137.賭博の街はインド仕様?
「ほら! だから言ったじゃない! 落ちないでねって!」
ピーちゃんの悪態が聞こえたので、閉じていた目を開けると、足下の遙か下に広大な湖が広がっていた。
「大丈夫だよ」
素早く風魔法を展開してくれたヒビキのお陰で、落ちる事無く空中に浮かんでいるけれど……。
これ、空飛ぶ能力持ってなかったら、地図を使って移動する度に、どっぼんどっぼん移動先の水場に落ちる所だよね?!
琵琶湖の何十倍もありそうな湖が、そよ風を受けてさざ波となった水面に、陽の光がキラキラと舞う様をみながら、移動先に陸地を指定する方法があるかまで、キチンと確認していなかった自分の詰めの甘さを後悔した。
「本当にあっという間にきちゃったわねぇ」
「だなー! すごいよなぁ!」
「オカン、大丈夫? かなり魔力を使ってたよね。疲れてない?」
こくこくと頷いて意思表示する私に、
「よかった。じゃあ、これ、片付けてくれるかな?」
落ちない様にと手の平に乗せてくれていた地図が、差し出された。
丸いマット状の地図の中央に、素早く二回微弱な水の魔法を通して球体に戻し、私の空間収納へ入れる。
ひんやりぷるんな感触の地図の虜になっている私に、『いつでも好きな時に取り出して、堪能できるように』と、私の収納に入れさせて貰っているのだ。
「カイ、あれが『賭博の街』?」
ブルーグリーンに煌めく湖の北側に見える、巨大な街を指さしながら尋ねたヒビキに、なにやら真剣に街を見据えながら「うン~」と生返事を返すカイ君。
『賭博の街』は、高い城壁で囲まれていて。
壁の向こう側に見える建物群は、円柱状の白レンガの壁が何棟もそびえ立ち、頂上には紫がかった青色のタマネギ型のドームが乗っていて、ロシアやインドのお城に似ている。
街というよりは、テーマパークって感じだなぁ……。
「やった! 今日は”入りやすい”日だ!」
「入りにくい日なんてあるの?」
突然喜びの声を上げたカイ君につられて、みんなで街の最南端にある大門を凝視する。
「あるぞ~! クイズの日が続いた時なンか、俺、何日も街に入れンかったもン!」
『賭博の街』は、他の町や王都には無い、珍しい食べ物や珍しい建物があるので、すごく人気なのだそうな。
その為、一般の来訪者には一回の入場者数に制限がかけられているのだという。
ただし、早く並んだ順ではなく、とあるゲームの勝者のみが入場できるらしいのだけど。
入り口から勝負事を持ってくるあたり、さすが『賭博の街』というべきなのかしら……。
「ゲームって色んな種類があるの?」
「あるぞ~! クイズの日は、地面に○と×が書かれてて、答えがどっちか選ぶンだけどさ。 毎回一個目の問題でアウトになってた~」
う~ん……。昔テレビでそんな番組やってたなぁ……。
『賭博のぉ! 街にぃ! 入りたいかぁ~?!』なんて、かけ声で始まるのかしら……。
「商人とか街に住んでる人も、ゲームしないと入れないの?」
「あ、それは別で入り口あるンだ。あと、すンげぇ高い入場料払ったら、入れる門もあるぞ~」
「で、今日は何の日なのよ?」
「今日は、”ドキドキ★だるまさんが転んだ”の日っぽい……って、ヤバい! 受付終わりそうだ! ヒビキ急いで!」
入場のゲームは、朝・昼・夕方の日に3回しか開催されていないので、これを逃すとお昼までチャレンジできないらしい。
大急ぎで『賭博の街』の大門の少し手前――カイ君曰く――入場ゲームの受付をしている、紫に黄色い縞模様のついたタマネギドームの、小さな建物へ向かう。
「なんとか間に合ったみたいだね」
受付の最後尾に並ぶと、ちょうど大門の右脇にある小さな通用門から、3人の男性が出てきた所で。
それぞれ、大門の両脇にある通用門と大門の前に立つと、そろった動作で、”右足を引いて右手を体に添えて左手を横方向へ水平に差し出すお辞儀”をした。
お辞儀した三人は、ターバンのようなモノを頭に巻き、カラフルな光沢のあるロングコートを着ていて……なんとなく、元いた世界の民族衣装を思い出す。
色違いなおそろいの衣装に、芝居がかった動作。
ますます、テーマパークの色合いが濃くなってきたなぁ……。
「何名様ですか~?」
受付カウンターの向こう側から、彫りの深い顔立ちのアジアン美人なお姉さんが、にっこりと微笑みながら問いかけてくる。
お姉さんの衣装は、体にぴったりとフィットした、おなかが見える程短いインナーに、ふんわりと膨らんで足首できゅっとすぼまったズボンを履いていて。
さらに、細かい刺繍が入った薄い布を、ゆったりと首に巻いて肩へと流している。
大門の前の男性三人を見た時も思ったけれど、インドの民族衣装に似てるなぁ……。
「四人です」
「お一人様小銀貨五枚ですので、四名様ですと銀貨二枚頂きます」
「ちがーう! 二名よ! あと、変な猫一匹と可愛い妖精!」
私やピーちゃんまで人数に入れてくれたヒビキを押しのけて、すかさず訂正するピーちゃん。
さすが自称”しっかりもの”のピーちゃんだ。
節約できる所は、ちゃんと押さえてくれてるのはありがたい……ありがたいんだけどさ。
変な猫呼ばわりは、酷いんでなかろうか~。
そりゃさー。
おいしい匂いの変わった魔物扱いされた事も、あったけどさ~……。
あ~。コボルト族の始祖様と間違われた事も……あったっけ……。
出会い頭に、問答用で齧りつかれた事も…………あったな。
変な……猫……。間違ってないんだけど、な~んか刺さる言葉尻だなぁ。
「ペットは、飛び出さないように気をつけて下さいね~!」
受付のお姉さんの声かけに、「は~い」と返事をしたヒビキとカイ君が。
受付で渡された、白文字で『30』と書かれた紫色のゼッケンを付けながら、ゲームの順番待ちの列へ移動しはじめた矢先、第一陣のゲームが開催された。
三十組ずつ数回に分かれて、”だるまさんが転んだ”ゲームをするらしいんだけど……。
ねぇ……大玉転がってない?
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四章からは、毎週月曜日の更新になります。
心機一転、頑張ります!
これからも、どうぞよろしくお願い致します。




