40.本日のお料理は、”妖精のキノコ・王様の粉スペシャル”かけです
【朝が来たー】
【朝だー】
【産むぞー張り切って産むぞー】
【今日は産みませ~ん】
遠くの方で、鶏の声とかすかに鐘の音が聞こえて目が覚める。
一羽が鳴き始めると、他の鶏も騒ぎはじめるので、結構煩い。
鶏同士で話し合って、日替わりで一羽ずつ鳴くようににすればいいのにー。
木枠の窓の隙間から刺す朝日が、まぶしくて目を細めていると、ピーちゃんも起きてきた。
「おはよう」
「おはよ~」
隣の部屋でも物音がしだしたので、タローさんも起きたのだろう。
先に下に降りて、朝ご飯の用意をされてしまうと、”妖精のキノコ・王様の粉スペシャル”を食べさせて、暗示の有無を確認できなくなってしまう。
早くヒビキを起こさないと。
肉球で、ヒビキの頬っぺたをポンポンと叩く。
にんまりされた。
ポンポポンポとちょっと激しめに叩いてみる。
ぐわっと腕が伸びてきて、捕まえられた。
もふもふの腹毛に顔をうずめて、にんまりされる
……起きる気ないな。
ヒビキに捕まったまま、ピーちゃんと視線を合わせ、ニヤリと頷きあう。
自由になる右手を、ヒビキの顔に伸ばして……。
(いでよ水魔法!)
じょーーーー!
昨日の素麺よりも少し太めの、うどん程度の太さの水が出た!
「ぶっは! げほげほ!」
起きた。
飛び起きたヒビキに放り投げられたけど、猫ですし。華麗に着地して、ピーちゃんとハイタッチ!
「ヒビキ! とっとと起きて! タローさんに”妖精のキノコ・王様の粉スペシャル”食べさせるわよ!」
「……もうちょっとソフトに起こせないの?」
ジト目のヒビキが見つめてくるけど、最初は優しく起こしたもんね。
「何言ってるのよ。オカンが何度もポフポフして起こしたわよ。アンタにんまりするだけで、起きなかったんだから!」
「そ、そっか。ゴメン」
口達者なピーちゃんに、速攻で言いくるめられるヒビキ。
それでいいのかヒビキさん……。
いくら起きなかったからって、水攻めはなかろうて。
自分がやった事は棚に上げて、ヒビキの純粋さというか、単純さというか……に、以前と変わらない所を見つけられて、ホッとしたような心配なような……。
まぁ、そんなすぐに変わらないよね。
◆
廊下に出てタローさんの部屋の前に来たけれど、中に人の気配はしない。
どうやらすでに1階に降りているようだ。
少し急いで1階に降りて行くと、台所で顔を洗っているタローさんが居た。
先にハナコに餌をあげてきたと云う。
「ヒビキ、ありがとな! ハナコ、ホントにお乳が出るようになってたよ」
「それは良かった!」
「朝は絞りたてのミルクと……。何にしようかな。ヒビキ何か食べたいものあるか?と言っても、あんまり大したものはないけど」
「朝ご飯は、俺が出しますよ。ミルクだけ分けて下さい」
「そうかー? お客様なのに、なんか悪いなー」
全然悪そうに見えないタローさんに、食器を渡してもらい、先に用意しておくと伝える。
テーブルにお皿とコップを配膳し、急いで妖精キノコを乗せて、王様の角の粉末をかけておく。
ピッチャーに絞りたてのハナコのミルクを、移し替えて持ってきてくれたタローさんが、「ヒビキ、それもしかして!」と叫んだ。
危うくピッチャーを取り落しそうになったので、慌ててヒビキが支えに行く。
「そうです。好きな味のごはんが食べられますよ」
「おま……そんな高価な物を……」
「ちょうど妖精のお祭りの跡を見つけられたので、今なら沢山あるから。気にしないで下さい」
「あぁ、だから妖精をお供にしているのかー……」
何やら勝手に脳内保管してくれた。
ピッチャーを受け取ったヒビキが、全員のコップにミルクを注いてくれたので、いざ朝ご飯開始。
なんと、ピーちゃんサイズのコップも常備してあった。
さすが妖精の存在を、当たり前に受け入れてる世界の住民だな~、と思いながら、私もコップを両手に挟んで、絞りたてのハナコのミルクを頂く。
「うんまぁ~い!」
「これは良いミルクね! 美味しい!」
「本当だ、すごく美味しい。今まで飲んでた牛乳と全然違う」
絞りたてって、こんなに美味しいのかぁ!
感動しながらコクコク飲んでる私を、タローさんが凝視している。
ん? なぁにタローさん。
「タローさん? どうしました?」
気付いたヒビキが尋ねてくれた。
「ね……猫が、コップでミルク飲んでるっ!」
しまった。普通の猫って、お皿で飲むんだっけ? ペロペロと。
あああぁあぁぁぁ。私の馬鹿! 油断してた!
「オカンは、俺に従属している猫ですから。色んな事が出来るんですよ」
ナイス。ナイスフォローだよヒビキさん。
羽、生えてるしね! そこら辺のニャンコさんとは、一味違っててもおかしくないよね?
「確かに! さすが『動物使い』様のお供だなぁ」
うんうんと納得してくれたタローさんが、”妖精のキノコ・王様の粉スペシャル”を頬張った。
タローさんに気付かれないように観察する。
さぁ、暗示だったら解けるはず。……解けたらどうなるんだろう? タローさんの全身が光ったりするるのかな?
もぐもぐと咀嚼したタローさんの目から、ぶわっと涙が膨らみ、滝のように流れ始めた。
ピーちゃん「妖精のキノコ・王様の粉スペシャルって呼び名長くない?」
ヒビキ「……長いよねぇ」
オカン「スペシャル、でいいんじゃない?」
ピーちゃん・ヒビキ「えー。ださーい」




