20.★あの大空へ。翼を広げ。飛んでいきたいよ。
文中に挿絵を入れています。
苦手な方は、さら~っと見なかった事にして頂けると幸いです。
バチィ、バチィと火花を出し続けている王様。
結界の膜に何度も蹄を着けては離してを繰り返しているので、エンドレスに火花が飛ぶ。
……痛くないのかな? それとも、痛いのがいいのかな?
「王様、痛くないのですか?」
私の疑問をヒビキが代弁してくれる。うん。やっぱりソコ気になるよねぇ。
「……コノ、痺レル感ジガ癖ニナルノダ。コノ痛ミハ、我妻タイターニアノ愛情ノ深サヲ語ッテオルノダカラナ……」
なおも、バチィ、バチィとさせながら、うっとりと語る王様。
ダメな大人だ、エロ爺だ、大人げないだ、意地悪だと思ってきたけど、ホントに大丈夫なのこの王様?
まだ会ってもない女王様の苦労が偲ばれる。
「あんまりダメージ受けてないみたいだし、その気になったら『王様避けの結界』って、破れたんじゃないんですか?」
「無理デアル。コノ結界ハ5層ニナッテオッテナ。歴代ノ女王ガ、代替ワリヲスル時ニ重ネテオルカラ、コノ星ガ消滅スル事デモナケレバ破レマイテ。我ガ破レルトシタラ、一番外側ニ架ケラレテイルモノノミダナ」
ダメ王の烙印をつけてあげようと思っていたけれど、少なくとも1層の結界を破れるんだったら、それなりに強いのかな。
少しだけ敬意を残してあげようと思ったらば。
「ダガシカシ! 一番外側ノ結界ハ、『タイターニアノ愛』ナノデアルカラシテ、破ルナド、トンデモナノダガナ!」
ガハハー、と笑いながらバチバチし続けている王様。
……うん、ダメ王で充分だな。
膜の中から出てきたピーちゃんが、「もう入れるわよー」と云うよりも早く、バチバチしなくなった事に気付いた王様が勢いよく突進して行った。
三人で苦笑いしながら、王様の後に続く。
◆
文字にすると、うにょ~~ん、とか、ねと~~ん、といった感じ。
ゲル状の液体の中にいるような、不思議な感覚がする中を、ヒビキが三歩ほど進んだ所で膜から抜ける。
緑の膜は、内側に抜けると目視する事は出来なくなるらしく、結界の外と同じ燃えるような夕焼けが広がっていた。
一面に広がる湖の周りには、ヒビキの腰の高さ程の常緑樹でできた生垣が囲んでいる。
生垣には、白い小さな花がびっしりと咲いており、緑と白のコントラストが美しい。
なにより目を引くのは、湖の中心にある小島にそびえ立つ、余裕で直径10メートルはありそうな、立派な大樹。
銀色に輝く太い幹と、力強く伸びる銀の枝。
枝には沢山のランタンがぶら下がり、色とりどりの光を灯している。
真珠のような光沢を放つ真っ白な葉は、夕日を浴びて煌めいていて、そのあまりの美しさに、ヒビキと二人で感嘆の声をあげていると。
ランタンの一つ一つから蛍のような光がふわりと舞い上がり、一直線にこちらに飛んで来る。
近づくにつれて、蛍のような小さな光は、親指ぐらいのサイズの妖精だと気付く。
ヒビキの周りをふわふわと飛びながら、しゃべり始めたばかりの幼子のような声で、口々に助けを求めてくる。
「タすケテ」
「たすけテ」
「女王サマ……助ケて」
「タすけて」
一刻も早く駆けつけてあげたいのはやまやまだが、湖を渡る方法が判らない。
一足先に女王様の所へ行ってしまったらしく、王様の姿はすでに影も形もなくなっている。
……ほんと肝心な時に使えない王様だなっっ。
「ピーちゃん、この湖の渡り方を教えて。泳げばいいのかな?」
にっこりとほほ笑みながらピーちゃんが云う。
「泳ぎたいなら止めはしないけど。ここは妖精の国なのよ?」
ピーちゃんの意図が判らないヒビキは首をかしげる。
「『水を割る』のと、『土で橋を架ける』のと、『つた草で持ち上げて運んでもらう』のと『空を飛ぶ』のとでは、どれがいい?」
「空を飛ぶ!」
「にゃー!」(空を飛ぶ!)
二人そろって同じ事を言った声を聞いて、くつくつと笑ったピーちゃんが、小さな妖精たちに呼びかけた。
「風の子~! 大サービスよろしく~!」
「まかセて!」
「マかせテ」
幼い声が口ぐちに囁き……
「わたしモ!」
「ワたしもー!」
という不穏な声も聞こえてきて……
この場に居た妖精たち全員が、ヒビキと私の上を飛び回る。
「ちょっ! アンタ達! それはやりすぎっ!」
慌てたピーちゃんの声をかき消すように、赤・青・黄・白・緑・虹色に輝く粉が、どざーー!!っと振ってきた。
小麦粉を頭からかぶったような衝撃に、一瞬だけ目を閉じてしまったが、すでに光は消えている。
ビックリしたままの顔で、視線を送ったヒビキと目があったピーちゃんが、「えっと……。全部使えるよ……」と苦笑いで云った。
「どうやったら飛べるのかな?」
空間魔法は手をクルリ。結界発動は腹筋。飛ぶときも何かコツがあると考えたのだろう。
「飛ぶときはね! 信じるだけで大丈夫」
「信じるかぁ……」
ヒビキの肩から飛び降りた私も、チャレンジする。
信じる……信じる……飛べる……私は、飛べる……
「うぬぅ~。ぐむぬぅ~」
変な声が出てしまうが、気にしない。飛べるんだ……私は飛べ……とべ……ない! なんで?
一足先にふわりと浮き上がったヒビキが、そっと私を抱きかかえ、そのまま3メートルほど上昇する。
なんで?!
なんでヒビキだけあっさり飛べるの?
純粋じゃないと飛べないってオチ? 心が穢れた大人は駄目なの? 穢れてるってゆーか、世間の荒波を乗り越えてきただけなのにぃぃぃぃ!
酸いも甘いも嗅ぎ分けないと、生きていけなかっただけなのにー!
詰め放題100円のお野菜を、限界まで入れようとして、ちょっと袋を引っ張って膨張させたのがダメだったのー?!
大樹へ向かって飛ぶ、得意げにニヤケたヒビキの顔を見ながら、ひたすら腑に落ちない私だった。
お読み頂きありがとうございました。
皆様のおかげで、20話まで来る事ができました。 いつもありがとうございます。
楽しんでいるのは私だけで、独りよがりになっていないか、チラシの裏に書いとけと罵倒されはしないかと、毎回不安を抱えて投稿しているので、お越し頂いているアクセス数に、すごく救われております。
少しでもほっこりして頂けるお話をめざして頑張りますので、今後ともどうぞ宜しくお願いいたします!
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追伸:書き溜めたお話は、誤字などの最終チェックをしてから投稿ボタンを押すのですが、本話で
『小島にそびえ立つ、余裕で直径10メートルはありそうな、立派なよしお』
って書いていて、自分の脳みそが信じられなくなりました。
そんなの関係ねぇ! とは、到底思えませんので、誤字報告などもお寄せ頂けると幸いです。




