表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/167

107.砂の国の王様登場

「あ~、びっくりした!」


 ヒビキと手を繋いで降りてきたカイ君が、ホッと息を吐きながらぶんぶんと尻尾を振っている。


 ……全然反省してないでしょ。

 むしろ、面白かったと云ってるように見えるよ~。


「だから気を付けてって言ったのにー」


 安全第一なヒビキがプリプリと怒っているけれど、カイ君は悪びれる事なく笑顔で見つめ返していた。


【お礼になっタか?】


「うン!」

「なったよ。ありがとう」


 砂豚父ちゃんの真ん丸な目が、嬉しそうに細まった。


「そろそろここを出たいんだけど、出口を教えてくれるかな?」


 ヒビキの問いに、細まっていた目を申し訳無さそうに歪めた砂豚父ちゃんが云う。


【出口タある。……案内タする。だが……その前にもう一つお願いがあるんタ】


 しおらしくなった砂豚の姿に、「どうする?」とピーちゃんに相談するヒビキ。


「どうせ受けるつもりなんでしょ?」


 即座に見破ったピーちゃんに、「あ、ばれてた?」と照れ笑いをしてから。


「俺に出来る事であれば、聞くよ。何かな?」


【気休めにしかならないのは判ってるんタが……。回復魔法をかけて欲しいお方がいるんタ】


「……回復……」


 肩でくつろいでいた私をチラリとみてきたヒビキに、小さく頷いて了承を伝える。

 

「良いよ。誰を回復して欲しいのかな?」


 私の意志を正しく理解してくれたヒビキが、砂豚に返事をした。


【砂漠の王様タ】


「その内来るって云ってた人だよね?」


【……すまんタ。嘘をついタ。王様はこの下の階に居るタ】

「この下……って、砂だよね?」


【砂の国は、地下へと伸びているんタ】

「王様、怪我してるの?」


【……。……案内していいか?】


 王様の容体を聞いた事に対しては、視線を逸らして濁された。


 ……よほどお悪いのかな。

 私の回復魔法で治らなかったとしても、妖精の王様の粉もあるし、なにより『世界樹のしずく』もある。

 事切れてさえなければ、絶対に助けられる筈だ。

 

「いいよ」と伝えたヒビキの言葉の後、【ついて来て……】と云った砂豚が、”お礼の品”を取りに行ったのとは反対側の砂の道を先導してゆく。


 緩やかに下っている砂の道を、10分程歩いたところで、岩で作られた大きな扉に辿り着いた。

  

 岩の扉には、ワニのような頭と四肢に蛇のような尻尾がついた生き物が、大きく口を開けている装飾が施されている。

 縦横3メートルはありそうな、大きな扉いっぱいに施された浮彫は……なかなか……威圧感がある。


 きっと、これが王様だよねぇ……。


 回復魔法をかける時は、かなり近づかないといけないわけで。

 ……怖いなぁ……。

 

 

 王様との対面にドキドキしつつ、こんな大きな扉をどうやって開けるのかしらと訝しんだ矢先。


【怖タらずに、私に続いてくれ】


 と云った砂豚が、岩の扉にそのまま突っ込んで行った。


 岩の扉は砂豚を阻む事なく、その姿を呑み込んでいく。

 どうやら、許可された者だけ通す仕掛けになっているようだ。


 おそるおそる扉に付けたヒビキの手が、するりと呑み込まれ、そのまま進んでいく。


 妖精の国の、何重にも張られた結界を通り抜けた時のような、ねっとりと纏わりつく感覚はしない。

 薄いレースのカーテンで、肌を撫でられるような感じが一瞬だけした後、岩の扉を通り抜けたようだ。


「この臭い……」


 扉を抜けた途端に漂ってきた、嗅ぎ覚えのある臭気。


 ――腐りかけた魔物の臭いだ。


 円形の闘技場のような造りの大広間の中央に、岩の扉に描かれていた魔物が、苦しそうに横たわっている。

 

 6両編成の電車程はある体躯の下半分――蛇の部位のほとんど――が腐り落ちていた。


【王様……。回復魔法が使える者タ連れてきタ】


 小さく弾みながら王様に近付きつつ、砂豚が報告を入れている。


【無駄だ。コレは回復魔法では効かぬよ】


「知ってます。口を開けて下さい」


 小走りで、王様に駆け寄ったヒビキが、手慣れた動作で空間収納から『世界樹のしずく』を取り出して蓋を開ける。


【おまえっ!! ソレはっ!!】


 砂豚父ちゃんが紫色に変色して叫ぶ。


 びっくりしたら、紫になるのかぁ……。

 なんだか、何をしたら何色になるのか、実験してみたくなってきたな。


 薄目を開けてヒビキの手に持つ物を確認した王様が、少しだけ開けてくれた口の中に、しずくを垂らし入れると、すぐにほんのりとした金色に輝き始めた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ