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112.砂の国の王様再び

「この辺りで良いかな」


 エルフの森に沿うように通っている街道まで、戻ってきたヒビキが独りごちる。


「いいんじゃない?」

「俺、すンごい眠たくなってきたぁ。どこでも良い~」


 きょろきょろと辺りを見回して慎重に答えるピーちゃん。

 眠たさのビッグウェ~ブに呑み込まれそうになっているらしく、頭をゆらゆらとゆらし、すでに半分目が開いていない状態の、しまりの無い顔で答えるカイ君。


 そんなカイ君の様子を見たヒビキが、近所の小さい子を相手していた時のような優しい顔になっている。

 やんちゃで手のかかる弟が出来た気分なのかな?


「カイ、もうちょっと我慢してね。すぐテント張るから」

「うぅン~。俺も手伝う~~」


 エルフの森は人間を拒む結界が張られているのだが、一番外側の木が生えている一帯だけは管轄外らしく。

 街道沿いで野宿する時には、エルフの結界が作用しない木に紐を括り付けて、空中にテントを張っている。


 空中での作業になるので、昨日まではヒビキが一人でテントを張る作業をしてくれていたけれど。

 今日からは『吸着のブーツ』を手に入れたカイ君も、お手伝いしてくれるらしい。


 びょんと飛んで、木の幹に吸着し、そのまま適当な高さまで歩いて登っては頑丈そうな枝に、テント紐を括り付ける。

 ジャンプ力も上がっているので、そのまま隣の木までジャンプで渡り、紐を括り付けていくカイ君。


「犬なのか狼なのか、サルなのか……。なんか色んなものが混ざってきたわね」

(確かに、木々の間を飛び渡る姿は、狼っぽくないねぇ)


 私とピーちゃんが、割とひどい雑談をしている間に、寝床が出来上がった。


「ご苦労様~」


 角鯨のベッドの隅に、自慢の天蓋付ベッドを出したピーちゃんが、いち早く横になる。


 横になったカイ君は、すでに寝入り始めた様子。


 同じく横になったヒビキも目を閉じたけれど、すこしまどろんでは寝返りを繰り返していて、寝つきが悪くなっているようだ。


「ヒビキ、眠れないの?」

「うん。眠たいんだけどね。なんでか寝れないんだ」


 戦闘直後だから、気が高ぶってるのかもしれないな……。


(ピーちゃん、ヒビキに”妖精のキノコ・王様スペシャル”を食べるように伝えてくれる?)

「それもそーね」


 ピーちゃんからの伝言を受けたヒビキが、もぐもぐと咀嚼しながら「あ、今なら寝れそう……」と云って、呑み込んだと同時に、ころりと眠りに落ちた。


「戦闘後の興奮状態も、状態異常に入る……って事かぁ。次から戦いの後気にかけてた方がよさそうね」

(そうだね……)


 戦闘訓練を受けたとはいえ、本物の殺意にさらされて戦うのはかなりのストレスだろう。

 私も、いざという時には参戦できるように、唯一の攻撃手段たりえる電撃を、素早く発動できるようにしておかなければと、密かに誓った。


 守られてるだけなんて、かあちゃんがすたるものね!



「すっきりした!!」


 陽が真上に差し掛かりはじめたので、そろそろお子様たちを起こした方が良いかなと思い始めた矢先、ヒビキがガバッと起きてきた。


「にゃう?」


 そっとヒビキの膝に手を置いて問いかけてみる。


「オカン、心配してくれたの?」


 私の頭をひと撫でして「もう大丈夫だよ」と答えてくれたヒビキが、肩にのせて起き上がるとカイ君に話しかけた。


「カイ、そろそろ起きれる?」


「起きれる~」


 返事しながらも、目が開いていないカイ君。

 器用に寝言で返事してくるのは、毎朝の恒例行事だ。


「さて。オカン。今日は何して起こそうか?」


 ヒビキがにやりと笑いかけてきたので、掌球から大き目の霜柱を作り、そっと差し出した。

 受け取ったヒビキが「どこに入れようかな~」と、嬉しそうに呟きながらカイ君を覗き込んで。


「……やっぱここかな」


 がああああ、と、いびきをかき始めたカイ君の口の中に投入した。


「……! ぶわ! 冷たっ! ……美味ぃ……」


 がばっと飛び起きて、口の中の霜柱をしゃりしゃりと噛んでにんまりするカイ君。


「カイ、目が覚めた?」

「うン。俺、この起こし方が一番好き~」


 がばーっと口を開けたカイ君が、私の手の前で停止したので、もう一つ霜柱を作って放り込んであげる。

 ちょっと気温が上がって来たので、毛皮で覆われている私達には冷たい物は助かるのだ。


 噛まずに口の中で霜柱がじんわり溶けるのを楽しんでいるカイ君が、「テント片づける?」と聞いている。


「そうだね。お昼ご飯を食べてから片づけようか」


 カイ君のマネをして、私の前で大口を開けたヒビキが、放り込まれた霜柱の冷たさを堪能しながら返事した。


 ……私は冷蔵庫替わりかっ!!





 街道を歩き始めて、小一時間ほど経過した矢先。


 突然、地面が大きく揺れた。


「わ! 地震?!」


 すばやくカイ君に手を伸ばしたヒビキが、空中に飛び上がる。


 街道の右手に広がる砂漠の一部が盛り上がったかと思いきや。


 どばーん! と、派手な砂煙を巻き上げながら、砂の国の王様が登場した。


【我、参上!!】


 もうもうと舞い上がる砂塵の中央で。

 頭頂部から背中にかけて生えた白い髪をなびかせて。


 逆光を受けて後ろ足二本で立ち上がる王様が、クハハハハと笑っている。


 ……えっと……。

 さっきまでとキャラ変わってません?

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[一言] >我、参上!! え、モモタロス!?
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