表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

128/167

128.ワニタクシー再び

 ヒビキの結界の中。

 パラパラと降ってくる砂煙の向こう側で。

 短い前足を腰に当ててふんぞり返ってるワニ兵衛。

 

 想像以上の出現の早さに、全員で固まっていると。


【わが君? ポカンとして……いかがなさった?】


 ドシーンと、大きな足音を立てて、前足を地につけたワニ兵衛が訊ねてくる。


 ワニ兵衛が起こした地響きに、砂豚母ちゃんが【うっ】とうめいた。


 ここに、食べすぎによるお腹パンパンで、吐きそうになっている砂豚さんがいるのよー!

 もうちょっとソフトに動いてあげてー!!


「えっと……。すごく早かったから、びっくりしたんだ」


【”吹けばいつでも馳せ参じる”と、お伝えしたつもりであったが?】


 大きな頭をちょいとかしげてくるワニ兵衛が、


「うん。ちゃんと聞いてたけどね。まさか、吹いた途端現れてくれると思わなかったんだ」


 と、オカリナを空間収納に片付けながら、少し慌てたように補足を入れるヒビキを見て。


【で、あるか! 我の魔力とわが君の毛を練って作った土笛なのでな。音色が響いた場所になら、瞬時に来れるのだ! クハハハハハ!】


 いたずらが成功した時のように、得意げに笑い声を上げた。




 ひとしきり笑い終わった後、【我を呼んだのは、母御を見つけて下さったからか?】と聞いてきた。


「うん。砂豚のお母さんを、少しでも早く砂の国に連れて帰ってあげて欲しいんだ」


 砂煙が落ち着いてきたのを見計らって、結界を解除したヒビキが、砂豚母ちゃんに目配せしながら云う。


【……っ! ……っ!】


 ヒビキへ目配せ仕返した砂豚母ちゃんが、そろり、そろりと器用に触手を使って歩き、王様に近づき始めたけど……。


 定期的に襲ってくる嘔吐感を、必死に飲み込んでいる様子……。

 

 大丈夫かな……。

 吐きそうな時って、電車の揺れでもクルからなぁ……。


「あ! ワニ兵衛の頭の部屋、まだあるぞ!」


 さっきから、背伸びをしながら何かを探していたカイ君が、嬉しそうに叫んだ。


「ほんとだ! ワニ兵衛、砂豚のお母さんを、その部屋に入れてあげてくれるかな?」


【わが君専用の部屋であるからな。 好きにお使い頂いてかまわぬよ】


「砂豚のお母さん、ワニ兵衛の頭の上にある部屋なら、柔らかいベッドもあるからね。国に帰るまでのんびりできるよ」


 大きな瞳に、じんわりと涙を浮かべながら、何度も頭を下げては【うっ】と嘔吐い(えずい)ている。

 今にも”来てはいけないビッグウェ~ブ”が、目の前で大惨事を起こしそうだ。


「ちょっと、砂豚母さん、お礼なんか良いから、はやくワニ兵衛に乗りなさいよ」


 よほど大惨事を見たくないらしく、やたらとピーちゃんが急かしている。

 

 そういえば、人魚達の宴の時も、エビやカニには見向きもせずに、海ぶどうばかり食べてたなぁ……


(もしかして、ピーちゃんってエビとかカニが苦手?)

「ちょっとだけよ! 足が沢山あるのが苦手なの!」


(美味しいのにー)

「うるさいわね! オカンだってネズミ見て、ぎゃーぎゃー悲鳴上げてたじゃない!」


 ……ネズミは……。みんなが食べたがらないと思うよ……。

 心のなかでつぶやき返しながら、ピーちゃんの頭をなでなでする。ぶくーっと膨らませたほっぺたが可愛い。


 私とピーちゃんが話している合間に、触手をワニ兵衛の頭に長く伸ばした砂豚母ちゃんが、ぺこりとお辞儀をしてきた。


「砂豚のお父さんと、ミニ砂豚達によろしくね」

「チビ達に、また遊ぼうって伝えてくれなー!」

「早く登りなさいよ~!」


 ヒビキ達の声に、もう一度ゆっくりお辞儀をした後、スルスルと触手を縮めて、プチリゾートなワニ毛部屋へ入っていった。


 砂豚母ちゃんが、部屋に収まるのをじっと待っていたワニ兵衛が。


【砂豚の母御を見つけて頂き、感謝する】


 と云って、大きく頭を下げてきた。


「「「うわああああ!」」」


 そ、そんなに急激に頭を下げたら、部屋の中の砂豚母ちゃんが!

 今、絶対むちゃくちゃシャッフルされたよね?!


「ワ、ワニ兵衛! できるだけゆっくり帰ってあげてね?!」


 慌てて注意するヒビキの声に、再び大きくうなずいたワニ兵衛。


【畏まった! また我が国にもゆるりとお越しくだされ!】

 

 そう、云うやいなや……

 大きく飛び上がって、頭から砂地に潜った。


 ワニ兵衛の蛇な尻尾の先が、だんだんと砂に飲み込まれるさまを眺めながら……。


「砂豚母ちゃん、吐かずに帰れるンかなぁ」


 と、カイ君がボソリと呟いた。


 うん。 次にワニ兵衛の頭の部屋に乗る事があったら、海の幸の匂いで充満してないと良いね……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ