4.★冒険のはじまり
FA頂きましたー!!
文中に差し込ませて頂いてます★
ビルの10階程度の上空を、真っ黒で蝙蝠のような翼をもった竜がゆっくりと旋回している。
金色の瞳と、目があったような気がした。
「ぎにゃー!! にゃにゃにゃにゃにゃ!」(おきて! ヒビキ! 竜だよ! 喰われる!!)
大声で叫びながら、未だに幸せそうな寝顔で横になっている息子の頬を叩く。
ぷにぷにとした肉球では大した威力は出ず、むしろ心地よいのか、息子の寝顔がにんまりとした。
(そーいえば、この子、朝が苦手だったよなー)
数歩後ろに下がり、助走をつけて飛び上がる。
(ふらーいんぐ、母ちゃんキック!)
華麗に着地した両足は、息子のみぞおちにクリーンヒットし、「ゴフ!!」と一気に肺の空気を吐き出した息子が飛び起きた。
「母さん! 起こすときはもーちょいソフトにって言ってるでしょう!!」
飛び起きた息子と目があう。
「え…猫?!」
「にゃー! にゃにゃー!!!」(上、見て!)
現実を把握していない息子に、必死で上空を指さして知らせる。ん? 指さして? 肉球さして? 猫の手って何指しになるの?!
おバカな疑問が頭をよぎるが今はそれどころではない。
「ん? 上? 見ろって事?」
ぶんぶんとうなずいて見せると、空を見上げた息子が固まった。
「え…。竜? なんかこっち見てる? え! 喰われるの!? まさかの捕食エンド?!」
さすが親子というべきか。私と同じ言葉を紡ぎながら、むんずと私を掴んだ息子が、立ち上がるや否や駆け出した。
「せっかくの異世界なのにぃぃぃぃぃ! いきなり竜に喰われて終わるのは嫌だぁぁぁぁ!!」
今いる丘を挟んで、煉瓦造りの塀がある町とは真逆の方向の、あからさまにうっそうと茂る森へ向かって全力疾走する息子の手の中で、そーいやこの子、方向音痴だったなーと思う。
ふつーさ、こーゆー時って街のほうへ逃げ込まない?
でもって、冒険者さんたちが颯爽と現れて助けてくれるまでが、セットでチュートリアルでしょう。
もともと餌認定されていたのか、はたまた動くモノを追う習性があるのか。
それまで上空を旋回していた黒い竜が、全力疾走する息子を追いかけるように向かってくる。
「……!!!」
竜が、行く手を遮るように重量を感じさせる足音を立てて着地した振動で、息子の足も止まる。
見つめあう竜と息子。
「目を……そらさずに、そっと距離を……取る」
ブツブツとつぶやきながら、じりじりと後退し、竜と距離を取ろうとする息子。
……落ち着け、息子よ。それは熊と出会った時の対処法だ。
異世界に来ても天然はなおらないものなのね……。そっと心の中で突っ込みつつ、息子と竜を交互に観察する。
何度か瞬きをした竜は、片翼だけでも家一軒分はゆうにありそうな翼を広げ、ふわりと空に舞い上がり、そのまま1度だけ上空を旋回すると、街とは反対の鬱蒼と茂る森の方向へ飛び去った。
「今、竜、笑ってたよね?」
まだ震えが残ったままの私を掴んだ腕を、顔の高さまで持ち上げ、話かけてくる。
「にゃー」
そんなわけないでしょうと思いつつ、あいまいに返事した。
迫力あるドラゴンを描いて下さったのは、『猫屋敷たまる』様です。
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ありがとうございました!!