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159.二人分

 神様から発生していた光が、瞼の裏側から消え去った途端。


「うわっ! オカン?」


 空間収納へ飛び込んだ時に聞こえた声がしたので、慌てて目を開けると、そこには空間収納をのぞき込むヒビキの姿があった。


 飛び込んだ瞬間の時間に戻してもらったって事なのかしら。

 ……それとも、飛び込む直前で時間が止まっていたのかしら。


 どちらにしても、空間収納の中に飛び込んだ理由を聞かれても返事に困るし、ベッドの上に戻して貰えたのはありがたい。


「にゃ~ぅ?」


 私の呼び声に、ものすごい勢いで振り向いたヒビキが、持っていたコップを落としそうになり、慌てて持ち直している。


「え? あれ? オカン、今空間収納に飛び込んでなかった?」


 開きっぱなしの空間収納と私を交互に見ながら、面食らった声を出すヒビキに、小首を傾げて返事する。


「ぅんな〜?」


 ここは、とぼける一択でやり過ごそう。


「おっかしいなぁ。 確かに飛び込んだように見えたのに」


 ポリポリと頭を掻きながら、なおも訝しむヒビキに。


 ほらほら、そんなにあっち見たりこっち見たりすると、ジュースが零れるよ。


「にゃぅ~にゃ。にゃ~にゃ」


 コップを口に当てる動作をしてから、布団をぼふぼふと叩いて、こてんと寝転んでみせる。


「とっとと飲んで、寝ろって事かな?」


 大、正、解☆

 細かい事は気にせず、ささ、ぐぐーっと飲んじゃって。サクッと寝ちゃいましょう。

 多分、夢の中で神様に会えるよ。


「……疲れて幻影でも見たのかな。カイ達にも心配かけちゃったし、明日は元気にならなきゃだね」


 満足げに鳴く私を、王様の粉入りジュースを一気にあおったヒビキが、そっと抱き上げて枕元へと移動させてくれた。


「おやすみ、オカン。いろいろ……心配かけてごめんね」


 もそもそとベッドに潜り込んだヒビキが、ほどなくして細い寝息を立て始めたので、柔らかなねこっけを撫でながら、昔よく歌っていた眠り歌を呟いた。


 ……猫語で子守歌ってかなりシュールだなぁ、なんて思いながら。

 

 



 カーテンを閉めずに寝てしまったので、差し込む朝日で目が覚める。


 ヒビキも同時に目が覚めたようで、寝ぼけ眼と目が合った。


「にゃうな〜」


 おはようを告げると、寝起きの余韻に浸っていたヒビキが、くわっ! と目を見開き、バサっと掛け布団を跳ね上げて起き上がった。


「おはよう、オカン! すごいんだ! 夢の中に神様が出てきてくれたんだ!!」

「にゃぅ〜?」


「かあさんもこっちの世界に来られていて、元気ですごしてるんだって! どこにいるのかまでは教えて貰えなかったんだけど、ホッとしたよ」


 久しく見ていなかった、心底安堵した時の笑顔を見せてくれる。

 よかった。神様さっそくお話しして下さったのね……。


「にゃ~」


「『世界樹のしずく』を使い切ってから、探しに行こうと思うんだ。コレを持っている間は、厄介ごとが次々舞い込んでくるっぽいから、もし、母さんが腐った魔物を見たら、絶対卒倒するからさ」


 そう云うと、くしゃりと顔をゆがめたヒビキが、


「しずくも、あと2回分ぐらいしか残ってないし! 探しに行く旅にも、ついてきてくれる?」


 と、聞いてきた。


 しまったなぁ。

 探しに行くって云われる可能性を失念してたよ……。


 まぁ、先の事はおいおい考えるとして、今はヒビキが元気を取り戻してくれただけでヨシとしよう。


「にゃぅ!」


 元気よく返事をした私を抱えてベッドを降りたヒビキが、ひとりごちながら部屋を出た。


「本格的に母さんを探し始める前に、印の星も消せてるといいなぁ……」


 ”消えてると”ではなくて、”消せてると”と云うあたり、アベルさんのお手伝いも最後までする心算なんだろうなと思う。


 印の星を消すお手伝いが出来たら、大きな功績よね……。

 そしたら、ご褒美第二段で、私の体をヒト型に創り直してくれないかしら。

 無理かなぁ……。



 部屋を出ると、いい匂いが漂っている事に気付く。


「なんか、美味しそうな匂いがするね」

「にゃ」


 ヒビキに抱えられながら階段を降りていると、


「ンっ!!」

【凄いです! カイ様お上手です!】

「やったわね! カイ、焦げてないわ!」


 なにやら、キッチンから賑やかな声が聞こえる。


「もう、みんな起きてるみたいだね」

「にゃう」


 朝が苦手なカイ君が、朝日が差し込む前に起きてるなんて珍しい。


「お! ヒビキ、もぅ起きたンか〜! もうちょっとでできるから、あっち行っててくれな〜!」

「おはよう。みんな早起きだね。 カイ、何作ってるの?」


 返事をしながら台所へ入ろうとしたヒビキの顔に、勢いよく飛んできた鳥さんが、ビターンと張り付いて目隠しをする。


【ヒビキ様! おはようございます! お、おお、お庭に! お庭に出ませんか!】

「そぅよ! ヒビキ、庭に行ってきて!!」


 顔に張り付いた鳥さんをはがしたヒビキは、今度はピーちゃんに通せんぼをされている。


「え? 庭? なんで?」

「いいから、とっととここから出てー!」


 シャツの襟首をひっぱられ、強制的に回れ右をさせられたヒビキ。


 なにやら、朝ごはんでサプライズをしようとしてくれているらしい。

 ピンときてないヒビキの、ひたすら困惑している顔が面白い。


「朝ごはん、手伝いたかったのに……」

「そんなの、いーから!」


 そのままぐいぐいと引っ張られて、リビングへ。


【ヒビキ様! こちら! こちらです!】


 カーテンレールに止まった鳥さんに誘導されて、庭に続くリビングのカーテンを開けると。


 きらきらと、朝露に煌めく桔梗の花畑が一面に見えた。


「ぅわ…! 凄い!」


 掃き出し窓を開けて庭に出たヒビキが、しゃがみこんで桔梗を眺めると。


【綺麗でしょう〜!! アキト様が、コウバイイクシュ? をして、お造りになったお花なんですよ!】

「うん。綺麗だね」


 手折らないように気をつけながら、そっと花弁に触れている。


「あれ? 俺が知ってる桔梗より、花びらの数が多い……?」

【そーなんです!! アキト様が、ヒビキ様と奥様の二人分(ふたりぶん)だから、どうしても八重(やえ)咲きにしたいとおっしゃって! それはそれは苦労してお造りになったのです!】


 元いた世界で、私が庭に植えていた桔梗の花びらは五枚。

 だけど、この庭に咲いている桔梗の花びらは、少しずつズレるように重なって、十枚ある。


「オカン……。あのね、桔梗の花言葉って、〝家族への永遠の愛〝って意味もあるんだって……」


 うん。

 だから、この花が一番すきだったの。


「へへ……。二人分かぁ……。……二人分……嬉しいなぁ……」


 呟いたヒビキの瞳から、ぶわりと溢れた嬉し涙が、朝日を浴びてキラキラと降ってきた。

 

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[一言] ああ、父ちゃん(´;ω;`)
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