42.町の人たち
「区長さん! ”ミニヨン”が家出したってどういう事?」
タローさんが、ぽっこりとしたお腹の男性に問いかける。
「朝、領主様の館から使いが来たんだよ。見つけたら知らせて欲しいと。原因は判らんらしい。ちょうど『動物使い』様が、タローの家にお泊りになった、って報告も入ってたのでな。急いで来たんだ」
領主様は頻繁に町を視察しては、改善点などを聞いて回ってくれるので、町の人からの信頼が厚い方らしい。
さらに視察の時には、喋るオウムの”ミニヨン”を連れているので、子供たちにも人気があるという。
「どんなオウムなのですか?」
「30センチぐらいの大きさで、冠羽と尾羽が黄色なんですよ」
「あと、白い体に頬っぺたはオレンジ色で可愛いんだ」
説明してくれたタローさんとハナコさんが、ねー、と顔を見合わせて微笑みあっている。
……仲良いなぁ。
「『動物使い』様は何か知りませんか?」
「すみません。昨日この町に着いて、タローさんのお家以外知らなくて」
昨日の今日で、領主様のオウムの動向まで知ってたら、その方が怖かろうと思うのだけれど、よほど慌てていたのか、区長さんは今頃その事に思い至ったらしい。
「あっ。そ、そうですよね。私とした事が、少々慌てていたようです」
「何か判ったらお知らせしますね」
「宜しくお願いします。タロー、『動物使い』様に町を案内して差し上げるのだよ」
「そのつもりだよー」
区長さんはぺこりとお辞儀をしてから、今度はそっとドアを閉めて出て行った。
「私も一緒に町を案内したいけれど、宿屋の手伝いがあるから、戻るわね。『動物使い』様、今夜は是非うちの宿屋に泊ってくださいね!」
「いえ、あの早めに――」
――この町を出るつもりです、と続いたヒビキの言葉は、さっそうと出て行ったハナコさんには、届かなかったようだ。
基本的にせっかちな人が多い町なのかな?
「じゃあ、そろそろ朝市が出る時間だし、ヒビキさえよかったら今から町を案内するぜっ」
「タローさんのお仕事は大丈夫なのですか?」
「牛の乳が出なかった間、いっぱい納品してあるし、大丈夫! チーズ作りは明日から再開するよ」
「ありがとう。それでは、お願いします」
キプロスの町を囲んでいる城壁は全長3キロほどで、緊急時には城壁の上を、歩いて移動する事もできるらしい。
中心にある領主様のお館から、城壁へ向かうようにして、大通りが十字に伸びていて。
町はその大通りによって、4つの区画に分断されていているらしい。
東側にある1区画と2区画には、宿屋や教会・商店が立ち並び、西側の3区画と4区画は、主に居住区に充てられ、人や家畜などがいる。
タローさんの家は3区画にあり、商品を置いている店は1区画にあるという。
朝市は、2区画にあるので、町を見物しながらぐるりと回り、タローさんのお店へ向かう事になった。
……なったんだけど。タローさんの家を出てから、なかなか進まない。
会う人会う人『動物使い』様~と駆け寄ってきては、ペットや家畜を見せてきて、相談されるのだ。
鳥かごの中の文鳥を見せながら村人が云う。
「『動物使い』様、うちのブンタロウが、時々噛んでくる時があるんです」
「餌がまだあるように見えても、粟の殻だけの事が多いので、もっと小まめに補充して欲しいそうですよ」
じたばたと暴れる黒猫を、逃がすまいと悪戦苦闘している村人が云う。
「最近、全然ネズミを捕まえてこないんですよ」
「……3歳の娘さんが、ごはんを分けてくれるので、満腹で動くのダルい、そうですよ」
「……そ、それは……何を分けてくれると言ってますか?」
「ピ、ピーマンとか……ニンジンとか……最近では協力してくれたお礼? に、生クリームもと云ってます」
「ぬあぁぁぁ! 好き嫌いが無くなったご褒美に、ケーキ買ってあげたばかりぃぃぃ!!」
バケツの中に土を入れている少年が云う。
「『動物使い』様、ぼくの蟻さんが、ちっとも巣を作らないんだ。観察したいのに」
「……働いたら負けだ、といってます」
数歩ごとに、こんな会話が繰り広げられるので、ホント進まない。
ってか、 ピーマンとニンジンのお子さん、後ですっごい怒られるんだろうなぁ……。
「言葉が判るって、楽しいね」
「そうね~。2番目の勇者の時は、こっちの言葉が判らなくて、しょっちゅう癇癪起こしてたらしいわよ」
「えっ?」
村人の対応をするヒビキの肩の上で、ピーちゃんと雑談していたのだが、驚いたヒビキが参加してきた。
「えっ。2番目の勇者って”こっちの人”じゃなかったの?」
「なんだぁ、ヒビキ。知らなかったのか? 2番目の勇者も3番目の勇者様も、神様から竜王を倒す為に呼ばれたらしいぜ」
だからピーちゃんも女王様も、ヒビキが神様に呼ばれてきたって知った時に、全く驚いてなかったのか!
いつもお読み頂きありがとうございます。
名前に困った時って、外国語の辞書を引くのですが。
”ミニヨン”ってフランス語で”かわいい”って意味らしいですね。
黄色いあのキャラクターって、そこから名前付いたのかしら! なんて一人で興奮して、じゃあドイツ語は?と思って調べたのですが。
「hübsch」……何度聞いても「はくしょん」にしか聞き取れませんでした。




