を出て、イキイキしてるらしいよ」
「そっかぁ。まだ日数あるし、その内行ってみるよ」
私の肉球をムニッと押しては、爪を出したり入れたりしだしたタローさん。
それ、サイズ確認に必要? 完全に遊んでるよね?
そろそろ、猫パンチしてもいいかな?
「んじゃ、とりあえず今日の所はこのぐらいかな。オカンのコップ代は出来てからの方が良いかな?」
「オカンのは俺からプレゼントでいいよ。ヒビキいっぱい買ってくれたし」
「えっ。それは――」
「こーら! タロー、それはやっちゃダメだって教えてきただろ!」
ヒビキが固辞しようとするよりも早く、ヤリ手婆なドーラおばさんがまったを掛けてくれた。
職人なんだからね。ちゃんと対価は貰わなきゃだよね。
「……地獄耳ー」
ぼそっと呟いたタローさんの脳天に、ドーラおばさんの鉄拳が落ちた。
頭を抱えてのたうってるタローさんを無視して、ドーラおばさんがヒビキをカウンターへ誘導する。
「あのバカに任せてたら、とんでもないどんぶり勘定になるからね。かわりに計算しといたよ。特注のコップ代は、出来上がってからにしておくれ」
「はい。お会計お願いします」
「銀貨1枚と、小銀貨2枚、銅貨8枚だよ」
……全部で1万3千円くらいかな。
木の器だし、妥当な金額っていうより、ちょっとオマケしてくれてる感じがする。
「え! そんなに?! 俺、銀貨1枚いかないと思ってた! やったあ!」
タローさんは、もうちょっと計算の練習しようね。
ほーら、ドーラおばさんが、拳骨に息吐き掛けてスタンバッてるぞ。
危険察知能力だけは高いらしいタローさんは、ヒビキがお釣りを受け取ったのを確認するや否や。
「んじゃ、おばさん! 俺今日はヒビキの案内係りだからさ! またね!」
と、半ばヒビキを引きずるようにして、お店を出た。
「ちょ、ちょっと、タロー、俺まだ商品受け取ってない」
「ぐあ! まじか! オカンのコップできた時に、一緒に持っていくよ」
「……今から戻ったら、絶対拳骨一発じゃすまないし」
「そ……そうだね。お願いするよ」
すっごい音してたもんなぁ。ドーラおばさんの拳骨。
「他に必要なものあるか?」
「んー、そうだなぁ。あとは水筒と、毛布が欲しいな」
「水筒なら、ドニおじさんの所かな。毛布も売ってるよ。んじゃ次はドニおじさんの所へ行こうか」
「頼むよ」
てくてくと1区画を歩きながら、「でもさ~」とタローさんが言う。
「ん?」
「オカンがいるから、水筒要らないんじゃないの?」
ちょーっとまてい。タローさん。
私を水筒呼ばわりは酷いんでないかい?
「水出して貰うのも、魔力使ってる筈だしね。この先何が起きるかわからないし、オカンがしんどい時に、無理に魔力で水だしてもらうのは、可哀想でしょ」
「あー。なるほどぉ」
「タローも、カイに負けず劣らずのおバカよね」
黙って聞いていたピーちゃんが参戦しだして、精神年齢が近い3人組が、わいわい言いながら、ドニおじさんのお店に着いた。
ドニおじさんのお店は、皮と布の洋服をメインに置いてる店らしく、水筒と毛布は1種類しか置いてなかったので、さくっと買って出てきた。
「他に買いたいものとか行きたい所はあるかー?」
「んー。今日はもういいかな。荷物持ってるし。タローも、牛のお乳でチーズ作りしなきゃでしょ?」
「うっわ。お見通しかよ」
「うん。タローん家で、食べさせてもらったチーズ美味しかったから、買いたいんだ」
「おぉ。そんなん言われたら、張り切って作るしかないじゃんかー」
にこにこ笑うヒビキの脇腹を、肘でうりうりと押して照れてるタローさん。
褒められて伸びる子だな。
「んじゃ、戻ろうか」
「いや、今日からは、ちゃんと宿屋に泊るよ。ハナコさんとも約束した? っていうか、されられた? し」
「あー。ハナコさん喜ぶよ」
ハナコさんの宿屋は、ドーラおばさんの食器屋の3件隣にあるらしく、またワイワイと騒ぎながら来た道を戻る。
宿屋は、ハナコさんのご両親が経営しているらしく、看板娘なハナコさんは、ちょっとしたアイドルらしい。
1階は食事時は食堂で、夜は酒場になっていて、客室が2階にあるらしい。
あまり旅人が来ないキプロスの町なので、2階が使われる事は少ないらしく、”おもてなし”は覚悟しとけよー、とタローさんが云う。
やめろー。フラグを立てるのは、やめろー。
ドニおじさん「え? ワシの出番もう終わり?」




