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132.村を作ろう

 王様が山肌に開けてくれた穴の入り口は、地上から5メートルほどの高さにある。


 『吸着のブーツ』を履いているカイ君や、ヒビキの『名付け』で脚力がアップしたむっちゃんなら、難なく入れるだろうけれど……。

 梯子かロープを作る必要があるかな……? と考えていると。


【続きはワタクシが作りますね】


 振り向くと、エーレが山に向かって両手をかざしていた。

 その掌から、ヒビキの腕ぐらいの太さの水流が勢いよく飛び出して、山肌を削り取り階段を作っていく。


「すごい!」

「うおおおお!」

「姫様素敵!」


 コボルト族の皆さんが、大喜びしている。


 沸き立つ皆さんを見ながら、ヒビキが「俺も何かできる事ないかなぁ……」と思案し始めた。


 そーだった!

 私もやりたいと思っていた事があったのよ!


(ピーちゃ~ん! むっちゃんを呼んできてくれる?)

「いいわよ~」


 珍しく二つ返事で了承してくれたピーちゃんが、うさ耳さんと手を握り合って、エーレの応援していたむっちゃんを、呼びに行ってくれた。


「お呼びですか?」


(ちょっと動かないでね、って伝えてくれるかなー?)

「オカンが、じっとしてて欲しいらしいわよ」

「はい!」


 直立不動の姿勢で立っていてくれるむっちゃんの、スカートのすそを両手で挟む。

 キプロスの町で、ハナコさんが普段着ていたような簡素な服なら、それほど縫製も難しくなさそうだったし……と、イメージ開始。


 ポケットを作った時は、雇い主に咎められないようにと、縫い目が表に出ないように気をつかったけれど、もう奴隷じゃないもんね!



 さほど苦労する事もなく、オーソドックスなAラインの半そでワンピースが出来上がった。


「オカン! すごいじゃない!」

「ありがとうございます!!」

どういた(にゃ~うにゃ)しまして(にゃいにゃ)


(ピーちゃん、むっちゃんに、順番にコボルト族の人を呼んでって伝えてくれるかな?)

「なに、もしかして全員分作るつもり?」


(うん)

「倒れない程度にしなさいよ?」


 なにもできないと嘆くだけの自分が、本当に嫌だったんだもの。

 私にもできる事があると思うと、頑張れちゃうのよ。


 ぴょこぴょこ飛び上がったり、時々クルリと回ってふわりとスカートを広げながら、嬉しそうに次のお仲間を呼びに行ってくれたむっちゃんを見ながら、7人分のお洋服を作るぐらい、訳ないさ~~~~!


 と、思ってぇ――




 ――居た頃が、私にもありました。


 いや、これ、意外ときついわ。


 女子のワンピースは割と簡単なんだけど。

 男子の、ズボンが曲者で。

 出来るだけ動きやすいようにと、股上股下の構造を必死に考えて作ってたら、魔力枯渇した。


 7人目の男子服を作り終えた時に、(あ、やばい)と思ったんだけど、時すでにおそし。


 視界がぐにゃりと歪み、手足に力が入らなくなって、その場にべしゃりと寝そべったら。


「だ~から、ほどほどにって言ったでしょー!」


 そばで通訳をしてくれていたピーちゃんが、プリプリしている声がする。

 ごめんよぅ。……まさか、こんなに魔力を使っていると思わなかったのよぅ。


「オカン、大丈夫?」


 駆けつけたヒビキが、妖精の粉を溶かしたオレンジジュースを飲ませてくれた。


 じわじわと魔力が回復していくのを感じながら……。


(ピーちゃん! お風呂! お風呂作ろうってみんなに言ってー!)


 謝るよりも先に私の口をついて出た言葉に、さもあきれたと云わんばかりの深いため息を吐かれた。


「ピーちゃん、オカンなんて云ったの?」

「お風呂作ろうって云ってるよ」


「それは良いアイディアだけど、オカンはしばらく働くの禁止。ここで休憩しててね」


 ひょいと抱き上げて、ヒビキのチュニックに押し込められた。

 まだまだやりたいことあるのにぃ!


 おかしいなぁ、キプロスの町で回復魔法を使ってた時は、枯渇する前に補給していたとはいえ、結構な人数を診てたけど、こんな風にならなかったのに。

 首輪が助けてくれてたのかな。

 それとも、使う魔法の属性によって、魔力の減りも変わるのかな……?

 



「徹夜明けの朝日って、凶器よねぇ~」


 ピーちゃんが、東の空を恨めしそうに見ながら呟く。


「でも、かなり住みやすくなってるよ」

「だな~。 みンなで頑張ったもンな~」


 眠たさの頂点にいるらしいカイ君の頭が、ぐらぐらと揺れている。

 ヒビキも、かなり眠いらしく目が半分開いていない状態だ。




 山肌削りは王様。

 階段やスロープ、壁作りはエーレ。


 ヒビキが近くの森で切ってきてくれた木で、こまごまとした食器などを作る係は私。

 ヒビキに叱られるので、ちゃんと休憩を挟んだ。

 それでも、もっと休めとチクチク言われたけれど。


 コボルト族の皆さんは、ヒビキが切った木を、森から採取してきた蔦草で固定して、椅子やテーブルを作っては、洞窟に運び込んでいた。


 お風呂は、いの一番に着手して、完備済み。

 病気予防には、清潔が一番だものね! お風呂大事!


 王様が山肌に四角く開けてくれた穴へ、エーレに水魔法で満たして貰って。


 男子湯と女子湯は完全に分離。

 それぞれの浴槽の周りの壁は、エーレが水魔法で切り出してくれた。


 コバルト族の皆さんが、枝を蔦草で固定してくれたものを、私の土魔法で強化したら、簡易ではあるが取り外し可能な天井もできた。


 仕上げは、ヒビキに『灼熱のフライパン』を投入しもらって、お湯を沸かしたら――

 

――古風な岩の露天風呂の完成!!



 お風呂には、妖精の王様の粉も入っているので、長年入浴できなかったコボルト族の皆さんの、頑固な汚れも一網打尽だ。




 達成感と疲労感に襲われながら、みんなで砂浜に座り込んで、ホットドックに齧り付いていると。


【まだお休みになっておられなかったのですか?!】


 海からひょっこりと顔を出したエーレが、驚いている。

 

 お風呂が出来た段階で、ここから先は徹夜での作業になりそうだと判断したヒビキが、「手がいる時は呼びますから」と、渋る王様を説き伏せて、エーレと一緒に一足先に休んで貰っていたのだ。

 


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