33.テム爺さんの魔法剣とポール爺さんからの贈り物
5センチほどの金色のヒビキが、踊っている。
……髭ダンス……?
みんながゲラゲラ笑ってる。あ、ひどい女王様まで笑ってる!
髭ダンスをしていた金のヒビキが、ぴたりと止まると、ぺこりとお辞儀をして、どろりと溶けて金色の芝生に戻った。
ピーちゃんを見る。目を逸らされる。
女王様を見る。微笑み返された。
ヒビキを見る。まだ笑ってる。
トー爺さんを見る。サムズアップされた。
テム爺さんを見る。
「さ、さぁ~て。ヒビキは今んとこ風魔法が得意みたいだからな。白の魔石を入れような!」
……流された。
剣の柄にぽかりと空いていた穴に、木槌をコンコンと当てながら白い魔石をはめ込むテム爺さん。
「よし、出来た。ヒビキ、ちょいと湖に向かって振ってみてくれ。いいか、ちょっとだけだぞ。思い切り振り抜いたらシバクぞ?」
みんなでゾロゾロと金色の草の端っこまで歩いていく。
あれ?
朝は気が付かなかったけど、湖の向こう側に小さいテントがある。
来る時あんな所にテントなんてあったっけ?
ヒビキが、短剣を振り上げて軽くおろした。
ひゅんっ
良く見ないと気付かない程に薄く白く色づいた、繊月のような形の何かが飛んでいく。
一直線に飛んで行ったソレは見事テントに直撃し、ぐしゃーと潰れた。
中から転び出てきた王様が、地団太踏んで何か叫んでる。
「うわっ。ごめんなさい!」
慌てて謝るヒビキに、女王様が恐ろしい事を云いだす。
「ちょうど良い的が出て来ましたね。私が許します。アレに向かって剣を振りなさい」
どうやら、また何かやらかした王様は、寝室を追い出されテント暮らしを命じられたらしい……。
なにやらかしたんだ、王様……。
「さ、さぁ~て! 試し打ちもできたしな! 装備方法伝えるぜ、ヒビキ」
テム爺さんが長テーブルへみんなを誘導する。
遠くに見える王様は、一生懸命倒れたテントを立て直していた。
魔法でざざーっと修復しないのかぁ……。……出来ないのかな? ……謎なお方だなぁ。
王様が孤軍奮闘しているのを眺めている間に、短剣を腰に装備させてもらったヒビキが、素早く抜く動作の指導をされていた。
体を縦とするなら、短剣は真横になるように腰のベルトに装着されている。
柄は右側。
後ろ手に回した右腕を、さっと真横に抜き、そのまま流れるように構える。
お。なかなかサマになってるんじゃない?
小さい頃に放送されていた、5人組の戦闘ヒーロー番組の短剣使いのブラックが好きで、よくマネしてたもんなぁ。
「ホゥ。なかなかのもんじゃねぇか」
「どんくさいから、一回は自分の足切ると思ってたのに、ヤルじゃない!」
絶賛されて、まんざらでもなさそうに照れている。
イーイー言いながら切られ役をした甲斐が、こんな所であるとはビックリだよ。
「風は自由だからな。慣れてくれば、思いのままの斬撃を出せるようになる。だからこそ、使いどころを良く見極めるように気を付けるんだぜ」
「そろそろええかの~?」
ポール爺さんが声をかけてきた。
相当眠いのか、目がしょぼしょぼしている。
三人とも、徹夜で作ってくれたんだな。ありがたいなぁ……。
ポール爺さんが、空間収納から1メートルほどの細長い袋を1つ、50センチほどの細長い袋を1つ、ヒビキの肩ぐらいの長さの太い棒を1本出してきた。
「空間収納魔法も、まだ使いこなせてないと聞いたからの。細かく分けて収納できるもんの方がええじゃろ」
どうやら達人クラスになると、手で描いた円のサイズよりも、うんと大きい物も収納できるようになるらしい。
ポール爺さんが出してくれたのは、分解されたテントらしく、建て方、分解の仕方を繰り返し教えてくれている。
太い長い棒をテントの中心にある穴に通してから、しっかりと土に刺す。
テント上部にあるリングに、棒の上の先端を固定する。
テントの四隅にある穴に、太い釘のようなものを通して土に刺す。
テントの外側には、束ねられたロープも着けられるようになっていて、地面にテントを張れない時は、このロープを手頃な木に括り付ければツリーハウスもどきが出来るらしい。
「テントの布には食人馬のタテガミを編みこんであるからの。雨どころか嵐が来ても水は通さんぞ」
え。ポール爺さん布織る所からしてくれてたの?
一晩でテント1つ分の布を折れるって、ドワーフってどんだけ優秀なの?!
「あと、これは大サービスじゃ」
次にポール爺さんが出し広げてくれたのは、長さは2メートルぐらいで、横幅は80センチぐらいの、しなびれた風船のような素材のでろんとした物だった。
「角鯨の胃袋じゃない! ポール爺さんずっと大事にしてたのに、いいの?」
「ええ、ええ。眺めるだけのワシのコレクションに入れてても、勿体無いしの。ヒビキになら使ってもろうた方がええ。ひょろひょろしとるからの。固い砂や石の上で寝かせて見ろ。一晩で大熱こくぞ」
ちげぇねぇ! と大笑いしているもじゃ爺三人衆。
角鯨の価値がわからないヒビキは困惑している。
「ヒビキ、ここにね、風魔法で風を送ってご覧? ゆっくり、ゆーっくりよ」
良く見ると、四角いデロンとした物体の角の一か所に、30センチほどの長さで直径10センチほどのホースのようなモノが出ている。もしかしなくても食道……いやいや胃の反対側かな? もしかして腸……?
穴に手を当てて風を送り込むと、みるみる膨らんで……。これって!
萎びれた風船のようだった角鯨の胃袋が、ダブルサイズのベッド程に膨らんだ所で、ピーちゃんの合図がはいる。
「はいストップー。弱風出すのもうまいじゃない。ンで、穴にクラーケンの吸盤を詰めてね」
「乗ってええぞ」とポール爺さんが云ったので、ヒビキと二人で飛び乗る。
ぼよん、ぼよんと弾むけど、弾みすぎる事もなく。
エアーベットじゃんっ。ふかふかのマットも捨てがたいけど、一度寝てみたかったエアベッド!
鯨すごい!
そのまま二度寝しそうになっていると、「片づけ方を教えにゃならんからの」と、申し訳無さそうに言ったポール爺さんに追い出された。




