26.王様はどこにいても王様だった
「おおかた、性悪エルフに騙くらかされたんじゃろうがの」
ふん、と鼻をならすトー爺さん。
むー、と唇を尖らせた王様。
右手を口のあたりまで上げて、軽く握った手を斜めにちょいと傾ける仕草をしながら、女王様を見るテム爺さん。
ポール爺さんはボーっとしている。
……もじゃ爺3人衆、自由すぎるでしょ……。
テム爺さんの要求を受けた女王様が、軽く頷き右手を上げて、人差し指をくるくる回すと、もじゃ爺3人衆の前に、真珠色の葉っぱでできたゴブレットが出てきた。
「……いや、エルフなら、我の角を欲しがるものは居ないと思っておったのだがな」
いまいましい、と言わんばかりに唇を歪める王様。
ゴブレットの中身を、くーーっと呷ったテム爺さんが、ぶはぁと息を吐いてから「女王の作る酒は上品でいけねぇ」なんて文句を垂れる。
困ったような顔をした女王様がちょっとだけ頭を横に傾けて、肩をすくめた。
「ワシは、これはこれで好きじゃがの」同じように呷ったトー爺さんが、ぶはぁと息を吐いてから云う。
ポール爺さんも、ぶはぁと呷っているけど、にこにこしているだけ。
……ホント羨ましいぐらい自由だな……。
「……不思議な香りを放つエルフの乙女がな。我を見つけた途端、『お会いしとう御座いました』と走り寄ってきての。嬉しそうに我の首に腕を回してき--」
パリパリっ。
女王様の体から、目に見える静電気が発生しだす。
……怖い、怖いよ。
ヒビキが腹筋に力を入れて、結界を発動してくれる気配がした。
……うん、これならきっと巻き添え喰らっても大丈夫。
「昼寝をな! 誘われたのだが、いつもならすぐに深く眠れ--」
パリパリッ。パリッ。
王様……。お願いだから、もうちょっと女王様の地雷を踏まないように言葉を選んでおくれ……。
「……その日は、ウトウトはするのだが眠れなくてな。訝しんではおったのだ!」
パリパリッ。パリリッ。
「ユニコーンが乙女の膝で熟睡できなかったとあっては、乙女にも失礼であるからな。寝たふりをして--」
バリバリィッ!
女王様の静電気の音が不気味に強まった。
……もう、この先は聞かなくても分かるじゃん……。この辺でゆるしてあげて……。
「『一攫千金だぁー!』と云う声が聞こえたのでな。慌てて目を開けたら、角を切られておったのだ」
バリバリィッ! バリッ。
「我を膝に誘っておったエルフの乙女が『仕方なかったのです。お許し下さい』と涙を流して懇願--」
バリバリッ! バリッ! バチィ!
「そのエルフの乙女は、角を持っていたのですか? なぜ取り返さなかったのです?」
「いや。持っておらなんだ」
……角持って逃げた誰かと、その不思議な香りのしたエルフはグルだろうなぁ……。エルフの乙女を囮にしたハニートラップ。
バリバリィッ! バリッ! バチバチッ!
女王様の髪が、ぶわっと広がり始めたのを見て、慌てたヒビキが助け舟をだす。
「で、でも、エルフって本来ユニコーンの角なんか、欲しがらない筈なんですよね?」
「そうなのだ! だから我もいつも安心して昼寝--」
全力でヒビキの助け舟に乗ろうとした王様が、盛大に地雷を踏みぬいた。
「……帰ってきた時に……『エルフに盗られた』と云ってたから……」
我慢の臨界点を突破したらしき女王様が、ゆっくりと両手を上に上げていく。
「何が……あったのかと思えばっ」
王様の頭の2メートルほど上に、野球ボールぐらいの大きさの、黄色い球が産まれた。
バリバリと電気を帯びながら、みるみる大きくなってゆく。
ひげもじゃ3人衆が、慌ててテーブルの上に乗ったのを見て、ヒビキも椅子の上で三角座りをした。
「まて! その後は人にも会わず、エルフにも会わぬように、ペトラの崖で3年間一人ぼっちで生活っ」
ドオーン!バリバリバリッ!
「最初からそうしなさいッ!」
王様を直撃し、体表を流れ降りた電撃が、その足元から波紋状に広がって、足を上げたヒビキの椅子のしたも通りすぎ、金草の芝生の端まで流れて、パリッと音をたてて消えた。
ヒビキが、「足、あげてて良かった……」と呟いた。
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