47.モフモフさん登場
妖精にミルクやお菓子などをあげて、お礼に銀貨を貰える話は有名だけど、実は毎回貰える訳ではないらしい。
運よく貰えた時も、”何処からともなく”出して渡してくれるので、空間に穴を開けて出し入れしている事は、あまり知られてないのだと、店主のお爺さんが教えてくれた。
やらかしおったー。
うちのガイドさん、やらかしおったー。
「あの、お爺さん、タローさん、ピーちゃんの収納の話は、どうか内緒にして下さい」
「『空間収納』をまさかこの目で見られる日が来るとは思わなかったよ。妖精の怒りを買うほど愚かではないからね。お願いされなくても、言わないよ」
「俺も! 俺も!」
店主のお爺さんは大丈夫そうだけど、タローさんは怪しいなぁ。
ハナコさんあたりにペロッと喋りそう……。
「さ……さぁ! 次はタローさんのお店に行きましょう!」
誤魔化しきれてないよ、ピーちゃん……。
”妖精の専門店”を出ようとすると、なにやら揉めている声が聞こえる。
野太い声の男性が、少年に怒鳴りつけていた。
「喰いたきゃ金を持ってこい!」
「お願いだよぅ~。もう、三日も何も食べてないンだ。きれっぱしで良いから、分けておくれよぅ」
細長いパンにソーセージのようなモノを、挟んで売っている露店の店主と、その店主の足にしがみ付いているのは……。
犬かな? 狼かな?
青っぽい毛並みに覆われた顔。
頭のタテガミだけは白銀で、ぴんと立った耳。
柴犬と狼を足して2で割ったような、人懐っこさを感じさせる顔立ち。
黒くて麻呂っぽい眉毛が八の字に垂れ下がっていて、なんとも庇護欲を掻き立てられる。
緑の芝生色のコートの裾からは、もふもふとしたキツネのような尻尾が、ぺたりと下を向いていた。
モフモフ好きのヒビキは、”見なかった事”には出来ないんだろうな、と思っていると。
案の定、カバンからお財布にしている小袋を取り出していた。
「ちょっと、ヒビキ。いちいち助けてたらキリがないわよ」
ピーちゃんが耳元でたしなめるが「ごめん、今回だけ。お願い」と小声で答えて、どんどん露店に近付いて行く。
「ちょっと小腹が空いちゃって。タローさんも食べる?」
「お。いいのか? 領主様のお昼ご飯、美味かったけど量が少なくて、ちょっと足りなかったんだ」
「おじさん、3つ下さい」
「まいどあり。1個銅貨5枚だよ」
小銀貨2枚を渡して、銅貨5枚を受け取っている。
1個、500円ぐらいかな?
紙に包まれたホットドックもどきを受け取ると、一つをタローさんに渡して、もう一つをしょんぼりしているモフモフさんに渡した。
「いいのか?!」
「君に似た人を知ってるから、ほっとけなくて」
「ありがとー! お前、良いヤツだな!」
千切れんばかりに、ぶんぶんと尻尾を降って喜ぶモフモフさん。
ヒビキさんや、もしかしなくても、”似た人”って小学4年生の時に、河川敷に秘密基地を作って、お友達4人で匿ってたワンコの事だよね?
秘密基地が見つかって結構な問題になって、しばらくウチで預かる事になったけど。
何度叱っても、こっそり自分の部屋に連れ込んで、一緒に寝ようとするぐらい、可愛がってたっけ。
引き取り先が見つかってお別れしてから、それは寂しそうにしてたもんね。
……確かに似てるなぁ。
道の端の人通りの邪魔にならない位置に移動してから、パクつく男子3人組。
「うっま! ソーセージうっま!」
「わっふ、わふわふ」
モフモフさんが、喜びすぎて犬みたいな発音になってる。
「これ、小さい妖精達好きかなぁ」
……ヒビキさんや、昨日出発したばかりだから、まだお土産買うのは早いのではなかろうか。
「オカンとピーちゃんも食べる?」
「いらない」
「にゃうにゃう」
首を横に振って答えると、「美味しいのにー」と云って少しむくれていた。
「……んっぐ! ふぐぅ!」
口いっぱいに頬張っていたモフモフさんが、喉に詰まらせたようだ。
「カイ! 大変! オカン、水出して!」
肩で寛いでた私の両脇をムンズと掴んで、モフモフさんの前に差し出された。
右手を差し出して、今朝のうどんよりすこし太くなった水を出す。
……なんか、私の扱いが雑ー。 そして、ヒビキさんよ、カイはワンコの名前だ。
私の手から水道のように流れ出る水を、かぶりつく様に飲んだモフモフさん。
「ぶはー! 死ぬかと思った!」
「急いで食べなくても、誰もとらないよ」
私を肩に戻しながら、すごい良い笑顔でモフモフさんを見るヒビキ。
さっきから、右手がちょっと前に出ては元の位置に戻って、を繰り返してるので、さぞやもふりたいのを我慢しているのだろう。
「久しぶりの飯だったから、焦っちまったンだよー。あと、何でお前俺の名前知ってンの?」
「えっ。君もカイっていうの? 俺の”似てる人”ってのがカイって名前だったんだ。さっきは焦ってたから、つい口に出ちゃったんだ」
「不思議な事もあるんだねー」
男子3人組がそれぞれ名乗り、下の名前で呼ぶことにしたそうだ。
なんか、ヒビキが同級生のお友達とじゃれあってた時みたいで、和むなぁ。
いつもお読み頂きありがとうございます。
構想時、カイ君はホビット族として出す予定だったのですが。
”ホビット族”って有名な指輪物語の作者様の造語らしくて、びっくりしました。
普通の小人族との違いを知ろうと検索かけてなかったら、危うく使っちゃう所でした……。
使っている言葉の中に、商標登録されている言葉が混ざっていると怖いな、と思いまして。
もし、お気づきになられた方がおられましたら、お知らせ頂けると幸いです。




