48.仲間になりたそうにこちらを見ている ⇒する ⇒しない
ホットドックもどきは存外美味しかったらしく、追加でもう一本ずつ食べる男子3人組。
……どこの世界でも成長期の子供の胃袋って底なしだな。
「そういえば、カイはなんで何も食べてなかったの?」
雑談まじりで2本目を食べ終わり、カイ君が落ち着く頃合いを見計らっていたヒビキが尋ねた。
「『賭博の街』でさぁ、有り金全部やられちゃったンだよ~」
「え?」
「ぶははは。お前バカだなー」
爆笑しているタローさんに、むっとした視線を向けて、ベーと舌を出したカイ君。
「ヒビキ、”どっちだゲーム”って知ってるか?」
「ん? どういうゲーム?」
「コインをな? どっちかの手で握るンだよ」
「うん」
「ンでな、どっちの手に入ってるか、当てるンだ」
「うん」
「当たったら、コインを握ってたやつの負け。勝った方が、賭けてたもンを貰える」
「……うん」
「最初はなー。連勝だったンだー。でも、負けだすと、意地になるだろ?」
「…………うん?」
「気が付いたら、有り金とお宝まで無くなってたンだぁ! もう一回やれたら、絶対取り返せたのに!」
「うーん……」
「ぎゃははは! それはありえないー。父ちゃんが言ってたぜ、『賭博は、”もう一回だけ。次は勝てる”って言い出すと、絶対勝てない』って」
ぐあああああ、と頭を抱えて悔しがるカイ君。
んーと、カイ君が、ギャンブル依存症の人と同じ思考回路になってるのは、確かだな。
「賭博は、ほどほどにした方がいいよ。それ、カモにされてたと思うよ」
「そーなンかなー? 次やったら勝てると思うンだよなー」
「無い無いないナイ。それは無い」
「カイはさ、これからどうするつもりだったの?」
「この町で仕事探して、お金溜めて取り戻すつもりだったンだけど、どこも雇ってくれなくてさ」
「あー、お前バカっぽいもんなぁ」
「うっわ、ひでぇ。否定しないけど!」
タローさんとカイ君が、じゃれているのを見ながら、ヒビキが何か考えている様子。
「ちょっと、ヒビキ。カイにお金渡そうとか考えてないでしょうね? いくらアンタが甘ちゃんでも、駄目だからね?」
「わかってるよ。それはカイの為にもならないからね。何か仕事を紹介できないかなと思ったんだ」
「……なら、いいわ」
「真面目に働くんならさ、領主様の所へ行ってみろよ。絶対助けて下さるぜ?」
「そーなンか? でもなぁ。……なぁ、ヒビキって『動物使い』様なンだろ?」
「……そうだけど、なんで知ってるの?」
「あちこちで噂になってるから。変な猫と、可愛い妖精つれた『動物使い』様が町に来た、って」
へ、へ、変な猫ぉおおお?!
酷い!
ショック受けてる私を、ピーちゃんがドヤ顔で見てくる。
こっち見んなっ。
「なぁ、ヒビキ。俺を旅のお供にしてくれよぅ」
「え」
「俺、ちょっと馬鹿だけど、腕力あるし。すばしこいし、雑用でもなンでもするからさ!」
「うーん」
「なぁ、頼むよう。『動物使い』様のお供になれたら、俺をバカにしてた奴らを見返せるしさ」
「俺の仲間になったからって、それは無理だと思うよ?」
「カイは、ちょっとどころじゃないバカだろ。賭博で身ぐるみ剥がされてるんだから」
「うっさい、タローは黙ってろー」
「なぁ、ヒビキ。”どっちだゲーム”やろうぜ! 俺が勝ったら仲間にしてくれよ」
「……いいよ。そのかわり俺が勝ったら、カイは領主様にお願いして真面目に働くんだよ?」
「わかった!」
ヒビキが小袋から銀貨を一枚取り出して、右の手の平の上に載せる。
そのまま、両手を後ろに回して、銀貨を移動させて。
「はい、どーっちだ!」
カイ君が、目の前に差し出された、ヒビキの両の拳をじっと睨む。
「こっちだ!」
ヒビキが指定された左手をクルリと上向きに回して、手を開く。
「……ナイ……」
耳と尻尾をしゅんと垂れ下がらせて、落ち込むカイ君。
続けて、右手もクルリと動かして、開いて見せるヒビキ。
「え?! 無い!!」
ヒヒキの手には、どちらにも銀貨は入っていなかった。
「カイがね、途中から負けっぱなしだったのは、多分こういう事だと思うよ」
「えー! ズルだ! ズルだ!」
「うん。でもね、本物の賭博師はこう言うらしいよ。『バレなければイカサマではない』って」
「つまり、あれだな。騙されたカイがバカって事だ」
「だって、俺と勝負してたのは賭博師じゃなくて『勇者』様なンだよ……」
「「「えっ?!」」」
ヒビキとピーちゃんとタローさんが綺麗にハモった。
イカサマ賭博する『勇者』ってどーいう事?!
2年ほど前に『賭博の街』に現れた『勇者』は、街の人々に勝負を吹っかけては、荒稼ぎしたお金で豪遊しているらしい。
魔素が濃くなってから、すでに7年は経ってる筈だよね?
『賭博の街』で豪遊してる場合じゃないんじゃないの……?
竜王まだ倒してないよね? 一体どうなってるの?
「……とにかく。カイは負けたんだから、ちゃんと働くんだよ」
「ううぅ~。判った。勝負だからな。領主様の所へ行ってくるよ」
「付いて行こうか?」
「ううん。いい。そこまでヒビキ達に頼れない」
「そっか。んじゃ、これ」
カイ君に銀貨2枚を渡すヒビキ。
「え! いいよ! そこまでしてくンなくていいよ!」
「勘違いしないで。これはあげたんじゃないよ。貸しだ。領主様にお仕事貰えても、当面食べていくお金は必要だろ? ちゃんと稼いで返しに来てよ」
「ほンとありがとな、ヒビキ!」
ぴょんと跳ねて、領主様のお館へと駆けてゆくカイ君。
だいぶ離れてから「また勝負しような! 俺が勝ったら仲間にしてくれよなー!」と叫んでいる。
「あの子、まだ自分がなんで負けたのか判ってなさそーよね」
「……だね」
「ほんとにバカなんだな」
カイ君が銀貨を返しに来てくれる事は……あるのかな?
「聞きそびれてたんだけど、カイって何族なんだろ?」
そういえば、この町に来て獣顔の人見たのは初めてだな。
「コボルト族だと思うわよ」
「俺も初めて見たかも。『王都』とか『賭博の街』には色んな種族が居るらしいけど、『キプロスの町』は田舎だし、この先も『妖精の森』があるぐらいで、めぼしいダンジョンもないから、あんまり外から人が来ないんだ」
「だから余計に『動物使い』が珍しがられてるんでしょ~ね」
「ピーちゃん、コボルト族ってどんな種族なの?」
「んーと、2番目の『勇者』に村を焼かれた種族だって言われてるわ」
「「えっ」」
コボルト族は山奥のダンジョンを守っていた種族なので、あまり町や王都と流通がなく、自然の恵みと時々くる行商だけで生活をしていたらしい。
だから、贅沢で派手好きな2番目の『勇者』とは、ソリが合わなかったのだろう、と。
「すばしこい種族だから、半数は逃げ延びたらしいんだけどね。『勇者の怒りを買った罪』って言いがかりをつけて捕獲された人達は、『王都』で奴隷にさせられたの」
「……ひどいな。なんで2番目の『勇者』は村を焼いたの?」
「んー。詳しい事は伝わってないんだけど、何か”勇者を侮辱した”と言われているみたいよ?」
「どうせ、贅沢な”おもてなし”が出来なかったとか、そんなくだらない理由だろーけどな」
竜王を屠龍する為に、まず竜王の根城まで行く必要があるのだが、辿り着き方のヒントは各地に散りばめられているらしく。
だから各地を旅してヒントを集めるんだけど、2番目の『勇者』は行く先々でトラブルを起こした伝説が残っているらしい。
3番目の『勇者』様が、「竜王を倒した後、コボルト族を奴隷から解放する」と言ってたんだけど、屠龍後、戻ってこなかった、と。
4番目の『勇者』も、最低な話を聞いたばかりだし、”のんびり美味いもん巡りな異世界珍道中”が駆け足で遠のいていく気がした。




