39.石像は突然に
私とピーちゃんが抱き合って震えている目の前で、みるみる出来上がった石像がこちらを見ている。
石像だから、こっち見んなも何も無いんだけど、目の前で急に出来上がった石像が、こちらに腕を伸ばして、捕まえようとしてるとしか思えないポーズしてたら、ありがたい石像だなんて思えないよね?!
叫び声に飛び起きたヒビキも、寝る前には無かった奥様の石像を見つけて、目を見開いて驚いている。
「……何が起きるか判らないから、二人ともこっちに来て」
すぐに状況把握をして声を掛けてくれたので、急いでヒビキの左肩と右肩へ移動。
即座に結界魔法を張ってくれた。
え? ヒビキさんってば格好よくない? こんなテキパキ動いて判断できなかったよね。
男子三日あわずんばって言うけど、急にしっかりし始めちゃって、なんか寂しいぞ……。いや、今はかなり心強いんだけども。
土魔法の練習で、それっぽいものは作ったけれど、あの時は”近くにある素材”が使われていた。
でも、この石像の周りは木で出来た床やテーブル、ベッドがあるだけで”石”になれるような素材は見当たらない。
土魔法を使いこなすと、その場にない素材でも作れるようになるの?
出来たとしても、そもそもなんで一般家庭の2階に、わざわざ作る必要が……?!
ドン! ドン!
「み”ぎゃーーーー!!」
「いやあぁぁぁぁああああ!!!」
急にドアを激しくノックされた音に、ビビる私とピーちゃん。
ヤメロー。心臓が一人旅に出そうになるから、驚かすのは、辞めろー!
「ヒビキ? 大丈夫か?」
タローさんでした。
そりゃそっか。タローさん家だもんね、ここ。
自分の部屋に、奥様の石像が生えてきたって知ったら、腰抜かすんじゃないの……?
石像を警戒するように、そっとドアの前まで移動したヒビキが、少しだけドアを開ける。
「驚かせてすみません。急に奥様の石像が部屋に出来たので、ビックリしたオカンとピーちゃんが叫んじゃったんですよ」
ヒビキの声に、慌てたように部屋に飛び込むタローさん。
「おぉ!」と小さく叫ぶと、その場にしゃがみ込んで両手を合わせ、祈るような仕草を始めた。
「ありがたい! 領主様、俺みたいな家にも、奥様の像を与えてくれるなんて!」
え? 嬉しいの?
タローさんは、今にも石像に縋り付きそうになぐらい感動している。
あまりの喜びように、異様な感じがする程に。
「頼む! ヒビキ、俺をこっちの部屋で寝かせてくれないか?」
「え。それは、構いませんけど。ご両親の部屋を、俺たちが使っても良いのですか?」
「あぁ、それは構わない。死んだ両親が使っていた部屋だと、嫌かなと思ってただけだから。ヒビキ達さえ問題なければ、是非!」
ヒビキが私とピーちゃんに、確認を取るように視線を送ってくれる。
おっけー、おっけー。全然おっけー。
気持ち悪い石像がある部屋に比べたら、厠でもいいぐらいよ!
こくりと頷いた私達を、了承ととらえたヒビキが「二人も問題ないようです」と返事した。
◆
「あの石像は……気持ち悪い……よねぇ」
「そうだね」
「土魔法の法則も、まるで無視して作られてたし」
「あ、やっぱりそうなんだ?」
「うん。練習した時にも言ったでしょ。そこらへんにある物使って作るって」
「木の像が出来たとしても、気持ち悪いのは変わらないけどね」
「まったくだわ!」
「町を歩いてた人たちも、石像を気味悪がってなかったしなぁ」
「そうね。石像から邪悪な気配は感じないから、悪いモノではないと思うんだけど……」
只今、タローさんのご両親の寝室に移動した私達は、ベッドに腰掛けたヒビキの膝の上に乗っかって作戦会議中……。
「とにかく、ろくな予感がしないから、出来るだけ早くこの町を出るって事にしましょ」
「賛成!」
「そうしよう。明日、タローさんのお店で食器買って、あといくつか必要な物があるから、それも見つかったらすぐに出発しようか」
「んじゃ、しっかり寝て体力回復しなきゃね。ヒビキ、妖精キノコ出して!」
「……ん? 今食べるの?」
「そうよー。妖精キノコに王様の角の粉をかけて食べると、軽い状態異常に効くのよ。今って変に目が冴えてるでしょ? これも状態異常の一種だから」
王様の粉を降った妖精キノコを、食べやすいサイズに千切ってくれたので、パクリと食べる。
成程。気持ちがストンと落ち着いた。これなら眠れそうだ。
「あ、そうだ。ヒビキ」
「ん?」
「明日の朝、これと同じものをタローさんに食べさせてくれる?」
「いいけど、なんで?」
「どう考えても、あの狂信的な崇拝はおかしいわ。もし暗示に掛けられているのなら、正気に戻る筈」
「わかった。やってみる」
やってみるは良いけどさ……。
これでタローさんが正気に戻っちゃったら、町の人全員にキノコ配って周るハメにならないかしら……。町の人、結構な人数いたよねぇ……。
これが二番目のフラグになってない事を祈りながら、眠りについた。
お読み頂きありがとうございます。
王様の角の粉、だと言いにくい気がしたので、王様の粉にしてみたら、なんだかバッチイ感じに……。




