138.だるまさんが転んだ!
「だるま!」
「さんが!」
小さい通用門の前に立つ、ターバンを巻いた男性二人が、交互に叫ぶ。
「こ~ろん~~~~ッ」
参加者達は、じりじりと大門に向かって歩を進め……。
「だっ!!」
中央の大門に向いていた男性が、振り向きざまに叫ぶ、ころん「だ」の語尾を合図にピタリと停止。
大門前の男性が振り向いている間に動いたら、アウトとなりその回での入場は見送りとなるそうな。
元いた世界の”だるまさんが転んだ”と同じルールに、幼いヒビキと遊んだ記憶が蘇ってきて、ほおが緩む。
ただ……大玉が転がってきて邪魔される事はなかったけどね!
「俺、このゲーム好き~! 早く順番来ないかな~!」
カイ君は、順番が回ってくるのが待ち遠しいらしく、ピンと立たせた耳をひくひく動かしながら、観戦している。
「渡されたゼッケンの色ごとに、ゲームに参加できるって云ってたわよね」
「うん。今は赤だから……橙、黄、緑、青のグループの後だと、かなり待ちそうだね」
「私達の紫グループが最後だものね。一つのグループで、どのぐらい時間がかかるのかしらねぇ……」
ヒビキとピーちゃんが、ぼんやりと……赤のグループの方達が、停止しては大玉に吹き飛ばされて、アウトになっていく姿を見ながら……苦笑いで話している。
大門の両脇にある小さな通用門から、次々と運び出されてきては、勢いよく転がってくる大玉は、割と容赦なくて。
大門からスタートラインまでは、緩やかな傾斜になっているらしく、加速度を上げて突っ込んでくるので、たまったものではないだろう。
「よっしゃ、かかってこーい!」
ぼかーん!
向かってくる大玉の勢いに耐えるべく、勢いよく声を上げて、両腕をクロスさせた防御の姿勢をとり、見事はじき返した参加者さんが出た。
「「「おっしゃあああ~~~!!!」」」
チームの方々と、ハイタッチしながら喜んでいる。
””はーい! 赤の10番のゼッケンを付けたチームの方、アウト~!””
「「「なんでだー!」」」
吹っ飛ばされなかったのに、アウトの宣言を喰らった10番ゼッケンの三人組がわめいているけれど……。
””動いたからで~す!””
受付のお姉さんのアナウンスに、「あっ」と云ったあと、すごすごと退場していった。
”だるまさんが転んだゲーム”ですから……。
大門前の男性が、こっち向いてる時に動いたら……そりゃ……アウトだよね。
赤のゼッケングループが全滅したので、橙のグループがスタートラインに並んでいく。
「あれって、大怪我しないのかな?」
「派手に吹っ飛ばされるけど、結構柔らかいから、大怪我はしないらしいぞ~」
このゲームの時だけ入場できるという、自称”だるまさんが転んだ”マイスターなカイ君が、説明してくれる。
不安定な格好で停止している所に、ヒビキの身長ほどはある大玉がぶつかってくるのだ。
踏ん張れずに弾き飛ばされるって事だよねぇ……。
「結界張ったら失格かなぁ……?」
「多分大丈夫だと思うぞ~。必要ないと思うけどな~」
きょとんとするヒビキに、いしししと笑うカイ君。
私達の前に並んでいた、紫色のゼッケンに29と書かれた人が、ゆっくりと振り向いて、そっと尋ねてきた。
「君、結界張れるのか?!」
「え?! えぇ……」
驚きながらも律儀に返事をするヒビキに、「頼む! ゲームの間、君の後ろに並ばせてくれないか?」と、かなり真剣に頼んでくる。
結界を張ったヒビキの後ろで、大玉を弾き飛ばしてもらう算段なんだろうなー。
赤グループは全滅してたし、さっき終わった橙グループも、ゴール出来たのは三十チーム中、三組というかなりの難関ぶりなんだもの。
……参加金額割と高かったし、アウトを喰らった二回目以降は割安になるらしいけど、出費は抑えたいよねぇ。
「え? えぇ、かまいませんよ?」
うろたえながら、了承したヒビキに……。
「やったぁ~! ツキが回ってきた!」
「これで、やっと街にはいれるぞ~~!」
29番チームの方々が、口々に上げる歓声を聞きながら、
「あンま意味ないと思うぞ~」
と、呟いたカイ君がニヤリと笑っている。
カイ君……秘策でもあるのかな?
◆
大門に向かって平行に引かれた線に、横一列になって並ぶ。
いよいよ紫グループの、入場ゲームの始まりだ。
””紫グループの皆さん! 大変お待たせ致しました~!””
受付のお姉さんのアナウンスが流れる。
””準備は良いですか~!?””
「「おー!!」」
ノリノリで返事をする参加者さん。
「オカン、ピーちゃん、鞄の中に入ってくれ。 ヒビキは俺におぶさって」
””それでは、開始しま~す!!””
「だ~るま」
「さんが~」
「こ~ろん」
「よっしゃ、ゴール!!」
開幕早々、ヒビキを背負ったカイ君が、驚異のスタートダッシュを決め、一気にゴールの大門にタッチした。
””さ、30番ゼッケンチーム、ゴールです! おめでとうございます””
「俺、これ得意~~」
なんでも、毎回スタートダッシュでゴールしていたらしく。
ヒビキの名付けでパワーアップしているし、吸着のブーツもあるので、おんぶしてても間に合う自信があったのだそうな。
ブンブンと尻尾を振りながら、自慢げに話してくれたカイ君が、まだスタートラインの上で呆然としている29番チームの方達に振り向いて。
「おっちゃんたちも、頑張れ~~」
と、手を振った。




