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166.あやつらは、少しバ……げふんげふん

「まーた、このパターンなのねぇ……」


 『世界樹のしずく』の蓋を開けながら、慎重に近づくヒビキのフードの中で、ピーちゃんが呆れたような声を出した。


「ン〜。今度は襲われないと良いな〜」


 しれっとした雰囲気で、カイ君が恐ろしいフラグを立ててくる。


 砂の国の王様のワニ兵衛からは、不意打ちで襲われた。

 人魚の国のお姫様のエーレからは、美味しそうな匂いがするって云われたっけ……。


 珍しい生き物や魔力の高い生き物を食べると、パワーアップや進化が出来るというシステムは、神様お手製の体を持つ私には、かなり”危険があぶない”。

 


「オカン、いざとなったらアレを使うから大丈夫だよ」


 思わずブルリと身震いした私を気遣って、ヒビキが囁いてくれたけれど。


 『生き物使い』の職業を持つヒビキは、魔物の目を見て『名付け(アレ)』をすると、意のままに使役する事ができる。

 しかし、”使役者の命令に背くと、命を落とす”らしいのだ。

 ヒビキがあまり使いたくないと思っている事は、重々感じている。



 できれば……穏便に話し合いが出来る相手だといいな……。



 ほとんど腐り落ちて、骨がむき出しになっている口内に、『世界樹のしずく』を垂らされた生き物の体が光り始めたので……祈るような気持ちで目を閉じた。


 どうか、美味しそうって思われませんように!

 『妖精のきのこ』で満足してくれますように!!




 光が収まったのを、瞼の裏で確認し、恐る恐る目を開ける。


 そこには、ほんのりと若葉色に輝く巨大な鳥が横たわっていた。


 鷲の体に孔雀の羽、犬の足。

 すっごい綺麗な鳥さんだけど……。すごく、大きい。

 二十メートルはゆうにありそうだ。


 翡翠色の瞳を開けた鳥さんが、ゆっくりと起き上がると、若葉色の光が建物の中全体を照らし出す。


 やはり、四方を壁で閉ざされた、石でできた神殿のようだ。

 中央には、直径五十メートルほどの円形の湖が、腐り落ちた肉片と混ざり合って、黒光りしている。


「我ガ名ハ、シムルグ。人ノ子ヨ。感謝スル」


 威厳たっぷりに響くバリトンボイスからは、敵意は感じられない。

 

 ……最も、ワニ兵衛から虎視眈々と狙われていた事に、最後まで気づけなかった私のカンは、あまりあてにならないけれど。


 カイ君のぞわぞわが発動してないかと、フードの隙間から覗き見てみたけれど、尻尾が膨れる事もなく、耳をそばだてている様子もない。

 ……大丈夫っぽい……のかな?


「いえ。間に合ってよかったです。俺はヒビキと言います」


 空間収納に『世界樹のしずく』を仕舞ったヒビキが名乗り、続いてカイ君も挨拶をした。


 私も挨拶をしようかと思ったけれど、フードの中にいるので、気付かれていない可能性もある。

 敵対しないと確定するまでは、ただのペットのフリをしていた方が良いだろう。


 ピーちゃんも、素知らぬ顔をしているしね。


「雛ノ姿ヲ見ル事モ出来ズ、コノママ朽チ果テルモノダト、諦メテイタノダガ……。マサカ『世界樹のしずく』ヲ与エラレルトハ……」

「雛?」


  ヒビキの問いに、シムルグさんが嘴で湖の中央を指し示した。


「アト百年ホドデ、孵ル筈ダッタノダガナ。我ノ体ガ()()ソウニ無カッタノデ、巨人ノ長ガ守リニツイタノダ」


 湖の中央には、直径五メートルほどの円形の小島があり、大きな卵を抱いて胡坐をかいている石像が、どでんと建っている。

 座った状態で三メートルはあるから、五、六メートルぐらいの身長って事かな?


 巨人って、宇宙世紀のロボぐらい大きいのかと思っていたけれど、割と小ぶりなのね。

 いや、六メートルって大きいかな?

 エーレでも尾っぽまで入れて五メートルぐらいあったから、感覚がマヒしている気もする。


「あ! 石像の手ン中に居るの、妖精じゃないか?」

「「えっ」」


 視力の良いカイ君が、いち早く気づいてくれたけれど、ここからでは良く見えない。


「ヒビキ、近くに行って!」


 耳元で囁いたピーちゃんに頷いたヒビキが、飛んで近づいてくれる。


 石像の右手の中に、ピーちゃんによく似た姿が見えた……んだ……けれど……。


 握られた拳から、両腕と頭を出し、ぐったりとした姿のまま……石化していた。


「妖精……みたいだけど……」

「お姐ちゃんだわ……」

「なンで石になってンだ?」


「もしかして、この石像が、巨人の長ですか?」

「……ソウダ」


 小島の真ん中で、胡坐をかいて。

 両手で卵を抱きかかえ、右てで妖精を握った巨人の長の石像は。

 上を向いて、大きな口をぽっかりと開けている。


「なンで口を開けてンだー?」


 湖畔にいるシムルグさんに向かって、カイ君が大声で問いかける。


「口ノ中ニ『巨人の酒』ヲ垂ラスト、石化ト神殿ノ守リガ解ケルノダ」


「「「巨人の酒??!!」」」


 求めていたモノの名前が、意外な所で出てきたので、ビックリした三人の声がハモった。



 なんでも、巨人達の主食は、”『人魚の涙』で浄化した神殿の水”と、”シムルグさんの『加護が付与された風』で育てた稲”を、三日三晩攪拌(かくはん)させて造る『巨人の酒』なのだそうな。


 神殿の湖は海と繋がっているらしく、時々現れる人魚から、『巨人の酒』と『人魚の涙』を交換して貰っていたのだが、ここ十数年でトンと姿を見せることが無くなった為、浄化できない水では完全な出来栄えからは程遠くなり。


 年々魔素に侵されていくシムルグさんも、加護を発動させる事ができなくなったばかりか、あと何年で朽ち果てるかもわからない状態で。


 せめて、シムルグさんの体が、これ以上魔素に侵されないようにと、巨人の長が神殿の護りを作動させて、自分の体と神殿の四方にある扉を石化させたのだと云う。


 雛と代替わりをする時に、親であるシムルグさんの体は爆風で掻き消されるらしく、本来は、その猛烈な風が周りに被害を及ぼさないようにする為に起動する為の装置だそうな。

 四方の扉が閉ざされている間は、魔素の侵入を阻む事もできるらしく、ある程度雛が育ったら、護りを解除する手はずになっていたのだけれど……。


 シムルグさんが止めるのも聞かず、巨人達の独断で発動させてしまったらしい。


「お姐ちゃんまで石化してるのは、なぜなの?」

「長ガ結界ヲ発動サセルト云ッタ日ニ、ソノ妖精ガ『巨人の酒』ヲ求メテ辿リ付イタラシイゾ」


「だからって! なんでお姐ちゃんまで一緒に石化させちゃうのよ!」

「我ガ見タ時ニハ、既ニ意識モナカッタカラノ。一緒ニ石化シテオレバ、魔素ヤ冷気ニ晒サレズニスムト……考エタノデアロウナ」

 

「ん? でも、『巨人の酒』って、シムルグさんの『加護が付与された風』と、『人魚の涙』が必要なんですよね?」

「……ソウダ」


「シムルグさんが、ここに閉じ込められてるのに、風って起こせるのですか?」


 あ。 シムルグさんが目をそらした。

 

「アヤツラハ……少シ、バ………………考エガ足リナ…………純粋ナノデナ……」


 シムルグさんが、言葉を濁しまくっているけれど。

 バカって云おうとしたよね。


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