149.賞金ゲットだ!!
ドーン!!
ドーン!!
ファンファーレと共に、小さな花火が無数に打ち上げられて、カイ君の健闘を讃えているなか。
観客からの歓声に手を振っていたカイ君が、スタッフさんに誘導されて、三階から階段を降りてくる。
「ヒ~ビキ~! 俺、頑張った~~!!」
二階に到着した途端、小走りになると、嬉しそうにヒビキに飛びついた。
「うん! すごい格好よかったよ!」
ぶんぶんとしっぽを振るカイ君を、抱きしめるヒビキ。
「ちょっと! カイ! 私が居るんだから、すぐにヒビキに飛びつくのやめなさい。つぶれちゃったらどうすんの」
カイ君が駆けだしたのを見た途端、いち早く飛びのいて、難を逃れたピーちゃんが、お母さんモードを炸裂させたけど。
いしししといつもの笑顔を見せて誤魔化すカイ君に、『しかたないなぁ』といった感じの笑顔で見つめたピーちゃんが、思い出したようにお嬢様に振り向くと。
「『そんな賭けしてない』なんて、言わないわよね~?」
水着のレースのすそを握りしめ、カイ君を睨みながら、怒りに震えているお嬢様に、勝ち誇ったように口を開く。
ギッとピーちゃんに視線を移したお嬢様は、目に涙を浮かべて、下唇を噛み、小刻みに震えている。
今にも目から零れ落ちそうな涙を、必死に堪えている様子に……。
なんだか、小さい子を虐めている気持ちになってしまう。
さすがに……お灸がきつ過ぎたかな……。
ピーちゃんに、『これ以上お嬢様を煽らないで……』と伝えようかな、と思った矢先。
プルプルと震えるお嬢様が、口を開いた。
「賭けは賭けよ。なかったなんて……言わないわ……。でも……覚えてなさいよ!!」
お嬢様の恨み言に、腕を組んだピーちゃんが追い打ちをかける。
「『付きまとわない』って言ってなかったっけ~?」
ぐっと詰まったお嬢様が、いっそう強くレースを掴んで叫び返してくる。
「ね……猫をよこせとは言わないって意味よ!」
あ。全然反省してないな。
でも、賭けを無かった事にはされないようだ。
アトラクションの受付でも、”お嬢様特権”を振りかざして、割り込みさせる事もなく、一言の文句も言わず、ちゃんと順番を守っていたし。
度を越えた我儘は云うけれど、負け博打をひっくり返さず受け止める……本人なりの矜持は持っているようだ。
「猫を渡したくなったら、いつでも館へいらっしゃいな!」
こめかみに、青い癇癪筋を走らせながら捨て台詞を吐くと、後ろで控えていたメイドさん達に顎で指示を出す。
そのまま、振り向くこと無く、一階へと続く階段へと足早に移動して行った。
「何を仕掛けてくるつもりかしらね~」
お嬢様達の背中に向かって、あっかんべをしたピーちゃんが呟く。
「街に居られなくしてやるって云ってたよなぁ?」
しがみついていた手を放し、のそりと降りたカイ君も、うんざりしたように頭を掻いている。
「まぁ……。とりあえず、様子見しようか」
苦笑いしながら囁くヒビキに、二人が頷くと。
「お話し中すみません。あの……。あちらへどうぞ……」
カイ君を誘導してくれていたスタッフさんから、実況席へ行くようにと促された。
””クリア者が出た為、ドキドキ★難攻不落城は、一時間後に再開します””
流れたアナウンスに、挑戦の順番を待っていた人たちから、
「お手柔らかにな~!」
「あんま、ヤバイのはやめてくれよ~!」
と、声が上がる。
……ん? お手柔らかに? ヤバイの?
声かけの意味が分からず、四人できょとんとしていると。
「クリアした方が、ステージの難易度を上げる場所や、数を決められるのですよ」
実況席でアナウンスをしていた男性が、ステージの簡単な配置図を広げながら教えてくれた。
「ちなみに、前回のクリア者が指定したのは、”消える丸太”でした」
ただでさえ不安定な足場を消させるって、すごい発想だなぁ……。
「ン~~……」
配置図を見たカイ君が、何か悩んでいるようだ。
「あの丸太全部を、”消える丸太”にしちゃえば~?」
いたずらっこピーちゃんが、トンでもない事を云いだしている。
そんな仕掛けに変えちゃったら、この先クリアできる人いなくなるよ?!
「ピーちゃん、さすがにそれは極悪すぎるよ……」
ドン引きしているヒビキに、「ヒビキ、ちょっと相談~」と云ったカイ君が、なにやら耳打ちした。
「うん。カイがそれでいいなら、いいよ」
にっこりと笑ったヒビキに、安心したように息を吐いたカイ君が、実況のお兄さんに……。
「難易度、そのまンまにしてて欲しいンだけど、ダメか~?」と、云った。
「可能ですが、その場合……受け取る賞金が、半分の大金貨一枚になりますよ?」
ちらりと見てきたカイ君に、こくりと頷いたヒビキは、「カイの好きなようにしていいよ」と返事をしている。
今の難易度になってから、二年間も攻略者がでなかったらしいし。
カイ君も、ヒビキの名付けで身体能力があがっていなければ、おそらく無理だっただろうし。
それなのに、さらに難易度を上げてしまうのは、さすがに良心が痛むってモノよねぇ……。
「うン。それでいい~」
「それでは、賞金半分の大金貨一枚と、お嬢様との賭け分の、金貨十枚と宝石箱をお受け取り下さい」
「オカン、お待たせ」
ヒビキが、そっと私を抱き上げたのを見たカイ君も、ほくほくした笑顔で景品を受け取る。
「あと、こちらのチケットもお持ちくださいね」
「ン? なンのチケットだ~?」
両手が塞がっているので、すぐに受け取れないカイ君が尋ねると。
「四階にある、家族風呂のチケットです。難易度を上げない攻略者の方に、お渡ししているんですよ」
「やった~~~!!!」
実況のお兄さんが差し出したチケットは、ピーちゃんが大喜びで受け取った。




