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110/167

110.てにをはのひっかけ問題って、気付くとやばい事あるよね

 砂豚父ちゃんの声に、カイ君もむくりと体を起こした。


 いつもなら、”腹筋パンチ”や”ビリビリ電気目覚まし攻撃”をしないと起きて来ないカイ君が、さほど大きくも無い話声で反応した事にビックリする。


「ヒビキ、そろそろ出発するか?」


 大きく伸びをしながら話しかけてくるカイ君に、短く頷くヒビキ。


「そうだね。砂豚さん、もう太陽出始めてるかな?」


 尋ねられた砂豚父ちゃんは【ちょっと待つタ】といって目を閉じた。


【もう行っちゃうの?】

【もっと遊ぼう】

【いかないで~】


 カイ君につられて起きてきたミニ砂豚達が、ぽよん、ぷよんと飛び跳ねながら騒ぎ始める。


 かわいいけど……。

 ヒビキとカイ君の様子を見てると、何となく一刻も早くお(いとま)した方が良い気がしてきた。


 目を閉じた砂豚父ちゃんの、頭のてっぺんから触手が一本生え出して、天井へと向かっていく。

 砂の天井を突っ切って、ぐんぐん伸びているようだ。


 私達がひっかかった、疑似餌が付いてた触手かな?

 あれで、外の様子がみれるのかしら。


 伸び続けていた触手の動きが止ると、【そろそろ日の出の時刻になるタ】と教えてくれた。


「じゃあ、起きて早々で悪いんだけど、外へ抜けられる道を教えてくれるかな?」


 即座にヒビキがお願いすると。


【……わかっタ】


 目を開けて、伸ばした触手を戻した砂豚父ちゃんが、砂の国の王様に話かけた。


【王様。送って来ますタ】

【うむ。道はすでに開けておる】


 いつの間に起きていた王様が、即答してくれる。


 みんな、すごく早起きだな……。

 早起きは良い事なんだけど、なんとなくモヤモヤしてくるのは何故なんだろう……?


「あ、帰る前に一つ聞きたい事があるんだ」

【なんタ?】


 ベッドを片づけ終わったヒビキが、王様の上から飛び降りて着地すると、砂豚父ちゃんに声をかけた。


「みんなって、毎日食事が必要なのかな?」

【いや、ひと月ぐらいなら食べなくても平気タ】


「そっか……。じゃあ、これ、みんなの分。日持ちしないから、一食分だけ置いて行くね」

【良いのか?!】


 差し出された人数分の妖精のキノコを、目を見開いて見つめている砂豚さんの向こう側で、王様が驚きの声を上げた。


「また、無くなる頃に遊びに来ますね」


 口の端だけで笑ったヒビキが、挑むような視線を王様に向けて云う。


 え。なんでヒビキってば王様に喧嘩売ってるの?!


【く、くはははははは。気付いておったか!】


 いきなり大笑いし始めた王様の姿に、深く息を吐きつつじっと見つめているヒビキ。


【譲っては貰えぬか?】

「良いですよと云う訳ないでしょう?」


 真顔になって問う王様に、ドーム型の結界を発動させたヒビキが、怒気を孕んだ声を出す。


【そう身構えずとも、わかっておるよ。まさか寝ずの番をしてまで、その者を守ろうとするとはな】


 ……え?

 ちょっとまって、何で王様も砂豚父ちゃんも、私を見てるの?


 不意に、アベルさんから忠告された言葉を思い出した。


 ”襲う対象は、魔力の強い生き物や、()()()()()に行きやすいと云われています”


 ――え、って事は……。

 繰り返し云われた ”人間()食べない”のセリフ。


 ニンゲン()タベナイ


 もしかして、私だけ、ごはん認定されてたってこと?!

 そういえば……!! 私人間じゃなかった!



 王様の部屋を出て、元来た道を引き返し、落とされた中央ホールをさらに進んでいくと、砂豚父ちゃんが、お礼の品を取りに行った道になり、途中でYの字型に分岐していた。


【こっちタ】


 左側は平たんな道が続いているのだが、砂豚父ちゃんが先導してくれたのは、急こう配な斜面の道だった。


 足を踏み入れた途端、扉も無いのにレースのカーテンを抜けるような感覚が来たので、結界に守られた道なのだろう。


 かなりの角度で螺旋状に伸びている道を、てくてくとしばらく登ってゆくと……。

 不意に、光が差してきた。


 休むことなくぐるぐると登り続けていたからか、若干車酔いのような感じで気持ち悪くなってきた所だったので、助かった!


「やっと頂上! 目が回るかと思った~~!!」


 カイ君も嬉しそうに飛び跳ねながら話している。


 屋上には、南国風の手すりが、ぐるりと円形に囲んでいた。

 

 恐る恐る見下ろして確認すると、ほぼ垂直に伸びている砂の塔のようだ。


 かなり遠くまで見渡せるので、結構な高さがあるらしい。


「来る時こんな塔なかったよ?」


【当たり前タ。これは王様の力で出現させているんタ】

「へえええ」


「で、こっからどうやって川に向かうンだ?」


 太陽が頭を覗かせている方向に、うっすらと見える川を見ながらカイ君が尋ねる。


【滑って行くんタよ】


 砂豚父ちゃんが塔の天井にある突起を押すと。


 砂づくりの塔の手すりの一部から、砂の滑り台が伸び始めた。


「すごい! これを滑って行くンか?」

【そうタ。魔法が掛かっているタらな。良く滑るタよ】


 砂豚父ちゃんは、にこーっと笑うけれど。


 えっと……。

 長時間の滑り台って……摩擦でお尻がえらいことになりそな気がするんだけど……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ワニ頭の王様や、砂豚など、次々に出てくる、 不思議な登場人物たちが、メルヘンでもあり、 幻想的でもあり、これぞ異世界という感じで、 本当に、面白いですね。 よくよく考えてみたら、羽の生えた…
2020/09/26 18:08 退会済み
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