109.世界樹と竜王と浮島と
「世界樹って、どこに生えていたのですか?」
石になった世界樹の種を、芽吹かせるヒントが貰えるかもしれないと、思ったのだろう。
ヒビキがベッドから身を乗り出して王様に問い始めた。
【世界樹は、浮島に存在しておった】
「浮島……って、島が浮いてるの?」
【そうだ。ただの浮島なら、大陸の外側――人間が海と呼んでおる場所に、今も数多く存在しておるぞ】
「浮島の周りって魔法が使えないらしいわよ」
「えっ?! 使えないの?」
「うん。女王様が教えてくれたもの」
【世界樹が焼かれる前は、使えておったのだがな。どういう原理かは知らぬが、世界樹が失われてからは、五属性の魔法だけ使えなくなったのだよ】
「五属性って、火・水・土・風・木の魔法の事であってる?」
「うん。あってるわよ」
「風が使えないから飛べないって事かぁ……。飛んで行けないなら、世界樹があった浮島を探すのも難しそうだね」
「そうねぇ……」
【世界樹があった浮島なら、現在竜王が住処にしておるからな。探すだけなら容易いぞ】
「え?」
【嫌な気配がする浮島を目指せばよい】
ぐわっはっは~。と、嘲るように笑う王様の動きに合わせて、ベッドが大きく揺さぶられる。
ちょっと! 王様! 私達が頭の上に居るんだからね!
もうちょっとソフトに笑って下さる?!
「風魔法を使って飛べないのに、歴代の勇者はどうやって竜王の所に行ったんだろう……」
「そーいえば、そーね」
真剣な顔で話し合う二人とは対照的に、揺れるベッドに、ケタケタと笑うカイ君とミニ砂豚達。
カイ君は何でも遊びになるようだ。 ……自由だなぁ……。
揺れるベッドに気持ち悪くなってきた。腕の中の、私の毛が逆立っている事に気が付いたヒビキが、ベッドから数センチだけ浮き上がって、振動が来ないようにしてくれる。
……寝ころんだ姿勢のまま浮き上がれるって、何気にすごくない?
いいなぁ……。風魔法。
【勇者とは一度も会うた事がないのでな。その辺りの事は知らん】
「世界樹の種が石になって飛び散ったのはご存じですか?」
【知っとるよ。我もいくつか持っておる】
「じゃぁ、芽吹かせる方法って……」
【知っておったら、我がとっくに芽吹かせておるわ】
「……ですよねぇ……」
印の星が現れて勇者のお蔭で消えるまで、徐々に体が腐っていく状態を、約五百年おきに三回も経験していたんだもんね。
知ってたらやってるよねぇ……
なんにもヒントを得られそうにないと気付いたヒビキが、深い溜め息をついている。
簡単に見つかるとは思ってなかったけど、芽吹かせるのは難易度がとんでもなく高そうだね。
【土産替わりに持って行くか?】
「あ、すでに持っています」
【なんだと?!】
「妖精の国の女王様が分けてくれたんです」
【そうか……。お主が、芽吹かせる方法を見つけてくれる事を期待しておるよ】
「頑張ります」
さっきまでケタケタと笑いながらじゃれあっていたカイ君とミニ砂豚達が、遊び疲れたのか、ウトウトとまどろみだしている。
【砂豚よ】
王様が、ふいに砂豚父ちゃんに呼びかける。
【は、はいっ】
【この者たちに、明日アノ道を使わせてやるがよいぞ】
【畏まりましタ】
「あの道?」
【川まで最短で行ける道タ。すぐに橋が見える所に出られるんタ】
「ありがとうございます」
【では、そろそろ休むが良い。我も、久方ぶりに良い夢が見られそうだ】
生きたまま体が腐る感覚っていうのは、想像しただけでも……つらそうだもんね……。
久しぶりに熟睡できると良いなと思った。
◆
地中に居ると、時間の感覚がつかめない。
いつもは、ヒビキの頭の近くで丸まって寝ているのだが、なぜか腕の中から離して貰えなかったので、満足に寝返りをうつ事もできず。
少し寝た筈なのに、全然寝た気がしない。
へんな時間に目がさめちゃったなぁ……。
くわーっとあくびをすると、「まだ早いよ。もうちょっと寝てて良いよ」と小声て囁くヒビキに撫でられた。
横になったまま顔を上げてヒビキを見ると……。
え? 目が赤いよ? もしかしてヒビキ寝てないの?!
私が驚いた事に気が付いたのか、「大丈夫」と云いながら、なおも頭を撫でられる。
なんで? なんで寝てないの?
【もう起きタのか?】
背後から発せられた声に体をひねって振り向く。
ベッドを覗き込んでいた砂豚父ちゃんがいた。
触手を伸ばして自分の体を持ち上げているようだ。
……器用な事が出来るのねぇ……。
って、いつから覗いてたの?!
もしかして、ヒビキが寝てないのって、覗かれてたから?




