102.流砂の中で
突如動き始めた砂は、あっと云う間もなく私達を呑み込んで、地中へと引きずり込んだが。
アベルさんによる特訓の成果で、結界の範囲を広げる事が出来るようになったヒビキは、自身を中心に直径3メートル程の球体の物も展開できるようになっていた。
手を繋いでいるカイ君も、一緒に守る事が出来ている。
ヒビキの結界の強度と持続力に関しては、アベルさんから「僕でも敵いません」とお墨付きをもらった為、こんな突発事故が起きたにもかかわらず、誰一人として慌てていない。
エレベーターで降りてる時のように、外の景色が上へ上へと流れていくのを、球体の結界の中でぼんやりと眺めながら。
「まさか、”もしも突然何かに引きずり込まれた時”の練習が、最初に役に立つとは思わなかったよ」
「そうねー。私は”突然何かが降ってきた時”が最初だと思ってたわ~」
「俺は、”突然何かに飛ばされた時”だと思ってたぁ~」
お子様三人組が呑気な感想を話し始める。
ヒビキの云う、”もしも何かに引きずりこまれた時”の練習は、即座に手を繋ぎ、出来るだけヒビキに密着して浮かび上がるというもの。
ピーちゃん提案の、”何かが降ってきた時”の練習は、出来るだけ身を低くしてヒビキに密着するもの。
カイ君が大はしゃぎしながら出した”何かに飛ばされた時”の練習は、空中でヒビキが出した紐を、カイ君が掴み、お互い手繰り寄せながら合流する、というもの。
いずれの想定時にも、ヒビキの結界ありきで考えてしまう程に、この中に居る時に感じる安心感は大きい。
そんな訳ないのに、なぜか”この中にさえ居られたら大丈夫”と思ってしまうのよね。
……なんでだろう……?
「カイ、絶対離さないでね」
「おう」
「ねぇ、ヒビキ。このまま上に飛び上がる事は出来ないの?」
「さっきからやってみてるんだけどね。砂が重すぎて無理みたい。下降の速度を落とすぐらいしか出来てないんだ」
結界の外側を上に流れていく砂を見ながら、これほどの砂の圧の中……何の抵抗も出来ないままの速度で落ちていたら、今頃全員意識を失っていただろうなと、ゾッとする。
「そっか~……。もうかなり落ちてるわよね」
「そうだね……。でも、カイとオカンは俺が絶対守るからね」
懐の中の私を右手で撫でながら、自信を覗かせる瞳でカイ君にも宣言するヒビキ。
「ちょっとぉ! 私は?!」
「もちろんピーちゃんもだよ」
私の隣で拳を振り回して突っ込みを入れるピーちゃんの手に、ちょんと人差し指を当てて補足しているヒビキ。
守る宣言の中からピーちゃんの名前を省いたのは、突っ込み待ちのボケだったのだろう。
ピーちゃんもその辺りを判っている様子で、時折ヒビキとピーちゃんによるプチ漫才が繰り広げられるのが、町を出てからの日課になっていた。
カイ君はこういう言葉遊びが苦手らしく、「え? え? 今のどういう意味?」と解説を聞いてから笑う、という所までがセットだ。
こんな時まで冗談を云う余裕があるのは、良い事だと思う。
緊張と恐怖でパニックになるのが一番良くないってアベルさんが云ってたし。
しっかし、この砂どこまで続いているんだろう……。
「圧が減ってきた。もうじき流砂から抜けそうだよ」
ヒビキの風魔法による飛翔は、片手で提供する事も出来るようになっていた。
まだ、両手で一人ずつは無理らしいが、一人だけであれば難なくこなせている。
右手で”風魔法が付与された剣”を抜き、構えの姿勢を取りながらすごし緊張の籠った声で云った。
それを合図に、カイ君も左手の篭手を構えて、警戒態勢に入った様子。
二人の準備が出来た直後。
不意に、一瞬だけ下降が止まり、何かに押し出されるような感じで、流砂を抜けた。
◆
流砂の底と思われる、さっき私達が抜けてきた部分には、すでに穴は無くサラサラと腕一本分ぐらいの太さで砂が流れ落ちてきている。
ヒビキの球体の結界に守られたまま、ふわりふわりと下降する。
薄い紺色の柱が乱雑に立っていて、柱の上部からのびる枝のようなモノが、網目のように張り巡らされている為に、全ての砂が一気に落ちてくるのを防いでいるようだ。
「これ……柱じゃない。樹だ……」
「うわ。ほンとだ」
「ピーちゃん、ここって何か知ってる?」
「んーん。こんな場所があるなんて、女王様から習ってないー」
「で、俺達が落とされたのは、アレのせいかな」
「だな。アレのせいだろうな」
「見るからにアホっぽいよね、アレ」
落ちてきた丁度真下にあたる位置に。
2トントラックぐらいのサイズの、まるまるとした魚が、ぽっかりと口を開けてこちらを見ていた。
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