表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/167

120.海底へ

「ヒビキ、なんっとかっしてええええ!!」


「ンな、むちゃだよ!」


 ピーちゃんの泣き言に、ヒビキを代弁するかのようにカイ君が返事している。


 水流”強”で回る洗濯機の中のような状態なのだ。

 結界が壊れていないだけでも上々だろう。


「ごっ。ごめん。どっちが上かももぅ判らないんだ!」


「俺は大丈夫ー!」


 むっちゃんを肩に担いだカイ君も、そうとう大変だろうに、気丈に振る舞ってくれている。

 私も、すでに吐きそうなんだけど、お子様達がこんなに頑張っているのだ、母ちゃんがへこたれている場合ではないだろう。


 けど、だいぶキツイ~~!!


「きゃあああ!」


 不意に回転が収まると、今度はミシミシと結界を締め付ける音がした。

 慌てて結界の外を確認すると、ゾウ姫がヒビキの結界を両前足で挟み込むようにして掴んでいる。


 川に飛び込んで来たように見えたのは見間違いじゃなかったのね!


「姫さン、泳いで追いついたンかな? すげえな」

「このおバカ! 感心してる場合?!」


 カイ君とピーちゃんのプチコントが繰り広げられている間にも、ミシミシと結界を圧迫する音が続いている。


 電撃入れたら離れてくれるかな。

 姫様の皮膚って、電気通さなさそうなんだよな……。


 結界に攻撃したら、それなりのダメージが返っていくはずなのに、素手でつかむゾウ姫が怯む気配は一向に無い。


 痛みを我慢しているのか、それとも見るからに分厚そうな皮膚が阻んでいるのか……。


 ダメ元でやってみるかと考えた矢先、ゾウ姫が下降し始めた。


 ヒビキの肩越しに見える、遠ざかる水面の向こう側に、大陸を取り囲む山脈が見える。


「ちょっと! 山脈超えちゃってる!」


 私と同じく、チュニックの中から肩越しの景色を確認していたピーちゃんが叫ぶ。


「そンなに流されたンかー!」


 振り向いたカイ君も、ゆらゆらときらめく水面の向こう側、どんどんと遠ざかる山脈を見ながら慌てた声をあげた。


「やばいじゃない! 河口は人魚の巣よ!」

「「人魚おぉおおぉおぉ~~?」」


 妖精の女王様から色々うんちくを習っていたピーちゃんが、慌てている声につられるように慌てだす男子たち。


 どうしようどうしようと慌てている合間にも、下降を続けていたゾウ姫が、急旋回でくの字に方向転換すると、大陸棚に空いている大穴を進み始めた。


 迷路のようになっているのか、右、左、下と進む方向が次々と変わってゆく。


 うまく開放されたとしても、どう進めば水面に戻れるか判らないこの状態では、迂闊に電撃も放てなくなってしまった。


「やばいかも……」


 つぶやいたヒビキの額から、大粒の汗が流れている。


「なに、破られそうなの?」

「うん。長くは持たないと思う」


「ピーちゃんは、結界張れないンか~?」

「張れるけどね! アンタ達全員を入れるような、大きいのは無理よ!」


 ピシリ


「「ぎゃあああああ!!」」


 ヒビキの結界に3センチ程の小さい亀裂が入ったのを見て、どもりながらピーちゃんが叫ぶ。


「ヒ、ヒヒ、ヒビキ、頑張るのよ!」


 必死に歯を食いしばっている為、慌てふためくピーちゃんに、返事すらできなくなっているヒビキ。


「だ、大丈夫だぞ、ヒビキ。結界なンか、壊れた瞬間また張ればいいンだ!」


 壊れた瞬間、とんでもない量の水に襲われるんだけどね!

 おそらくすんごい水圧もかかってくると思うけどね!


 心の中でカイ君にツッコんでいると、外の景色に点々と光が混ざり始めた事に気づく。


ねぇ(にゃ)水が光ってる(にゃ~にゃにゃ)」 

「え? ほんとだ! ヒビキ、カイ! 水が光ってる!」


 みんなで、ぽかんと口を開けながら眺めている間にも、小さくて丸い海蛍のような青白の光が、段々と増えて来た。


「なンか……上昇してないか?」

「……してるわね」


 ゾウ姫が、ぐんぐんと上昇するのに従って、青白い光の密度が増えて、天の川の中を泳いでいるような錯覚にとらわれる。


「こんな時になんだけど……。すごく綺麗ね……」

「俺も思った~。怒られそうだから言わなかったけど~」


 イシシと笑うカイ君に、張り詰めていた神経が少し和んだのか、ヒビキの目が優しく弧を描く。


 青白い光のおかげで、ゆらゆらと揺らめく水面が見えた。


 あと少しで水面だ。出た瞬間、電撃を入れられるように、ヒビキのチュニックから前足を出して準備をする。

 

 

 ドパァン!


 ゾウ姫が、勢いよく水面から飛び上がった瞬間!

 結界を解いて、腕の拘束から逃れたヒビキが素早く上昇し、姫様から距離を取ってくれた。


【なっ!】


 驚きの声を上げたゾウ姫の口に、ゴルフボール大に作った電球を投げ込む!


 バチバチバチ!


 怒りでひん剥かれていた姫様の瞳が、ぐるりと上に向いて白目になると、水しぶきを上げて水面に落下した。


 反撃に備えるように、ヒビキが結界を張り直してくれる。

 ぷくぷくと気泡が水面にあらわれて……。


 ゾウ姫が、ぷかりと浮き上がってきた。


「気絶してるわ……」

「ふぅ……。助かった……」



 力なく水面を漂っているゾウ姫を見ながら、みんなで安堵の息を吐く。


「ヒビキ、今のうちに魔力回復しときなさいよ?」

「うん」


 妖精のキノコに王様の粉をかけて、口に入れたヒビキが、同じものをカイ君にも渡そうとすると。


 口を開けてダイレクトに受け取って、にんまりしながら咀嚼し始めた。

 

「横着者~」


 ニマっと笑うヒビキに、イシシシと笑って返している。

 仲いいなぁ。


「ピーちゃんとオカンもいる?」

「私はいらない……」


 水中のぐるぐる移動が尾を引いていて、今なにか食べたら吐きそうだ。

 私もいらないと首を振る。


「さて……。ここからどうやって脱出しようか……」


 水中の青白い光に照らされて浮かび上がる、地底湖のような場所をぐるりと見回しながら、頭の中に浮かんできた”絶望”の文字を強引に追いやった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ