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115.カイ君のぞわぞわ

「は~。なんか地面って安心する……」

「俺も、俺も~」


 てくてくと街道を進みながら、呟いたヒビキにカイ君が同調している。


「ワニ兵衛って、頭にあの部屋つけたままにするのかしら……」

「まさかぁ! 髪の毛編んで作ったらしいし、ほどくと思うよ?」


「えー。でも、また呼んでって云ってたし、いつ呼ばれても良いようにって、あのままっぽくない?」

「ありえるかも……」


「可愛いからいいンじゃね?」

「「え?」」


「あれは、可愛くないわよ?」

「可愛いとはちょっと違うと思うよ?」


 ヒビキとピーちゃんから、そろって異論を唱えられたカイ君は。


「えー。可愛いと思うけどなぁ……」


 と呟き、ふてくされたように乱暴に砂を蹴り上げながら、数歩先を歩き出した。


 いかついワニ顔の王様の頭に……白い球体のヒビキ専用の小部屋……。

 チャームポイント……にはならないよねぇ。




 頭の後ろで手を組んで、つまんなそうに先を歩くカイ君の後ろ姿に、なんとなく皆で半笑いになっていると、ようやく橋が見えてきた。


 かなり大きくない?!

 キプロスの町しか知らないけれど、文明が発達しているとは思えないこの世界に、あんなに大きな橋って掛けられるものなの?


 ……あ、魔法があるから、ぐわーっと土とかで掛けられるのかなぁ……。


「大きな橋だね!!」


 嬉しそうに云うヒビキに、眉間に皺を寄せたカイ君が「なンか……ぞわぞわする……」と返事をして、隣を歩き始めた。


「カイのぞわぞわは、やばいじゃない。ヒビキは何も感じないの?」

「うん。今のところ、殺気は感じないよ」


「カイ、ゾワゾワって、砂の国の時みたいな感じ?」

「うン。背中の毛がぞわぞわしてる」


「カイが感じるのって、殺気とは違うのかもね」

「うーん。なんだろ?」

「わかンないや」


 カイ君は、獣人の特徴が色濃く出ているみたいだし、動物の感みたいなものが備わってるのかな。

 危険察知能力……とか、第六感的なものとかかしら……。



「ピーちゃん、橋を渡らずに、『賭博の街』に行く方法はある?」


 カイ君のぞわぞわを信じるヒビキが、回避策を考え始めたようだ。


「空を飛ぶぐらいしか思付かないわ。そういえば、カイはどーやって川を渡ってきたのよ?」

「川の上流を泳いだンだ」


 人目の少ない夜に、川幅の狭まっているあたりを泳いで、そのままエルフの森に入るルートを使っているらしい。


「川沿いのエルフの森も、一番端っこの木なら結界で弾かれないかな?」

「たぶン大丈夫だぞー」


「カイが泳いで渡った上流まで森の端を歩いて行って、そこから飛ぼうか……」

「橋には、見張りが昼夜問わず居るらしいわよ」


 エルフの森は、川のすぐそばまで隣接しているので、一番外側の木伝いに進もうとすると、橋のすぐ手前で、森に入る事になる。


「橋の手前から森に入ったら、何か云われるかなぁ?」

「お貴族様直属の見張りらしいから、渡れ! 料金払え! って云ってきそうよね」


 日中、橋の見張りに見咎められずに、森に入るのはほぼ不可能だろう。


「この辺で隠れておいて、夜になったら、一気に飛んで森にはいる……?」

「魔物来るンじゃないかー?」


「空を飛べる魔物は、夜の方が活発になるらしいわよ」


 この世界は『印の星』が出ているので、夜でもわりと明るいから、夜陰に紛れて行動するには不向きだ。

 橋の見張りを避けて飛んで、その結果魔物に襲撃されたら……と考えると、迂闊な行動もとりにくい。


「カイのぞわぞわの原因も判らないし、一旦正攻法で橋まで行ってみようか」

「それもそうね」


 ぞわぞわしているカイ君を気遣って、ヒビキとピーちゃんが「良いかな?」と聞いている。


「うン。俺もそれでいいー」


 考える事が苦手なカイ君が、ぞわぞわは嫌だけど、良い案も浮かばないし、で面倒になったのだろう。

 拍子抜けしそうな軽い口調で返事をしながら、ヒビキのチュニックの中に居た私をひっぱり出して、頭の上に乗せた。


 ミニ砂豚の時のように、私で遊ぶつもりだな?!

 

「ぎに”ゃ!!」


 案の定、頭の角度を微妙に傾けて、私をずり落とそうとしてきおった!



 落ちそうになってしがみ付く私が面白いらしく、反対側に傾けたり、後ろに傾けたりと、完全に遊びモードに入っている。


「オカンと遊ンでると、ぞわぞわちょっと無くなる~」


 ”落ちそうで落ちないオカン遊び”をしながら、ポロリと本音が漏れるカイ君


 自分しか感じない不安感って、心細いよね。

 ちょっと腹が立つ遊びだけど、もうちょっとだけお付き合いしてあげよう。


 でも、時々爪たてるぐらいは良いよね……?


 


 あと1時間ほどで橋に到達できそうな所で、休憩を兼ねて少し早めのお昼ご飯を食べる事になった。


 キプロスの町で頂いた、ゴザと組み立て式の簡易ちゃぶ台モドキをだして、アツアツのホットドッグにかぶりつくヒビキとカイ君。


 私とピーちゃんは、妖精のキノコを分けて食べている。

 ホットドックは美味しいんだけど、連日となるとちょっと飽きるのよね……。


 3食ジャンクフードでも喜べる男子達が、ちょっとうらやましい。


 一足先に食べ終わって、ちゃぶ台の上にロココな寝椅子を出したピーちゃんが、どっかと寝そべったかと思うと、盛大なため息をついた。


「はー。なんか疲れたわ~」

「自分で歩いてないのに疲れたンか?」


 二本目のホットドックにかぶりつきながら、心底不思議そうに聞くカイ君。


「体じゃなくて精神的に疲れたって意味よ!」

「おー。俺それ知ってるぞ。センサイってやつだろ?」


 にしししと笑いながら、相槌を打ってるけど、それ誰かの受け売りだってバレバレだよ。


 屈託なく笑うカイ君に毒気を抜かれたピーちゃんが、小さく溜め息を吐く。


「もうちょっとゆっくりさせてあげたいんだけど、片づけた方がよさそうだよ」


 食事をしながらも、橋の方向を警戒していたヒビキが、いち早く立ち上がってピーちゃんに目配せする。


 意図に気付いたピーちゃんが、素早く空間収納に寝椅子を仕舞う。

 ヒビキがちゃぶ台モドキを片づけて、私をチュニックに入れてくれた。


 ヒビキの視線の先に気付いたカイ君も、大急ぎで残りのホットドックを口の中に放り込み、ゴザを畳んでヒビキの空間収納に投げ入れる。


 町を出てから思いつくままにしていた、万が一を想定した特訓シリーズの、”大急ぎで片づける”が役に立ったようだ。


「今までで一番早く片付けられたンじゃないかー?」

「そうだね」

 

 橋の方向から近づいて来る人影を凝視しながら、軽口をたたく二人。


「カイ、ぞわぞわは?」

「強くなってきた」

「もー! やっぱり厄介事なの!?」


 人影は結構な速さで近づいてきている。

 

「走って来てるみたいだね」

「だな。俺と同じコボルト族みたいだぞ」


 みるみる内に近づいて来る人影を凝視しながら、カイ君と手を繋ぎ薄い結界を発動し始めるヒビキ。


 出会い頭に攻撃を仕掛けられる事は……さすがに無いと思いたい……。

 祈るような気持ちで、人影を見つめた。


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