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105/167

105.ミニ砂豚は水玉模様

【お前は甘ちゃんタ。なんでトドメをさタないんタ?】


 乗用車一台分ぐらいの大きさまで萎んだ砂豚が、くどくどと悪態をつき始める。


「なんでって云われても……。人間食べた事ないって云ってたし。なにか事情がありそうだから?」


 マンボウ顔の砂豚はプルプルと震えながらも、私達に向ける瞳から敵意は消えていない。

 

「妖精キノコなら、沢山あげられるよ。だから、もう攻撃しないって約束できる?」


【ホントか?】


 敵意……っていうか不信感? かな?

 真ん丸の目玉を細めて、ヒビキの真意を探るように見つめている。


「ホントだよ」


 体を左右に揺さぶって、何かを考えている様子の砂豚。

 しばらく、右に~左に~と揺れていたが、ふいにぴたりと停止した。


【そう……タな。どうせお前には勝てないし。約束する】


 砂豚の体表が、警戒色の赤色から深みを帯びた紺色に変わったのを見たヒビキが、地上に降り立ち結界を解除した。


「ふ~。ずっと張ってたから疲れたよ」

「ありがとなー。ヒビキ」


 ヒビキの肩から手を離したカイ君が、緊張した筋肉を解きほぐすように、ぐるぐると肩を回しながらお礼を云う。


「アンタの結界ってどのぐらい持つんだろうね? 今度一日中張ってみる?」

「それは嫌」


「限界を知っておくのも必要よー!」


 プリプリしているピーちゃんを無視して、少しずつ砂豚に近付いて行く。

 ちなみに、私はまだヒビキのチュニックの中だ。

 さっきから出ようとする度に、「まだ駄目」と小声で窘められて、押し込められている。

 ……解せぬ。


【いくつ持ってるんタ?】

「沢山あるよ。いくつ欲しいの?」


 近付くヒビキをじっと凝視しながら砂豚が云う。


【今呼ぶ】

「呼ぶ?」


 私を服の上から拘束しているヒビキの腕が、少し緊張したようにギュッと強張った。


【お前タちー! ご飯タヨー!!】


 四方に顔を向けて、砂豚が呼びかけた途端!


【わーい!】

【ご飯ター!】

【ご飯、人間?】


 バスケットボールぐらいのサイズのミニ砂豚が、7匹、柱の陰から飛び出してきた。

 全員白い水玉模様が付いた、薄水色の体表をしている。

 ぽよん、ぽよんと飛び跳ねながら、ヒビキの周りを取り囲む。


「可愛い!」


 ヒビキの周りでぽんぽん跳ねているミニ砂豚を見て、カイ君が尻尾をぶんぶんと振りながら云った。


 おぉ。カイ君ってば意外と可愛いモノ好き男子だったのね。


「みんな、口を開けて……って開いてるか」


 ミニ砂豚たちも、もれなくマンボウ顔の為、もともとぽっかりとお口が開いてる。

 ふにゃりと笑ったヒビキは、一匹ずつ口の中に妖精のキノコを入れていった。


【うーまいーター!】

【父ちゃん、うまいヨ!】


 もぐもぐしながら喜ぶミニ砂豚達を見て、【よかっタなぁ】と涙を流し始めた砂豚。


 ……っていうか、お父さんだったの?!


「奥さんにはキノコ渡さなくていいの?」


【……外に食べ物探しに行ったきりタ……】

「そっか……。早く戻ってくると良いね……」


 しんみりと呟いた砂豚につられて、しょんぼりしたヒビキに変わって、ピーちゃんが指摘してくれる。


「人間の町を襲いに行ったんじゃないでしょうね?」

【それはナイ。川に住む魔物を釣りに行ったんタ】


「え。川って魔物がいるの?」

【居るに決まってるタろ! お前間抜けな人間タな?!】


 知らなかった……と呟いたヒビキが、一匹のミニ砂豚を捕まえて、放り投げては受け止めて遊び始めたカイ君に向かって声を上げる。


「カイー! 『賭博の街』って、川超えていくの?」

「超えるぞー。でっかい川ー」


 上空に投げられたミニ砂豚に向かって、羨ましそうに見ていたミニ砂豚が飛び上がって頭突きする。

 ぶつかったはずみで、ばらけて着地し、二方向へ弾んで転がっていったのを、慌てて追いかけるカイ君を見ながら、ため息をついたピーちゃんが教えてくれる。


「大丈夫よ。お金払えば橋を渡れるから」


「有料なの?!」

「当たり前じゃない」


 高速道路的な感じなのかな?

 頑丈な橋だといいなぁ……。


【お礼をするタ。 砂豚一族は受けた恩は返すのタ】

「え? いいの? ありがとう」


「珍しっ! ヒビキの事だから、いらないよ~って云うと思ったわ」

「えー。流石に襲われた相手にまで、そんなお人よしはしないよ」


【背に腹は代えられなかっタからな。……あ! しまっタ!!】


 しょんぼりしながら、身じろぎした砂豚が慌てたように叫ぶ。


「どうしたの?」


【触手が出ない……】



 ……さっき傷口焼いちゃったもんねぇ……。





 

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― 新着の感想 ―
[良い点] マンボウ顔の、モンスターというところが、 キモ可愛いのと、あまり見かけない、 新鮮な感じのモンスターで良いですね。 戦闘描写も、この作品ならではの、 シリアスになりすぎない、コミカルさが、…
2020/09/15 08:19 退会済み
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