表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/167

27.一夜で大金持ち。

 ハァハァと、荒い息を吐きながら、王様が伸びている。


「た、たまらん……」


 と、案の定な呟きが混ざっているので、命に別状はないのだろう。……うん、ほっとこう。

 ヒビキも腹筋を緩め、結界を解いた。


「あ、そうだ。ヒビキ、オカン、紹介するね」


 もじゃ爺3人衆がテーブルを降り、もじゃ首が横並びでこちらに向いた所で、ピーちゃんの紹介が始まった。


「左から、トー爺さん。細工師なの。装飾品だけじゃなくて、洋服やカバンなんかもすっごいの! 女王様のドレスを作っているのもトー爺さんよ! ワタシのも、小さい子達のも! あと、小さい子達のランタンハウスもよ! すごいでしょ!」

 

 口元に現れた照れを誤魔化すようにゴブレットを呷り、ぶはぁと息を吐いた後「欲しいものがあれば云うがよいのじゃ」と云ってくれた。……煽てて乗せられまくってそうなタイプだなぁ……。


「真ん中が、テム爺さん。鍛冶屋さんよ。あと、元冒険者だからすっごく強いの!」


 ぐーっと一気にゴブレットを呷ったテム爺さんは、ぶはぁと息を吐いてから、女王様に掲げた。

 ……イッキ飲みするんかい!! しかもおかわり要求するって、ホント自由だな。

 空になったゴブレットに、なみなみとお酒が増えるのをニヤリと見つめながら「俺に作れない武器はないぜ」と、ニヒルに云ってきた。


「右端に居るのがポール爺さん。建築家なの。お家だけじゃないのよ。家具でもなんでも作れるの! ヒビキはもう空間収納使えるから、野宿用のテントとか、ベッドとかお願いすると良いと思う」


 ゴブレットを持ったままのポール爺さんが、うんうんと頷いてくれた。

 ……飲まんのかいっ!


「でも、俺、銀貨1枚しか持ってなくて。何枚ぐらい必要ですか?」


 ほんとだ。よくよく考えたら、まだこっちの世界に来て1日目だったわ。この世界ってどうやって稼いだらいいんだろう……。できれば流血な冒険は避けたいなぁ……。


「だいじョウブ~」

「おれイすル~」

「女王様、タスけてくれた」

「オレい~」


 小さい子達が口々に騒ぎながら、ぴゅーんとランタンへ飛んでいく。

 それまで飛び交っていた小さな光が、一斉にランタンハウスに収まったので、あたりが少し暗くなった。


「やばいわね。あの子達相当喜んでる……。ヒビキ! できるだけ大きく空間収納を開けて!」


 ピーちゃんが言い終わるや否や……。

 ぶわっとランタンハウスから飛び出してきた小さい妖精達の光で、一斉にあたりが明るくなる。

 その手には大小の硬貨が握られていた。


「お礼!」

「おれイ」

「ひびき~おレイ~」


「アンタ達! 一列に並びなさい!」


 ピーちゃんの掛け声に、小さい子達が一列にならんで、一人ずつ順番にヒビキに硬貨を渡していく。

 ひとりひとりに「ありがとう」とお礼を云って空間収納に仕舞ってゆくヒビキ。


「ひとりずつ手渡してると夜が明けちゃうわ。 ヒビキの空間収納に直接いれなさーい!」


「はーイ」

「は~い」


 ヒビキの空間収納に、小さい子達の抱える硬貨がどんどん投げ込まれていく。

 繰り返し唱えるヒビキの「ありがとう」が、どんどん早口になっていく。


「支払いなんぞいらんぞ。妖精の国に来たモノからは、金なんぞとっておらんからの」


 トー爺さんが云ってくれた言葉に、ポール爺さんがうんうんと頷いてくれる。


「あ! そうだ! トー爺さんに作って欲しいものがあるのー」


 おねだり上手なピーちゃんが、トー爺さんの肩に止まり、耳元でなにやらごにょごにょと話す。


 飲んでたお酒を吹き出しそうになりながら、「そりゃ面白そうじゃな」と云ってゲラゲラ笑っている。

 王様はまだ痺れている。


 小さい妖精達の硬貨ほおり投げの行列はまだまだ終わりそうにない。

 ……なんか、有名神社のお正月のお賽銭動画を高速で見てるみたいだな……。


「あとなんか忘れてる気がするー」


 トー爺さんとゲラゲラ笑っていたピーちゃんが、笑いが治まると悩み始めた。

「んー、なんだったけー」と言いながら首を傾げるピーちゃんの横で、テム爺さんが3杯目のおかわりを要求していた。


「テム爺さん、飲みすぎは良くないですよ。」


 女王様が人差し指をツイと動かす。


「このぐらい、飲んだ内にゃーはいらねぇよ」


 べらんめぇなテム爺さんに、女王様が苦笑した。


 小さい妖精達の、高速お賽銭は、まだまだ終わりそうにない。


 んーと悩んでるピーちゃんに、「オベイロンの3本目の角はヒビキが持っているのですか?」と女王様が云った。

「それだー! 女王様、よくぞ云って下さいましたぁ!」


 ビシィ! とヒビキを指さしながら云う。


「ヒビキ! トー爺さんに、王様の角渡してー! 粉々にしてくれるから!」


 ピーちゃんの説明下手が炸裂してる。粉砕してどーすんのー。


「粉にして飲むんだっけ? 薬にする時に」


 ヒビキが尋ねると、もじゃ3人衆とピーちゃんと女王様が頷いた。

 ……なるほど……。角に薬効成分があるのは知ってたけど、『どうやって使うか』なんて考えた事なかったわ……。さすが()()()()のヒビキ。

 

「あんな人の角だけどね。人間には()()()()()()になるの。”息苦しくて寝たきり”になる病気でもね」


 ……小さい妖精達の高速お賽銭は、まだまだ続くようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ