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22.女王様の復活と妖精の歌

※少しだけ、お腐れ表現はいります。 苦手な方はご注意下さい

「女王様~! ヒビキとオカン連れてきた~」

「初めまして! こんばんはー!」

「にゃー!!」


 雷撃の合間をぬって女王様のそばへ行くのは怖すぎるので、三人で相談した結果、遠くからご挨拶する事にした。

 

 振り上げた右腕を、そっと下した女王様がこちらを見る。


 陶器のような白磁の肌は、疲れの為か青白く陰りを見せている。

 黒く艶やかに流れる、足首までありそうな黒い髪。


 立て続けに雷撃を放ったからか、汗ばんで額や頬に張り付く、後れ毛すらも艶めかしい。

 切れ長の瞳はルビーのように紅く、薄く上品に肉付いた唇は、瞳と同じ紅色。


 胸元から腕にかけて細かい花柄のレースで飾られた、カラスの濡れ羽色のフレンチスリーブドレスを纏っている細身の肢体は、女性らしいカーブを描いている。


 つた草で編んだ寝椅子に、上半身を軽く起こして横たわっている女王様の美しさは、まさに絵にも描けないといった感じ。


「見苦しいものを見せたわね」


 はにかむような笑顔を向けながら、おいでおいでと手招きされた。


「もぅ! 女王様ってば無茶しすぎー!」

「ふふ、ごめんなさい」


 素直に謝った女王様が、ふぅ、と息を吐きながら、寝椅子に深くもたれ掛る。

 力を抜いた女王様の肩は、小刻みに震えていた。


 ドンドコ雷撃ぶっ放していたので、思ったより元気そうだと安心していたのだけれど、どうやらかなり無茶をしてたらしい。


 ヒビキも気付いたようで、さっと女王様に近寄って、足元に跪いて頭を垂れた。

 ……その跪きかた……。何かのアニメで見たなぁ。騎士様が、謁見の間でやってたやつだよね。


 ”アニオタ親子”だ”サブカル家族やっほい”だと、二人で騒いで生きてきたけれど、ゲームとかアニメとか小説とかで仕入れた知識って、意外な所で役立つもんなんだなーと、変な所で関心する。


「……『勇者』が来てくれたので、気が緩んだみたい」


 ピーちゃんの頬を優しく指で撫でながら、なだめる姿も美しい……。


 左手で私を抱いたまま、そっと右手をマントの中に滑りいれて、小さく開けた空間収納から、『世界樹のしずく』を取り出すヒビキを横目で確認。


 ”どのタイミングで差し出すと格好いいか”って算段してるんだろーなーと、我が子の背伸びした姿にニヤケそうになる……って……ん? 今、『勇者』って云った?


 女王様の勘違いに、ヒビキもぽかんとしている。

 

「女王様、ヒビキは『勇者』じゃないよ。『生き物使い』よ」

「あら。そうなの……。『世界樹のしずく』を持っていると聞いたから、てっきり『勇者』だと思っていたわ」


 ごめんなさいね、と、ヒビキに向かってふんわり笑う女王様。

 額に浮いている汗が、さっきより増えている気がする。


 黒いレースで覆われていたので判りにくかったけど……左腕が……初めて会った時の王様と同じく、(まだら)に腐っていた。

 慌てて見上げると、ヒビキが”わかってる”という風にコクリと頷いてくれる。


「お話は、後でゆっくりしませんか? 早くこれを飲んで下さい」


『世界樹のしずく』を差し出すヒビキに向かって、一瞬小首を傾げて考えた女王様が、口を開いて待ち構えた。

 

 ”あーん”をご所望なのか? ”あーん”をご所望なのね?!

 ちょっと! 女王様それはずるい! 私にもやって貰った事ないのに!


 よくよく考えてみたら、王様の口にも直接垂らしてたから、同じっちゃ同じなんだけど、王様への”あーん”はノーカウントで! だって、ダメ・エロ・イジワルと三拍子そろった王様だし!


「ヌアアァァァアア! 人ノ子ヨ! 我妻ニ手ズカラ飲マセヨウナドトハ、不届キ千万! 我デスラ、サセテ貰ッタ事ナイノニ!」


 雷撃の余韻から覚めた王様が叫ぶ。


 ぴくりと眉をひそめた女王様が、”あーん”の口のまま、ついっと右手を素早く上げて、人差し指を立てる。

 くるりと回して王様に向けた指の先から、うねりをあげて細い雷撃が飛び出した!


 直撃を食らった王様は、案の定恍惚の叫び声を上げて、金草の芝生の上から排除されるべく、綺麗な放物線を描いて飛んでいった。


「ヒビキ、照れてないで早く女王様にお飲ませして。煩いのが戻ってくるまえに」


 至極マトモなピーちゃんの指示に、真っ赤になって固まっていたヒビキが、そっと小瓶を傾ける。

 コクリと呑み込んだ女王様の体が光りだし、斑に腐っていた左腕が元の白磁の肌を取り戻した。


「なおっタ!」

「ナおった!」

「女王様、ゲんき!」


 じっと様子を伺っていた小さい妖精達が、女王様の周りを飛び回り始める。


「治ったー! よかったー!」


 ピーちゃんが、女王様の頬に頬ずりしながら甘えている。


「私の……可愛い子供たち……。ありがとう」


 青白かった顔色は、すでにその影もなく。

 まさに花咲くように微笑んだ女王様がお礼を云うと、金草の芝生のあちこちから、スルスルと蔦が伸び始め、色とりどりの花が咲き始める。


 すでに夕焼けの時は過ぎ、夜の帳りが降り始めた空の下。

 金色の芝生の上を、ビデオの早回しのように急成長して咲き乱れる花の上を、小さな光をまとった幼い妖精達が、飛び交いながら歌い始める。


 ♪


 歌え 唄え 謳えよ 永久に

 

 水は巡り 木々は歌い 土の想ひ 火はまた昇り 風となりて育つ


 姫は嘆き 竜は吠え 希望は種に 


 血の絆 地の繋がり 知を紡ぎ


 輪廻の歌い 女神の唄い 重ねあい謳う 


 白の衣 願いが 目覚めを呼ぶ時まで


 歌え 唄え 謳えよ 永久に


 ♪

 



 



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