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163.エーレ再び

「目的地に指定しても大丈夫なのか、エーレに聞いてみようか」

「にゃぅ」

「そうね」


 丸いマット状になっている地図に、素早く二回微弱な水魔法を流して球体に戻してから、今度は弱い水魔法を流し込んでいく。


 碧い光が、球体の表面からほのかに発生すると、程なくしてエーレの声が聞こえた。


【おはようございます、ヒビキ様! 皆様!】

「おはようエーレ。朝早くからごめんね」


【そんな事、お気になさらないで下さい! 如何なさいましたか? 今から遊びに来られますか?】

「いや……。遊びに行くのはもうちょっと先かな。エーレに貰った地図で教えて欲しい事があるんだ」


 エーレの近くにいるらしき、他の人魚さんたちからの落胆した声が聞こえてくる。

 昨日の今日で再訪問はさすがにないでしょう……。

 

(ふち)だけ濃い青の所があるんだ。これって移動できないって事なのかな?」

【……移動は……できますけれど……】


 あきらかに言い淀むエーレの声に、不安が広がる。


「危険なンか~?」

【……危険が……あるのかまでは解りかねますが、”普通の状態ではない”事は確かです】


「普通の状態じゃないってどういうことよ?」

【そうですね……。極端に水が濁っているとか……毒が混ざっているとか……。とにかく、飲めない水質の時に、そのような表示になります】


「行ってみないとわからないって事か。ありがとうエーレ」

【もし、その場所へ行かれるおつもりなら、結界を張ったまま移動なさる事をお勧めします】


「え! 結界張ったままでも、瞬間移動しても良いの?」

【ええ。大丈夫ですよ!】


 それなら、移動直後に大波にさらわれるような事態にさらされでもしない限り、大丈夫だろう。

 ……上からたたき落されるような衝撃とか、巻き付かれて振り回されるような事なんかも、そうそう無い……と思いたい。


「結界ごと移動できるンなら、かなり安心だな!」

「そうね!」

「ありがとう、エーレ。助かったよ」

【いえ! いつでも、なんでもお聞きくださいね】


 明日はこられますか~とか、今夜はどうですか~と、再訪問の日取り決定を求める人魚族の方々を、嗜める女王様の声も聞こえてくる。

 人魚って、かなり閉鎖的なイメージだったけれど、ノリノリの歓迎の宴も催してくれたし、意外とフレンドリーなのかもしれない。


 宴で出された魚介類もすごくおいしかったし、落ち着いたらまた行きたいな。

 ……いつ落ち着くのかは……かなり不安要素が大きいけれど。


「うん。ありがとう」

【あと、先ほどお父様がコボルト族を迎えに出発しました。今回の迎え入れで、半数に到達するとの事です】


「すごい! ありがとうって、王様にも、伝えてくれるかな?」

【ええ! お伝えいたしますわ!! 新たに来られたコボルト族の方々も、村作りに励んでおられますよ】

 

「怪我とか、病気の人はいない?」

【重症の方はおりませんので大丈夫ですよ。もし居たら、すぐに連絡いたしますので、ご安心下さい】


「わかった。色々ありがとう。みんなにも、よろしく伝えてね」

【ええ! また遊びにいらして下さいね。皆心待ちにしておりますので!】

 

 にぎやかな通信を切った後、黙って聞いていた鳥さんが、


(ここ)から出発なさるのですか?】


 と、聞いてきた。


「うん。そのつもりだよ」


 と返事をしたヒビキに、小首をかしげて、【んむ~】と唸っている。


「なによ。何かマズイの?」

【マズイ……かもしれません】

「なンでだ?」


【街の結界が破れちゃうかもなのです】



 『賭博の街』は、大気中の魔素を電力に変える為に、街全体を薄い結界で覆われているらしく。

 結界に侵入しようとした魔素を取り込んで、玉ねぎ屋根へ送り、電力に変える装置へ流し込んでいるのだそうな。


 ヒビキやアベルさんが貼る外敵を弾くものではなく、あくまでも魔素を取り込むためだけに、薄く貼られているらしい。

 その為、街を覆う結界が、壊れたり弱くなったりしないように、空から街への出入りはご法度なのだという。


 ……どうりで、魔法の絨毯なんて便利なものがあるのに、城門以外から出入りしている人を見なかった訳だ。


【瞬間移動が、どのような仕組みなのかはわかりませんが、できれば街の外に出てからの方が良いと思います】

「でも、私は空から出入りしてたわよ?」


「ピーちゃんは、小さいから大丈夫だっただけなンじゃないか?」

【そのとうりです! あまり大きな生き物でなければ大丈夫です】


「じゃあ、街の外に出てから移動しようか」

「そうね。もし結界に穴が開いたら大変だもの」

「ンだな~」


 賭博の街を出るまでの道中、もっこもこの防寒服だとめだつことこの上ない。

 せっかく準備万端だったけれど、いったん脱ぐ事になった。


 アラビアンナイトな衣装に着替えていたヒビキが、ふと何かを思いついたらしい。

「鳥さん」

【はい! 何でしょう?】


「また街に戻ってきた時、この家に入るにはどうしたら良いのかな?」

【鍵に魔力を通して頂いたら、ドアが出現します。もしくは、家の鍵を持って北の広場の森を奥へ進んで頂いたら、玄関にたどり着けるようになっています】


 夜ならともかく、日中にドアを出現させるのは目立つだろうし、普通に歩いてたどり着ける手段があるのはありがたい。

 三番目の勇者の館にだけは、目隠しの魔法がかけられているらしく、この家の鍵を持っていないと、森を抜ける事もできないらしい。


「そっか。じゃあ、合鍵はあるかな?」

【ありますよ! すぐにお持ちいたしますね!】


 リビングへ飛んで行った鳥さんが、テーブルの上に置かれていた、テレビのリモコンのようなもののそばへ降り立ち、赤いボタンを嘴でつつくと。


 テレビの画面が、かたん、と小さな音を立てて開いた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 最終手段としては、ニセ勇者を『名付け』だな( ゜д゜)ウム
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