46.タローさんのお店になかなか辿り着けません
(お主の失態じゃからな。お主自身の手で、呪いを解除してゆくのじゃぞ? 一体一体、心をこめて、な)
ククク、と笑いながら、赤煙女神様が石の中に戻って行った。
カチリと音がした途端、スルリと領主様の指から指輪が抜け落ちる。
ドッと疲れが出たようで、深い溜め息を吐いた領主様が姿勢を崩した。
「ピーちゃん、領主様に”スペシャル”食べて貰ったら元気でるかな?」
「そうね。長期間の睡眠不足と、継続的な魔力不足と……あと、濃くなった魔素の影響も受けてるみたいだから、効くわよ」
領主様の掌に妖精のキノコを乗せたヒビキが、妖精の王様の粉を降りかける。
「お皿じゃなくてすみません。元気が出ますので、食べて下さい」
「ど、『動物使い』様、こんな高価なものを、良いのか?」
「まだ沢山あるので、お気になさらず。あと、ヒビキで良いですよ」
遠慮がちに口に入れ、すぐにすっごい良い笑顔になって咀嚼しだした。
なんの味がしてるのかな?
食べたいモノの味がするって、今更ながらすごい事だと思う。
妖精キノコを呑み込んだ領主様が、しゃっきりと背筋を伸ばしてから、深々とヒビキにお辞儀をした。
「ちょ、ちょっと領主様、頭をあげて下さい」
「ありがとう、ヒビキ。妻が石像になった原因は、指輪だろうとは思っていたのだが。まさか言い伝えの肝心な部分が抜けていた為に、女神様の怒りをかっていたとは、思いもしなかったよ」
「ほんとバカな一族よね! 町に居た時は気付かなかったけど、指輪に近付くほど、女神様の怒りが伝わってきて、焦ったわ」
ぐぅの根も出ない領主様は、ピーちゃんの毒舌にも苦笑いで返している。
宝石といえど、女神様が宿っているので、”生きている者”という判定になるって事だろうな。
きっとヒビキは、この部屋にはいった時から、領主様の指輪が話しかけてくる声が、聞こえていた……と。
ピーちゃんは、妖精だから女神様の気配とかを感じられる訳で。
……私だけ何にも判って無かったって事かぁ。なんかちょっと役立たず感が半端ないなぁ。
「さっそく試しても良いかな?」
三人で頷いて見せると、早足で一番近くに生えていた奥様の石像近づき、震える指で指輪を嵌めた。
タローさんのお家で見た時とは逆回しな感じで、奥様の石像が足元から床に沈んで消えて行く。
頭の先まで消えた後には、指輪がキラリと煌めいて残っていた。
「これを……あと2189回か」
領主様が遠い目をしながら呟いてるけど、仕方ないよね。
愛する奥様の為だから……まぁ、頑張ってね。
女神様を旅にお連れする約束しちゃったから、奥様の本体が戻るまで次の街へは行けなくなっちゃったなぁ。
1日100体戻せたとしても、21日……。
領主様のお仕事もこなさなきゃだろうし、タローさん家みたいに、お家の中まで入ってとなると、1か月は見た方がよさそうだ。
パン、パンと領主様が手を叩くと、使用人の方達と、タローさんが入室してきた。
「少し早いが、昼食にする。用意してくれ」
ヒビキが用意されたお茶に口を付けていると「今の内に少しでも進めたい」と云った領主様が、大広間内にある奥様像に、指輪を嵌めては消してを繰り返してゆく。
一体一体、ゆっくりと床に沈んで消えるのを待つ必要があるので、サクサク進まないのがもどかしそうだ。
それだけ女神様の怒りが大きかった、って事かな?
にしても、あれだけ毛嫌いしていた男の人の指に、6年間も嵌り続けてでも怒りを優先する、ってだいぶ怖い。
一緒に旅に出たら、怒らせないように気を付けよう……。
◆
お昼ご飯を頂いた後、『館に泊ってくれ』と申し出て下さった領主様に、丁寧にお断りして館から出てくる。
「朝市、終わっちまったなぁ」
「しばらくこの町に滞在する事になったので、明日にでも行ってみますよ」
「おっ。そうなのか! んじゃ結婚式にも出てくれよな!」
「来月でしたっけ?」
「っていってもあと20日ぐらいかな」
「それなら、大丈夫そうです。是非参加させて下さい」
「やった!」
領主様の館には4つの城門があるので、町のどの区画にも素早く行けるようになっていた。
今は、第一区画と第二区画の間にある大通りを歩いている。
朝市は、この大通りの二区画側に出るらしい。
朝一番にとれた新鮮な野菜や、王都やほかの街から来た行商が並ぶ事もあるそうな。
前の世界でもフリーマーケット大好きだったので、かなり楽しみだ。
「ちょ、ちょっと! ヒビキ、あそこ! あのお店入りたい!」
「いたたたた! ピーちゃん、判ったから耳ひっぱらないで!」
ピーちゃんが入りたがったお店の看板には……。
看板……読めない!
ちらりとヒビキを見ると、やはり読めないらしく、額に手を当てていた。
「ピーちゃん、何のお店って書いてるのかな?」
「ヒビキも看板読めないのかー! 俺も! 俺も!」
「……アンタ達……。アタシがみっちり教えてあげるからね」
素直にうなずくヒビキと、ムンクの叫びのような顔になっているタローさん。
「アレはね、”妖精の専門店”って書いてるのよ。」
妖精が売られているのかとびっくりしたが、なんのことはない、妖精サイズの小物や家具なんかが揃えられているお店だった。
魔素が濃くなる時期以外なら、妖精と会える事も多いらしく、妖精サイズのコップでミルクやおかしをあげると、大層喜ばれるらしい。
「俺の家にある妖精サイズのコップ、母ちゃんがここで買ったって言ってたよ」
「大きいお姉ちゃん達が、キプロスの町にある”妖精の専門店”には可愛い雑貨が置いてあるって、お話ししてくれてたから、ずっと来てみたかったのー!!」
あれも、これも、買って買ってと飛び回って喜んでいるピーちゃん。
コップにお皿は判る。うん。必要だよね。
ロココな椅子にテーブルに、寝椅子に天蓋付きのベッドって、それ本当に必要?!
「ピーちゃんは優秀な旅のガイドさんだからね」
なんて言って、望まれるがまま買ってあげているヒビキ。……甘いなぁ。
それにしても、ここに並んでる商品みんな可愛いなぁ。
シルバニアな家族シリーズがおもちゃ屋さんに並んでいるのを、見ているだけでほっこりしていた事を思い出してニマニマしていると。
「全部で銀貨5枚と小銀貨5枚だよ。沢山買ってくれたから、テーブルクロスはオマケでつけといたよ」
どうやらお会計が終わったようだ。
って!
ちょっとピーちゃん何してるの!?
店主のお爺ちゃんから商品を受け取ったピーちゃんが、空間収納にぽいぽいとしまいこんで、ほくほくしながら顔を上げ……。
空間収納を見て、ビックリしている店主とタローさんの顔を見。
”やらかしおったー”という顔になっている、私とヒビキを見。
「えーと、てへぺろ?」
この、おバカ娘ー! できるだけ目立たず旅をしようって最初に云ったのはピーちゃんでしょー!
いつもありがとうございます。
2つ目の目標だった10万字まであと少し!
50話までには達成できるように頑張ります。




