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106.砂豚からのお礼の品

「オカン、頼めるかな?」


 頷いた私を、やっとチュニックから出してくれた。

 

 ……ふぃ~。

 危険から守ってくれてるのは判るけど、全身毛皮に覆われているからか、服の中に押し込められたまんまだと、なんとなく蒸れてかゆくなるのよね……。

 ぐいーっと腰をそらして伸びてから、乗用車サイズの砂豚の体表に掌球を当てて集中する。


 私の掌から発生した淡い緑色の光が、砂豚の全身を覆うと、焼けただれていた触手の切断部分が回復してゆく。


【お、おおお、おまえ……ソレ……】


 ヒビキのチュニックから出てきた時から、真ん丸な眼球を飛び出さんばかりに見開いて、私を凝視していた砂豚が、どもりながら話かけてくる。


「にゃう?」


【その首輪タ! 世界樹の根で作られてルぞ】


「「えええええぇぇぇええ」」


【……知らなかっタみたいタな……】


 絶句しているヒビキとピーちゃんの様子を見て、【まぁ……いいか】と呟いた砂豚が。


【お礼の品タ持ってくる。少し待っタってて】


 と云い、薄い紺色の柱が並ぶ砂の洞窟の奥の方へと、ぽいんぽいんと跳ねながら離席して行った。


 子供たちを連れて行かなかった所を見ると、私達の事を信用してくれてるのかな?





「アベルさん、アレがそんな凄い素材で出来てるなんて……云ってなかったよね……」

「うん。職業『鑑定』の人が吃驚してた、ってミアが云ってたぐらいだったわよね」


「みぎゃ! うな!」


 ヒビキとピーちゃんが、私の首にはまっている『回復の腕輪』について話し合っている。


「んーな! うが!」


 ……ちょっと、カイ君やめて! 猫だけど! 羽生えてるけど! 中身は反射神経をどこかに置き忘れてきたおばちゃんなの!


 ミニ砂豚達に”遊び仲間”と定められたらしいカイ君が、私の両脇を持ち上げてはミニ砂豚の上に乗せて、玉乗りよろしく歩けとけし掛けてくる。


 並んで順番を待つミニ砂豚達は、私を乗っけられると、転がったり飛び跳ねたするものだから、あわあわと落ちないようにバランスを取ろうとしてみるけど。


 ミニ砂豚達の、きゃっきゃと喜ぶ声は可愛いけれど、可愛らしさを堪能している余裕は皆無っ。


(ピーちゃあああああん! カイ君にヤメロって伝えてー!!)


 私の叫びに、こちらをみたピーちゃんが、親指を立ててニカリと白い歯を見せただけで、再びヒビキと話し込みだした。

 ひどい!

 

「難しい話は俺にわかンないもんなー。遊んでる方が楽しいよなー? なー? オカン?」

「んにゃ! んなにゃ!」


 私は楽しく無いってば!

 

 ミニ砂豚からずり落ちそうになる度に、手を伸ばしてくれるので、落っこちる事は無いんだけど!


 不恰好に慌てふためく私を見て、いたずらっ子の顔をしながら同じ動作を繰り返すカイ君に、そろそろ天誅を落とす事にする。

 電撃にするか、水球にするか……。と、割と本気で考え始めた矢先。


【おーまーターせー】


”お礼の品を取ってくる”といって砂の洞窟の奥へ行っていた、お父さん砂豚が戻ってきた。


 2本だけ伸ばした触手の先に、何かを持っている。


 ミニ砂豚の回転が止まったので、急いで飛び降りて、ヒビキのそばへ避難する。

 そっと持ち上げて、お気に入りの左肩に乗せてくれた。


 ……ふぅ。やっぱりこの場所は落ち着くわぁ……。


 ぽいんぽいんと跳ねながら戻ってきた砂豚が、私達のそばまで来ると。


【使える者を選ぶタが……】


 と云って、なにかの革で出来たハーフブーツを、ヒビキの前に差し出した。


 ソラちゃん達の履いていた靴と素材は似ているみたいだけど……。

 娘っこ達の靴には、左右に羽のような飾りと、白い宝石が付いていた。


 砂豚から差し出されたこの靴に羽はついておらず、丁度くるぶしのあたりに黒い宝石があしらわれている。


「砂豚さん、これは……?」

【『吸着のブーツ』タ。高く飛び上ったり、くっついタりできるらしいゾ】


「なんかすごいね。カイ、履いてみてくれる?」

「お! いいのか?」


「うん。たぶんコボルト族達専用のアイテムだと思う」

【よく知ってるタな。その通りタ】


「似たような靴を見たことがあるんだ」

【なるほど……】


 いそいそと『吸着のブーツ』を装備したカイ君が、試しにと跳ねると。


 もともと筋力が発達しているカイ君は、3メートルぐらいは余裕でジャンプする事ができるのだが。

 軽くその倍は飛び上がっている。


 『吸着のブーツ』にあしらわれていた、黒い宝石が淡く輝いているので、無事に適合したようだ。


「うっわお! これ面白い!」


 びよ~んびよんと飛び跳ねながら、柱のそばまで行くと、おもむろに右足を柱に掛けた。


「すげえ! ホントにくっ付いてる」


 そのまま左足も柱に着けると、まるで床を歩くように、垂直に立つ柱を歩いて登り始めた。


「ヒビキー! この靴面白い!」

「よかったねー! でも気を付けてね!!」


 どんどんと柱を登り、砂の天井までたどり着いたカイ君が。


「これ、天井も歩けるのかなー?」


 と云いながら、天井に足を着けた……けど、そこって砂だよ!


 危ないと声を掛ける間もなく……。


「ここ砂だったああああああ~~~!!!」


 間抜けな叫び声と共に、カイ君が落っこちてくる。


「だから気を付けてねって言ったのにー!」


 大急ぎで飛び上がったヒビキが、空中でカイ君をキャッチした。



 



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― 新着の感想 ―
[一言] 吸着の靴、欲しい!!( ´∀` )
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