表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/167

38.石像って今にも動き出しそうで怖いよね

 豊かに流れる腰まである髪。

 すっと通った鼻筋。

 豊満な胸を強調したドレス、くびれた腰。

 今にも何かを話し出しそうな少し開かれた口。

 すらりと伸びた両腕は、手を広げて前に突き出していて……見た者を掴み捕らえようとしているようにも見える。


 全く同じポーズ、同じ大きさの石像が、なんの法則もなく町中に散りばめられているのは、不気味すぎる。

 のどかな町の風景との対比が酷い。


「あの、タローさん?」

「ん?なんだい?」

「この、石像はいったい……?」

「あぁ、これはな、領主様の奥様の石像なんだ。8年前、村を襲った病魔を救った奥様の石像だからな。魔除けの効果があるって言って、領主様が町じゅうに置いて下さってるんだ」

「へ……へぇ……」


 魔除けっていうより、魔寄せ効果の方がありそうだけど……。


 学校の七不思議のひとつに、”夕方7時の鐘が鳴ると二宮金次郎が走り出す”ってのがあって、小学6年生まで信じていた私としては、奥様の石像群は恐怖。

 本気で夢に出てきそう。


出来るだけ早く(にゃ~にゃぅ)この町から出ようね(うなにゃ~にゃ)

「ワタシもそう思うー」


 もともとこの町が嫌いなピーちゃんも同意してくれた。


 王様が追い出される原因になった”最初の角”って、ここの奥様が囮になってたんだもんね。

 ……でも、病魔が襲ったって言ってたから、仕方なかったのかもしれないけど。

 この、数え切れないほどある石像は、やりすぎだと思う!

 しかし、石像って結構な重さあるって言うよね。どうやって運んでくるんだろう……。


 はてー……と考え込んでいると、タローさんのお家に着いたようだ。


「先にハナコを小屋に連れて行ってもいいかな?」

「もちろんです」


 タローさんは、ハナコ一匹しか飼っていないらしく、牛小屋は小さ目の駐輪場程度の広さがあるものだった。

 中に入ってギョッとする。


 ハナコが寝床にしているらしき乾草の山に、向き合うようにして置かれている奥様の石像。

 寝床に入ったハナコからしてみれば、小屋にいる間、ずっと奥様の石像が腕を伸ばして自分に向いている訳で。


 ……そりゃストレス溜まるわ……。


「と、とりあえず、手伝いますので、奥様の石像を外に出しましょう」

「ありがてぇ! 結構重いんで俺一人じゃきついんだ」


 二人がかりでもかなりの重さがあるらしく、半ば引きずるようにして小屋の外に出す。


【ありがとう! これでやっとゆっくり眠れるわ!】


 そもそも、ありがたい石像を、なにゆえハナコの小屋に、あんな向きで置こうと思ったのかと。

 この町の不思議な風習に、げんなりしながら小屋を出た。


 タローさんのお家は2階建てで、庭には乾草が山のように積まれている。


「男一人で住んでいる家だから、大したもてなしもできねぇが、是非泊っていってくれ」

「え、でも、ご迷惑では……」

「なーに言ってんだい。『動物使い』様がいなかったら、俺はどこまでハナコを追いかけるハメになったかわからねぇ。町の連中にも、ここに泊って頂くって言っちまったんだから、遠慮なく泊って行ってくれ」


 次に行く所も決まっていないし、あと数刻もすれば陽は落ちるし、お言葉に甘える事にした。


 タローさんのお家は、もともとはご両親との3人家族だったらしく、2階にご両親の部屋とタローさんの寝室がある。

 ご両親は、8年前に病魔が流行った時にお亡くなりになったと云う。


「親の部屋は俺が使うから、『動物使い』様は俺の部屋を使ってくれ」

「あの、ヒビキって呼んでくれませんか? 様を付けて呼ばれるのは慣れてないので、むず痒いです」

「そうかー? じゃあ、ヒビキで。俺も様つけたり敬語で喋り慣れてないから、いつ舌噛むかとひやひやしてたんだ」


 え。敬語なんて一度も使ってなかったよね?

 様を付けるだけで敬語だと思ってたのかな。

 ……この世界には自由人しか居ないのか……。


「じゃあ、寝床の用意するんで、手伝ってくれー」

「はい」


 タローさんのベッドのシーツをめくると、乾草がっ!

 アルプスの少女のベッドだ!

 タローさんのベッドに敷かれていた乾草を、ご両親のベッドに移動させ、庭に置いてあった乾草を、タローさんのベッドに運び込む。

 シーツを上に掛けたら完成!


 あっちの世界にいたら、絶対体験できなかったであろうベッドに、一気に機嫌が良くなった。

 うん。石像は視界に入れなければ良いのだ!

 キプロス最高ー!


 ふっかふかー!


「オカン、楽しいのは判るけど、下に行くよ」


 乾草のベッドを一番乗りで堪能していた私を、ひょいっと肩に担ぐと、タローさんと一階に降りて行った。

 

 タローさんのお仕事は、ハナコのお乳から取ったチーズ作りと、木彫りの食器を売る事らしく、お手製の食器をいくつか買わせてもらう事に。

 共同で開いているお店にしか商品を置いてないとの事なので、明日お邪魔する約束をした。


 妖精キノコがあるから、食べたい味のものが何時でも食べられるとはいえ、こっちの世界ならではのものも、作って食べてみたいもんねぇ。


 夕食には、少し硬い食パンに、とろけたチーズを乗せたものと、トウモロコシのスープを頂いた。

 やっぱり、温かい食事って、それだけでご馳走だね!


 少し早いけど、明日は引っ張りだこになるから、早めに休んだ方がいいと進められて、2階に戻る。

「『動物使い』様の、動物と話せる能力を目当てに、町の人達がペットやら家畜やらを連れて、ひっきりなしに訪問されるだろう」と。


 いろんなペットの気持ちを聞けるのは、ちょっと楽しみだ。

 聞いて町の人にお伝えするヒビキは大変だろうけど。


 妖精の国を出てからずっと魔力を使って飛んでいたし、丘からは一人だけ歩いていたし。

 相当疲れていたのだろう。 

 乾草のベッドの柔らかくて暖かな感触も手伝って、ヒビキがすぐに寝息を立て始める。


 私とピーちゃんといえば、ずっと運動らしい運動もしてなかったので、全く疲れておらず、横になってもなかなか眠れずにいた。


「寝れないねぇ」

(そうだねぇ)

「なんかして遊ぶ?」

(静かにできる遊びならいいよ)


 なにして遊ぼうかー、なんて言いながらベッドを降りる。


 ……降りた前脚の数歩先に、伏せられた平皿のような形の石があった。


(ねぇ。さっきまであんな石なかったよね……?)

「なかったわねぇ」


 嫌な予感しかしないが、その石から目が離せない。


 石が、少しずつ上に伸びて行き……前髪らしき形が見え……眉・目と見えて来る。


 どんどんどんどん石が成長して……町じゅうに乱立していた、奥様の石像がひとりでに完成するのに、ものの数分もかからなかった。


「み”ぎゃーーーー!!」

「いやあぁぁぁぁああああ!!!」


 ピーちゃんと私の絶叫が、響き渡った。


 





誤字ぺったん、ありがとうございます!


『夜になると走る人体模型が一番怖かった』『12時になると目玉が動くベートーベンの絵が一番怖い』『陰ながら応援してるよ!』

と思って下さった方は、広告下の評価欄にある☆を★にして頂けると、大きな励みになっておりますので、是非よろしくお願いします


地域ごとに面白い七不思議があるそうですね。

7つ目を知ったら恐ろしい事が起きるらしいですが、私は3つしか覚えていません……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ラストがホラーッ(゜Д゜;)
[良い点] 奥様の石像群を思い受かべ、 そのあまりの光景に、笑ってしまいました。 毎回毎回、趣向を凝らしたネタの数々に、 楽しい気分にさせられますね。 [一言] そりゃハナコも体調が悪くもなりますよね…
2020/07/26 23:05 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ