147.ドキドキ★難攻不落城!
この室内プールは中央が吹き抜けになっていて。
二階部分の壁沿いに、食事ができるお店や、休憩コーナーにジャグジーや家族風呂などがあり。
”ドキドキ★難攻不落城”の真上にある二階部分には、観覧席まで設置されていた。
いくつかある観覧席の中の、一番見えやすい席に、頭にピーちゃんを乗せたヒビキと、お嬢様が並んで座っている。
二人のすぐ隣に設置されている実況席の真ん前には、『景品』と書かれた台座があり、大金貨二枚と、金貨十枚と、宝石箱と……
……私が置かれていた。
タカタン、タカタン、タカタンタンタン~
軽快な太鼓のリズムが流れる中、次々と足を滑らせてはプールに落ちてゆく、参加者さん達を見ながら……
「あとになって『そんな賭けしてない』なんて言わないでしょうね」
ニタリと笑ったピーちゃんが、お嬢様を煽ると。
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ!」
顎を斜めに上げたお嬢様が、受けて立っている。
二人の間に、バチバチと飛び交う火花が見えるようだ。
頭の上でお嬢様と口喧嘩するピーちゃんをなだめながら、様子を伺っている私の視線に気がついたヒビキが、手を振ってくれる。
しっぽを振って返事をしていると、実況席のお兄さんがマイクらしきものを握りしめて叫ぶ。
””お~っと! ゼッケン五八番チーム! 最後の一人が落ちました~!””
観覧席や一階で観戦していた人達から、笑いと歓声が起きて、太鼓の音も止まった。
””五九番チームの方、スタート位置に並んで下さ~い!””
五九番の方達のグループは、三人での参加のようだ。
真ん中に、人型のカイ君と同じ、犬っぽい耳と尻尾が付いたコボルト族の方がいる。
タン! タン! タカタン、タカタン、タカタンタンタン~
太鼓のリズムが始まった。
最初の遊具は、高さ五メートルぐらいの壁だ。
一人が壁に向かって手をついて踏ん張り、その人を足がかりにしてコボルト族の人が壁の上に登ると、残り二人を引っ張りあげる。
チームでの参加が可能なので、力を合わせて攻略しても良いらしい。
壁の反対側は滑り台になっていて、滑り降りた先はプールだ。
最初にコボルト族の人が滑り降り、落下する直前に、六メートルほど離れた先にある、ロープネットにしがみついた。
おぉ~~!!
観客から拍手と喝采が湧き上がる。
さっきの五八番チームの方たちは、ここで全員がプールに落ちて失格となっていたので、しょっぱなからかなりの難易度があるらしい。
二人目の人が滑り降りてジャンプ――するも、距離が足りていない。
プールに落ちる……と思った矢先、ロープネットにつかまっていたコボルト族の方が、手を伸ばしてさっと引き寄せた。
三人目は、滑り台の端でつんのめって、そのままポチャンと落ちていた。
どっと巻き起こる笑いに混ざって、
「あ~~はっはっっはっは!!」
お嬢様が足をバタバタさせて笑っている。
ロープネットを登り、反対側へと降りる二人組。
続く遊具は、一メートルほどの間隔で、横向きに浮かんでいる丸太だ。
コボルト族の方が難なく端まで到着すると。
続けて飛んだ方は、四本目に着地した丸太から、次の丸太へ移ろうと飛び上がったタイミングで、足元の丸太がぐるりと回転。
そのまま五本目の丸太に顔面から突っ込んで……落ちた。
「うわ……痛そう……」
ハラハラしながら観戦しているヒビキが呟く。
「ヒビキも、カイと一緒に出たら良かったのに~」
イタズラっぽく笑うピーちゃんに、「風魔法が使えないと無理だよー」としょぼくれる。
「確かに。王様の背中に乗る時、どんくさかったものねぇ~」
王様に飛び乗ろうとして、何度も落馬していた時の事を云っているらしい。
「あぶみや手綱も付いてない馬の背中に飛び乗るって、結構難易度高いと思うよ……」
ぷっくりと、頬を膨らませて抗議しているヒビキが可愛い。
八本目の丸太の先は、間隔をあけて垂直に立てられた丸太の階段。
徐々に高くなっていく丸太の階段を登った場所には、天井から垂らされたロープがある。
直径二十センチほどの丸太は、不規則な間隔で立てられている上に、飛び移った瞬間五十センチほど沈み込むので、バランスを取るのも大変そうだ。
ぐらぐらと揺れる丸太に、バランスを崩してアワアワする姿に、観客やお嬢様から笑いが起きる。
それでもなんとか八本目の丸太に飛び乗った瞬間――
高さ五メートルぐらいの丸太が、一気に水面まで沈んだ。
慌ててロープに飛び移ろうとしたけれど、届く事なく派手な水しぶきと共に落ちてしまった。
””あぁ~! おしい! ゼッケン五九番チーム! ロープまであと少しで落ちました~!””
お嬢様がお腹を抱えて笑いながら、
「今更辞めたいなんて聞かないからねっ」
と念を押してくる。
「言わないわよ!」
「言わないよ!」
””六十番チームの方、スタート位置に並んで下さ~い!””
ヒビキとピーちゃんが同時に言い返した言葉とアナウンスが重なった。
次はカイ君の番だ。
””六十番の方は、お嬢様との対戦者です!!””
観客達からのどよめきに混ざって……
「最初の壁はね。一人じゃ絶対無理よ」
意地悪く顔を歪めたお嬢様が、笑った。




