表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/167

135.カイ君の進化

 ドボーン!


 カイ君が、派手な水音と共に落下した音がした。


 目を瞑っていたからか……降ってくるカイ君を受け止めようとしてたからなのか……ヒビキの結界は発動していない。


 ばしゃーっとかかる水しぶきに、今日は水難の相でも出てたんじゃないかしらと思いつつ。


 そっと目を開けると、ヒビキが苦笑いで私を見ていた。


「結局、またぬれちゃったね」

「にゃ~う」


 カイ君から発せられた光が、水面をボウッと瞬かせている。


 すり鉢状に垂れ下がる天井の、一際高い所から飛び込んだのだ。

 マンションの五階ぐらいはゆうにある。


 どこか痛めたりしてないと良いけど……。


 心配しながら見つめていると、程なくして光が治まり、ポコポコとした気泡と共に、ザバっと勢いよく顔を出してくれた……けど。


 え……?……か、カイ君だよね?!


 褐色の肌に、やんちゃそうな太い眉。大きな口から見える歯は、ギザギザと尖った物ではなくなっている。

 白銀の髪と、頭頂部にある毛皮のついた耳や、くりくりとした瞳は、変わってないけれど……。


「カイ?」


 驚きつつ尋ねたヒビキに、満面の笑顔で返してくる。


「受け止められなくてごめんね。怪我してない?」

「大丈夫ー!!」


 戸惑いながら差し出したヒビキの手を、人と同じソレになったカイ君の手が握り返した。


「毛が無いって不思議な感じだな~!」


 ヒビキと繋いでいない方の右手を、握ったり開いたりして、自分の体に起きた変化を確認している様子。

 獣よりだった骨格も、人と同じになっているようだ。


 ヒビキよりも頭一つ分ほど低かった身長も、背筋が伸びたからなのか、並んで大差なくなっている。


 こんなにも変わってしまうと、適応するまでしばらく不自由するんじゃないかな……と心配になる。

 あ、でも、エーレもゾウの上半身から人に変わった後も、すぐに適応していたみたいだし、大丈夫なの……かな?


 あれこれと心配している間に、ピーちゃんがあんぐりと口を開けて待つ、ゲル状のマットが乗った貝ベッドに戻ってきた。 


 ヒビキの手を離して、陸地部分に降り立ったカイ君が、『吸着のブーツ』を脱ぐ。

 数回足踏みをした後、真上にジャンプした。


「すっげぇ!」


 びよーん、びよんと繰り返し飛び上がる跳躍力は、むっちゃんのソレを大幅にしのいでいる。



 何度目かの跳躍の後、満足したのか戻ってきて。


「すげぇぞ、ヒビキ。俺、むっちゃんより跳べるようになってる!!」


 濡れそぼったままの尻尾を、ぶんぶん振りながら報告してくれた。


「ちょっと! カイ! 濡れた尻尾を振り回さないで! こっちまで飛んでくるじゃない!」

「いしししし。怒られちゃった!」


 望みが叶って、なにを言われても嬉しい様子。


「むっちゃんより跳べるようになりたかったの?」

「おう! 『吸着のブーツ』がないと、女の子に負けるなんて、男の()()に関わるかンな!」


 カイさんや、それを言うなら、沽券だ。

 どうやら一番の願いであった、『賢くなる』は……。


「いししし。俺、賢くなったかな~?」


 難しい言葉をさらっと言えた! と、言わんばかりに胸を張るカイ君。

 苦笑いを返した後、カイ君からそっと視線をそらして、私の毛皮乾燥の続きをするヒビキ。


「おバカ! それを言うなら沽券よ、こ、け、ん!」

「コケンってなンだ?」


「……賢く……は、なってないみたいね……」


 きょとんとしているカイ君に向かって、ピーちゃんが額に手を当てて呟いた。


「え~。そうか? 賢くなってると思うンだけど……ぶへっきし!!」


 盛大なくしゃみをするカイ君に、ヒビキが空間収納から出して準備していた着替えを渡す。


「カイ、濡れたままだと風邪ひくよ。そろそろ着替えた方がいいよ」

「うン!」


 濡れた服を脱ぐカイ君が、「うううう、寒い~~」と繰り返しブツブツ言っている。


 毛皮で覆われていた皮膚が、直に空気に触れるようになったんだもんねぇ。

 そりゃ寒かろう……。


「カイ、もう一枚着とく?」

「…………ン~~。ン? ンン?」


 曖昧な返事をしたカイ君が、両手を握りしめて踏ん張り始めた。


「ン~~! ンン、ン~!!」


 踏ん張るカイ君の手足から、ざわざわと深い青色の毛が生えてゆく。


 肩から首、顔面へと毛が生えるのに伴って、マズル――鼻先――部分がせり出して、見慣れたカイ君の姿になった。


「「変身……した……」」


「いしししし! もう寒くない~」


 豆鉄砲を食らったような顔をしている二人に、ウキウキとした様子のカイ君が続ける。


「俺さ、俺さ。『賭博の町』で行ってみたい所があるンだ!」


 驚きの余韻を振り払うかのように、なんども目を瞬かせたピーちゃんが、「どこなの?」と聞いた。


「なンて名前だったかな~。あったかいお湯の、でっかいお風呂があってな? ”ぐるぐる流れて”たり、”滑り台”とかあるらしいンだ!」

「……もしかして、”温水プール”?」


「そう! ソレ! 俺、ずーっと行ってみたかったンだけど、『毛が生えてる奴は駄目だ』って入れて貰えなかったンだよ!」


 抜け毛……嫌がる人はいそうだもんねぇ……。


「そっかぁ。じゃあ、一緒に行こうね」


 にこりと笑って云うヒビキに向かって、何度も頭を上下に動かしながら、ちぎれんばかりに尻尾を振ったカイ君に、ピーちゃんの怒声が飛んだ。


「だぁから! 濡れた尻尾をふりまわすんじゃないっ!!」





「ン、ンン~」のかけ声からの、獣型から人型への変身を見る事三回目。


「疲れた~」と云ったカイ君が、ばったりと倒れ込んだ。


「一日に何度も変身できないみたいだね」


 ヒビキが、王様の粉を振りかけた妖精のキノコを、そっとカイ君の口に放り込む。


 もぐもぐと咀嚼しながら、「そうだな~。四回ぐらいが限界かな?」と返事をするカイ君が、まどろみ始める。



 そういえば、カイ君の名付け騒動で忘れかけてたけど、徹夜明けだった!

 思い出したら、私もすごく眠たくなって来た……。


「そんな、ポコポコ変身しなきゃならない事も起きないだろうし、四回もできれば充分でしょ」


 あ~ふ、と欠伸をしたピーちゃんが、面倒くさそうに云った後、ベッドに寝転んだ。


「俺も今ならすぐ寝られそう……。細かいことは起きてから話そう……」


 そう云って、ヒビキが横たわろうとした矢先。


【まだお休みになっておられなかったのですか?!】

 

 水面から顔を出したエーレが、驚いた声を掛けてから、私たちのいる貝ベッドへと泳ぎよる。


「えっ。もうお昼?!」


 慌てて起き上がったヒビキが、ゲルな貝ベッドの端まで四つん這いで進んだ。


【ええ。お昼を少し過ぎた所です。今からお休みになられますか?】

「いいかな?」


【もちろんです! お急ぎで無ければ、もう一泊して下さい】

「ありがとう。助かるよ」


【先ほど、父様がコボルト族達の第二便を連れてきましたよ。今回は20名ほどでした。明日以降も順次連れてこられそうです】

「そうか! 王都の人達がすんなり手放してくれてよかったよ」


 喜ぶヒビキに優しく微笑んだエーレが、ハンドボールほどの大きさの、球体を差し出した。


【お休み前に申し訳ないのですが、ヒビキ様、これを受け取って下さい】

「……これは、何?」


 受け取ったヒビキの手の中にある球体を、肩越しに手を伸ばして触ってみると。

 ゲルベッドと似た、むにむにしつつ……ヒンヤリとした感触。


 ……熱を出した時に、おでこに乗せたら気持ちよさそうだ。


【地図です。人魚族全員の魔力を練って作りました】

「そんなすごいモノを貰っていいの?」


【ええ! もちろんです! 詳しい使い方は、起きられてからお伝え致しますので、早くお休みになって下さい】

「ありがとう」


【その地図に水の魔力を通して下されば、ワタクシの水晶と通話ができます。お起きになったら、試してみて下さいね】

「ありがとう」


 とぷん、と静かに水中に戻っていたエーレを見送ってから、「すごいモノ貰っちゃったなぁ……」と呟きながら横になったヒビキが、速攻で眠りに落ちた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 元の名前でもちゃんと名付け判定なんだね!! というか獣人モードと人間モードの切り替え……かっこいいじゃん!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ