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34.『世界樹の種』と不死鳥

 角鯨のエアーベッドのお片付け方法は至って簡単で、中の空気を抜くだけ。

 きちんと折りたたんで空間収納に入れて。

 もじゃ爺三人衆に何度もお礼を云っては「酒な」「キツイやつをな」「樽でな」と返事を返されている。


 睡魔の限界がきたらしいもじゃ爺三人衆が、穴に入っていくのを見送ると、女王様が話し始めた。


「さて。ヒビキ。次はどこに行くか決まっていますか?」

「丘から見えた街に行こうと思っています」

「にゃ~?」

「ん? ピーちゃんオカンなんて云ってるの?」

「『街があるの気付いてたの?』って云ってるよ」


 天界から落とされて最初に目が覚めたあの丘で、竜と遭遇した時に町とは反対側に逃げたのは、町に被害を出さない為だったらしい。

 ……あの時そこまで考えて逃げる方向を決めてたのかと、びっくりした。


「キプロスの町ですね。あの町にはさしたる戦力はありませんから、もし竜が町を襲っていればなす術も無く全滅していたでしょうね」

「ワタシあの町きらいぃ~」


 ピーちゃんが、ヒビキの頭の上のロココな安楽椅子の上で、足をぶらぶらさせながらやさぐれる。


「なんで嫌いなの?」

「8年前、王様の角を切る時に囮になった乙女が、領主の今の奥さんなのよ」


 勇者では無い者が持つ『世界樹のしずく』か、似たような効果のありそうなアイテムを探す旅をしていた時も、キプロスの町は避けていたと云う。


「あの町からは、世界樹の匂いもしなかったしね。わざわざ嫌な奴がいる町に行く必要ないもんっ」

「じゃあ、ここから一番近い町か街ってどこ?」


 ロココな安楽椅子の肘置きにぞんざいに肘を付き、盛大なため息とともに「キプロスが一番近い」と唇を尖らせて呟いた。


「では、そろそろ出発しなければ、閉門する時間に間に合わなくなりますね」


 女王様がふわりとヒビキを抱きしめて云った。


「貴方に沢山の幸運が訪れる事を祈ります。時々は顔を見せに戻って下さいね」

「はい!」



「それから……これを。ヒビキとオカンに一つずつ持って行って欲しいのです」


 ころりと渡されたソレは、クルミのような形をした石だった。


「世界樹の種石です」


 ……これが? どうみてもただの石にしか見えない。


「どういう仕組みなのかは不明なのですが、一人一つしか持てないようになっています。空間収納に入れておけるのも一つだけ。二つ目を入れようとしても、弾かれてしまうのですよ」


「どうしてオカンにも分けて下さるのですか?」

「もし、『勇者』と会う事があれば、どちらかを与えて欲しいのです。世界樹の種石は、()()()が来れば種に戻ると言われています。ただ、どうすればその時が来るのか、何も解明されていません」


 だから、謎を解明できそうな人物に持たせたい、との事だった。


 世界樹は竜のブレスで焼かれ枯れ果てるその刹那、一瞬で咲かせた花の中から沢山の種を飛ばしたと云う。

 ブレスからその身を守る為、固い石に覆われて。


「わかりました。『勇者』に会えたら、渡しますね」


 満足そうに頷いた女王様に、遠慮がちにヒビキが口を開いた。


「あの……。一つ気になっている事があります。お聞きしても良いですか?」

「いくつでも」


  即答してくれる女王様。

 かなり聞きにくい内容らしく、少し言い淀んだヒビキだったが、意を決したように大きく息を吸い込み話し出した。


「勇者は今までに3人出現しているんですよね?」

「そうです」

「つまり、今まで3回、魔素が濃くなる現象が起きている、って事ですよね?」

「ええ」

「妖精の国に張られている結界は、女王様が代替わりする時に、外側にひとつ追加されると、王様に聞きました。世界樹が焼かれて、世界に魔素が増えた時に張ったのを一回目だと仮定すると……」


 そこまで話して俯いたヒビキの頭を、女王様が優しく撫でる。


「聞いた情報を整理していけば、いずれ辿り着く事実ですが……。一晩で辿り着いたのは最短記録ですね」


 一人で浄化を行っていたとはいえ、7年ほどで左腕一本が魔素に侵されていたのだ。

 ……初めてお会いした女王様は、寝椅子から立ち上がる事すらしていなかった。

 見える範囲で確認できたのが、左腕だけだったとしたら……?


 歴代の女王様と王様も、『勇者』が竜王を倒すまでの間取り込み続けてきたのなら、その体が無事であったとは思いにくい。

 代替わりしてきたという事は、勇者以外の者がもつ『世界樹のしずく』を与えられたとも考えにくい。

 ……それって……つまり……。


「大丈夫。代替わりしたと云っても、女王も王もずっと私達ですよ」


 顔を上げたヒビキがポカンとしている。


「え……? それってどういう……?」

「会わせてあげましょう」


 女王様が祈るようなしぐさをする。

 どこからともなく、バサリ、バサリと羽ばたく音がして、一匹の鳥が長テーブルの上に止まった。


 長い長い目玉のような模様がついた、飾り羽が沢山ついている。

 雄のクジャクのような姿だが、明確に違うのは、全身が燃えるような赤紅色の色彩で彩られているところだ。


「フェニックス?」

「あら。一目でよく判ったわねぇ」


 妙に艶のある声で、炎の鳥が答えた。

 

れ、れ、レビュー頂きました! 

またまた頂きました!! ありがとうございます。

そしてそして、いつもお読み頂いているかた、ブックマークや感想、ポイント入れて下さった方、ありがとうございます。


おひとりずつお礼をお伝えしに伺う事が出来ない事が歯がゆいのですが、これからも、少しでもほっこりして頂けるように書き続けますので、どうか物語の最後までお付き合い頂けると最高に幸せです。

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