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108.砂の国でお泊り

【驚いタ……。まさか『世界樹のしずく』を持っていタなんて……】


 紫色のままの砂豚父ちゃんが、うわずった声で一人ごちる。


「私達を食べなくてよかったわね~?」


 ピーちゃんが、べーっと舌を出しながらチクリと釘を刺すと。


【ううぅ。本当タな。襲いかかってすまなかっタ】


 砂豚父ちゃんの体表が、どんよりと濁った紺色に変色したのを見て、「しょんぼりしたら紺色なんだ」と、面白いおもちゃを見つけた時のような、悪い笑顔になった。


 体の色のバリエーションは、私も気になっていたけれど、いじめるのはやめてあげてー。


 次の”砂豚さんの色変化チェック”メニューを、「感情の基本って喜怒哀楽よねぇ……」などと、ブツブツ呟きながら考えだした矢先。

 『妖精のしずく』を飲んだ、砂の国の王様の体から出ていた光が治まった。


 妖精の王様の時にはすぐに収まっていた光だけれど、体の大きさに伴って、光ってる――回復に要する――時間――が変わるのかな?


 大きく深呼吸した砂の王様が、むくりと起き上がって身震いすると、体中に積もっていた砂や埃が、ぶわっと飛び散った。


 ヒビキが張ってくれたくれた結界のお蔭で、私とピーちゃんは砂をかぶる事は無かったのだけれど。

 少し離れた所で、闘技場風の建物の壁を登って遊んでいたカイ君と、砂豚父ちゃんに直撃していた。


「うわっぷ! ひでえ!」


 ぶるぶると砂を払うカイ君に向かって、王様が元気な声で詫びる。


【おぉ。すまぬな】


 電車一両分あるワニ顔が、にっこり……とほほ笑む笑顔は、かなり怖い。

 いまの、笑った……んだよね?


 肉食動物が、獲物見つけた時の顔に見えるんですけどー!


「王様、もう一回口を開けて下さい」


 右手に妖精のキノコを準備したヒビキの声掛けに、素直に口を開ける王様。


 大小の鋭い牙が、びっしりと生えている口の中は、間近で見ている事も相まって、ものすごく怖い。

 手に持ってる妖精キノコを入れるだけなんだから、そんな思いっきり口開けて貰わなくても入るよぅ。


 妖精のキノコが投げ込まれたのとほぼ同時に、


 バクン!


 と、王様の口がもの凄い音をたてて閉じた。


 ……ワニだもんね。閉じる方が得意らしいもんねぇ……。

 あまりの勢いに、軽く風まで起きちゃってるよ。

 捕食対象に認定されなくて、本当によかったと思う。


 王様にとっては、もぐもぐと咀嚼するほどのサイズではないので、丸のみしたのだろう。

 縦に瞳孔が開いている王様の目が、少しだけ太くなった。


 丸のみ状態でも、好きな食べ物の味するのかな……?


【ありがたい。妖精のキノコまで持っているとはな】

「たまたまですよ。それより、どこか痛かったり、つらい箇所はありませんか?」


 王様が、四肢を軽く踏み鳴らして確認し始める。


 ズズ……ン、ズズ……ン、と地響きが起きてるけど、これ、王様が四股踏んでるから起きてるの?!

 天井からも、ぱらぱらと砂が零れ落ちてくるので、崩れやしないかとヒヤヒヤする。


 何かの本で、海中とか地中って落ち着かないって書いてあったけど、身に染みたよ。

 早く地上に戻りたい……。


【問題ない】

「よかったです。では、俺達はそろそろお暇させて頂きますね」


 ぺこりとお辞儀をして、カイ君に目配せをしたヒビキが、入ってきた扉の方へ歩き始めると、王様が引き留めてきた。


【そう急がなくてもよかろう。もてなしは出来ぬが、もうじき日も暮れる。泊っていけ】

「え……でも……」


【大丈夫タ。私達は人間を食べない】

【この辺りは腐り始めて凶暴化している魔物が出やすい。日暮れ近くに外に出るのは危険だ】


 砂豚父ちゃんと王様のお誘いを受けて、少し困った様子のヒビキ。


 そばに来ていたカイ君に、可否を求めるように視線を送ると「俺はいいよ? 今さらいちンち二日ぐらい、大差ないもン」と、答えられている。


 続けて、私とピーちゃんにもお泊りを受けるか尋ねてくれたけれど、特に反対する理由が浮かばないので同意した。


 はやく外に出たいけどね。


 地上だと、夜なかに魔物の遠吠えが聞こえて来る事があるので、ちょっと怖いのだ。

 ここだと王様がいるので、おそらく安全度は高いだろう。


 本当に、王様たちが人間を食べなければ、だけど。



 ワニの頭と四肢に、大蛇の下半身を持つ砂の国の王様の。

 目と目の間に、角鯨のベッドを出して寝そべる私達。


 薄く結界を張ったままのヒビキに気付いた王様が、【だから人間は食べぬと言うておろう】と、豪快に笑い飛ばしたあと、この場所で寛ぐ事を提案してくれたのだ。


 確かにここなら、突然バクっといかれる心配は低そうよね。


 ヒビキもそう判断したのか、結界を解いて寛いでいる。


 角鯨のベッドは一つしかないので、カイ君も一緒に寝ているのだが、男子二人が並んで寝ても充分な広さがある。

 ――ある、んだけど。


 なぜか、ミニ砂豚達まで全員一緒にベッドの上に居るものだから、今夜だけはぎゅうぎゅうだ。


 砂豚父ちゃんまで【一緒にベッドに乗りたい】と云いだしていたけれど、ヒビキが丁寧にお断りしてくれていた。


【流石に、今回の”印の星”出現で、この世の見納めを覚悟しておったが、まさか『世界樹のしずく』を与えられるとは思わなかったよ】


 不意に王様が話しかけてくる。


「え? 今回の……ってことは、今までの”印の星”も見てきたのですか?」


 空にずっと浮かんでいる土星のような惑星は、竜王が浄化する力が著しく低下すると、出現すると聞いた。

 今回初めて見たのではないって事は、この王様かなり長生きさんって事よね。


【王様は、世界樹が存在していた頃から王様なんタよ】


 ええええええええええ!

 ってことは、少なくてもニ千歳?!

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