15.『世界樹のしずく』の効果
※あと少しだけお腐れ表現が続きます。苦手な方はご注意ください
「ピーちゃん! 『世界樹のしずく』ってどのぐらい飲ませればいい?」
「ティースプーンに半分ぐらい!」
ヒビキが、ぜぃぜぃと荒い息を吐く馬に近寄りながら、右手で空間に円を描き、『世界樹のしずく』が入った小瓶を取り出した。
素早く小瓶の蓋を開けると、半分腐り落ちている馬の口に、ためらう事なく手を差し入れ小瓶を傾けてしずくをたらす。
すぐに、馬の体がほんのりと金色に輝き始めた。
荒かった息は穏やかになってゆき、斑に腐っていた体表は、まるで時間が逆戻りしているかのように、モリモリと筋肉が生まれ、正常な皮膚が生えてゆく。
金色の光が消えた後には、神々しいオーラに包まれた白馬がいた。
「王様! おうさまぁぁぁぁ!!よかったぁぁぁぁ!」
白馬の顔面……目と目のちょうど中間あたりに張り付いたピーちゃんが、縋り付いて泣いている。
「ギリギリ……ト言ッタトコロカ。人ノ子ヨ。感謝スル」
「いえ。俺は何も。神様から貰ったものを御裾分けしただけですし。それより、ギリギリとは?」
「『世界樹のしずく』ヲ飲ムノガ、アト数時間遅ケレバ、我ハ全身ガ腐リ落チテイタ」
「……間に合ってよかったです」
一気に緊張がほぐれたのか、ふぅ、と息を吐きながらその場に座り込むヒビキ。
王様の顔面に、涙と鼻水をしこたま塗りたくっていたピーちゃんが、慌てたようにヒビキの元へ飛んできた。
「無茶させてごめんね。覚えたばかりの結界を張ったまま全力疾走させちゃったから、相当キツイでしょ?」
「大丈夫だよ。ただ……ちょっと……今は立てそうにないかな」
スルリとヒビキの肩から降りた私が、恐る恐る白馬に近付くと、「チッ」と舌打ちされた。
え? 今舌打ちしたよね。なんで私嫌われてるの?
しょんぼり引き返し、ヒビキの膝の上で丸まって箱すわりする。
私の背中をもふりながら、ヒビキがぼそりと呟いた。
「お腹すいた……」
そういえば、夕食の支度をしている最中に、この世界に飛ばされたのだ。
そりゃお腹も空いているだろう。
白馬が大きく息を吸い込み、ふぅーっと吐き出すと。
あたりに散らばっていた吐しゃ物の残骸が、みるみる水気を失ってゆき、サラサラと空中に舞い上がると、一瞬だけ虹色に輝いて消えた。
「人ノ子ヨ。我ノ背ニ乗ルガヨイ」
白馬な王様が四肢を折ってしゃがみ込む。
よほど疲れているのだろう。 四つんばいでよたよたと移動したヒビキが、ひどく緩慢な動作で王様の背に跨ろうとして、すぐそばに落ちている角に気が付いた。
「あ……。王様の角……」
『世界樹のしずく』で腐った体は元通りになったが、落ちた角だけは失われたままだった。
「ヲヲ、忘レル所デアッタ。心配ナイ。角ハマタイズレ生エテクル。落チタ角ハ、礼ノ代ワリニ受ケ取ッテ欲シイ」
「ありがとう」
落ちている角を拾い上げ、右手をくるりと回して出した空間収納に入れている。
「オカン、おいで」
私を左肩の定位置に乗せると、のろのろと王様の背に跨った。
角……また生えてくるって事は、やっぱり王様ってユニコーンなのかな。
背に乗せたヒビキの負担にならないように、ゆっくりと立ち上がった王様が歩き始める。
ピーちゃんは、王様の頭の上に胡坐をかいて、手綱よろしくタテガミを掴んでいた。
……どっかで見た光景だな。
軽くデジャブを感じていると、「コレ。引ッ張ルデナイ。地味ニ痛イ」と、これまたどこかで聞いたセリフを言われていた。




