19.妖精の国へ
タッタカタッタカと、少し早足で進む王様。
上下に体を跳ねさせながら跨るヒビキは、さすがに怖いからと懇願して、王様のタテガミを握る許可を貰っていた。
私とピーちゃんはといえば、『旅人のマント』のフードにすっぽりと収まって、顔だけだしている。
規則正しく上下に揺れる景色に……なんか、酔いそぅ……
「人ノ子ヨ。戦闘ハ好キカ?」
突然の王様の問いかけに、間髪入れずにヒビキが答える。
「好きじゃないです。ゲームならともかく、生殺与奪の権を自分が握るのは嫌だ。」
「フム。デ、アレバ避ケナガラ進ムトシヨウ。我ノ首ニ、シッカリト捕マルガヨイ」
ヒビキが、素直に王様の首にしがみ付いた途端。
ゴッ!
風が唸るような音を聞いたかと思ったら、それまで上下に揺れていた景色が、もの凄い勢いで後ろに流れ始めた。
走ってるんだか跳んでるんだか何が何だか!
最短で樹を避けつつ、襲ってくる魔物を飛び越えて、王様はひた走る。
森だもん。そうだよね! 一本道なんてないよね!
ヒビキのフードから顔だけ出している私は、進行方向とは逆に向いているワケで。
前から急に飛び出してくる魔物に、いちいち驚かされる心配が無いのはありがたいんだけど。
あっと言う間に遠ざかる、(え? 今何が通ったの?)的な、ポカンとしている魔物の種類を確認する余裕すらない。
グルルッと唸り声が聞こえてたから、狼的な何かだと思ったけど、すれ違ったと気付いた時には、なんだか黒い毛皮の塊にしか見えなかったので、タヌキだったかも知れない。
グオーっと声がした時は、体が大きい魔物だったからか、さすがに熊だと判った。
右に、左に、ぶんぶんと揺られ。
時々フワッと浮き上がったかと思えば、着地の衝撃でフードごとヒビキの背中に叩きつけられる。
深い深い森の奥。私と、ピーちゃんと、ヒビキの悲鳴を響き渡らせながら、王様が進む。
「落チルデナイゾ」
王様の掛け声と共に、ひと際大きく浮かび上がった感覚に襲われて、びっくりして下を見ると、深すぎて底の見えない真っ暗な崖があった。
「ぎぃにゃあぁぁぁぁぁ!」
「うわぁぁぁああああぁぁ!」
「きゃあぁぁぁぁああああ!」
下腹が引っ張られるような、ぞわぞわと背筋を撫でられるような感覚が続く。
ドン!
軽く意識を飛ばしていると、大きな音と共に着地の衝撃が来て、フードの中にずり落ちる。
「着イタゾ。降リルガ良イ」
ドヤ顔の王様が、全く息を乱す事もなく云った。
長時間王様の首にしがみついていたヒビキが、ズルズルと滑るように背中から降りると、ベシャリとその場に寝ころぶ。
フードからよぼよぼと這い出た私とピーちゃんも、地面の上に寝ころんだ。
「た……体力全回復させて貰っててよかった。してなかったら、途中で絶対落っこちてた……」
荒い息で呟くヒビキの声を聞きながら空を見上げると、すでに夕暮れに差し掛かっていた。
◆
妖精の国は、広大な森の中心部に、東京ドーム1個分程度の広さを持ち、どこまで続くのか想像もつかないほど深い崖が、ぐるりと囲んでいる。
おそるおそる崖の淵まで近づいて、向こう側までの距離を確認し、帰りはどうするんだろうと軽く絶望する。
できるなら、王様ジャンプは御免こうむりたい。本気でショック死するかと思った!
幾分息が整ったヒビキが、ひょいと私を持ち上げると、定位置の左肩に乗せてくれる。
私の足を気遣っての事だとは思うが、少しの移動距離でも肩に乗せてくれるのは如何なものか。
そのうち、”猫を乗せている”のか、”あざらしの赤ちゃんを乗せている”のか判らなくなりそうだな。
そうなる前に、運動もしなければ! と、『ダイエットは明日から』な決意をしつつ、ヒビキの肩に顎を乗せて寛いだ。
「ピーちゃん、結界の入口ってどこにあるのかな?」
妖精国があるらしき場所には、濁った水のようなドーム状の緑の膜が張っていて、向こう側を覗く事も出来ない。
右脚の蹄を、緑の膜に軽く触れさせては、バチィ、バチィと火花を発生させている王様を見て、小さくため息をついたピーちゃんが、「ちょっとここで待っててくれる? 女王様にお願いしてくるから」と云って、膜の中に消えていった。
レビュー頂きましたー(〃艸〃)
こんな幸せな事があって良いのでしょうか! 今すぐ叫びたい、ベランダに出て叫びたい。
レビューを貰えたと!! ……すみません、嬉しすぎて溶けそうなのです。
お読み頂いた方に、少しでもほっこりして頂けるよう、頑張ります★
※嬉しさのあまり、本日夕方頃もう一話アップします。




