41.涙の訳
タローさんが泣いている。
嗚咽を漏らしながら。
え? 呪いとか暗示が解けると、泣いちゃうものなの?
「か……母さんのシチューの味がするっ……」
あー……。食べたい物の味がするキノコだもんね。
ご両親が亡くなったのは8年前って言ってたし、タローさん二十歳行くか行かないか、ぐらいにしか見えないし。
12歳前後で一人ぼっちになったんなら、そりゃ思い出したら辛いよね……。
「ピーちゃん、妖精のキノコって何日ぐらいモツのかな?」
「んー。外に出してる状態なら、1週間ぐらいかな」
「タローさんに別けてもいいかな?」
「ヒビキの物なんだから、好きにしなさい」
「ありがとう」
トー爺さんに作ってもらった袋に、あらかじめ移し替えていた妖精キノコを、20個ほど取り出してタローさんに渡したヒビキ。
「あの、よかったら、これ」
「い”ぃのがぁ~? ありがどぉ~」」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃのタローさんが、泣きながら受け取っている。
病気で亡くした時って、もっと何かしてあげられたんじゃないかって、ずっと想いを引きずる事が多いと思う。
長い入院生活を支え続けたのなら、その間に徐々に心に折り合いもつける猶予ができるけど……。
流行り病は、得てして進行が早く、身も心も右往左往している間に亡くなっている事が多いと聞く。
お母様の思い出の味を食べて、少しでも元気がでるといいな。
「……かお……洗ってくる」
鼻水をすすりながら、タローさんが台所へと歩いていった。
「タローさん、元気でると良いね」
「にゃう」
「そうね。あと……。あの様子だと、呪いとか魅了なんかの、状態異常にもかかって無さそうよ」
「ほんと? それは良かった」
3人でしんみりしていると、バァン! と玄関のドアが開く。
入ってきたのは、赤い髪をおさげに編んで、モスグリーンのワンピースに白いエプロンを付けた、元気の塊! という雰囲気の女性だった。
「ちょっと! タロー! 『動物使い』様が貴方の家に泊ったって聞いたけどほん……と……うみたいね」
ドアを開けた勢いのまま捲し立てながら、ヒビキの姿を見つけて、尻すぼみになっていくお姉さん。
おっちょこちょいだ。私と同じ匂いがするー。
「あ、いらしてたんですね。『動物使い』様」
「ヒビキで良いですよ。初めまして」
「あ、私はハナコって言います。はじめまして」
ん? ハナコ?
「……ハナコ……さん?」
「ええ、牛じゃない方のハナコです」
くくくっと笑いながらハナコさんが続ける。
「タローってば、私の事が好きだったらしくて。牛に私の名前を付けてたんですよ。バカでしょう?」
「え……えと、あはは」
答えにくい質問をしてきたハナコさんは、言い淀むヒビキにお構いなしに話しを続ける。
「タローはどこですか?」
「……えと、台所にいます。でも、今は……」
男子たる者、好きな女の子には泣き顔をみせるのは恥ずかしかろう。
ヒビキもその辺りを心配しているみたいだったが、タローさんの方が勢いよく台所から飛び出して来た。
「ハナコさん!」
泣いていたのがバレバレの、真っ赤な目をしているタローさん。
「タロー、あんたまた泣いてたの?」
「うん。ヒビキ……『動物使い』様に頂いた妖精キノコで、母さんのシチューを思い出しちゃって」
「……ばかね。おばさんの料理は全部私が受け継いでるんだから。それに、来月からは毎日食べられるでしょ」
「そうだね。うん。俺は幸せだ……」
おーい、そこのバカップルー。
ここに置いてけぼりになっている『動物使い』様がいますよー。
手を取り合って、見つめあっているお二人様が、『動物使い』様の視線に気づいて、ぱっと手を離した。
「す、すみません。『動物使い』様。タローってばホント泣き虫で」
「ご、ごめんな。ヒビキ、取り乱しちまって」
「いえいえ」
なんとなく流れ始めた気まずい空気をかき消すかのように、タローさんが叫ぶ。
「俺達、来月結婚するんですよ!」
……うん。話の流れでなんとなく察してた。
「おめで――」
ヒビキがお祝いを云おうとした矢先、再び、バァン! と玄関のドアが開く。
……この村には、ノックをするという概念はないのかぁぁあ!
「タロー大変だ! 領主様のオウムが家出したらしい! お前ん所に『動物使い』様が泊まったって聞いてきたんだけど……本当か……って、いらしてたんですね」
ピーちゃん「母さんのシチューって、聞きようによっちゃお母さん”が”入ってるシチューって意味にも受け取れるよね」
オカン「怖い事いわないでー」




