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9.謁見

王様の登場。

「こりゃ、広いぜ……」

「圧巻って感じ~」

「すごく、大きいです……」

「委員長! ワンモア! ワンスアゲインプリーズ!」


 リーダーらしき騎士。

 騎士団長に連れられ、翔琉達は謁見の間に通された。

 四人は口々に感想を述べている……一部、違うようだが。

 謁見の間には赤いカーペットが敷かれ、その高級感につい靴を脱いでしまいそうになる。

 壁は堅牢な石造りで、所々文字が書いてある。

 落書き。ではなく、恐らく魔法による防御障壁、盗聴防止とかの類だろう。

 翔琉のネット小説の知識では、その程度のことしかわからない。


「翔琉君は驚かないんですね」


 あまり騒ぎ立てない翔琉を見て、芹那が聞いてきた。


「いや、凄く驚いてるよ。驚き過ぎて言葉が出なかっただけ」


 まさか、ここで「僕は必要かな?」などと聞けるはずもなく、ありきたりな返事をする。

 翔琉の言葉を素直に受け取ったのか、芹那は少し安心したようだ。

 先ほどから翔琉が何かを思い詰めている気がしていた。


「そうですね。ここも変わりなくて良かったです。もしかしたら、魔王の手に落ちていた可能性もあったので」


 芹那は玉座とその上に掲げてある旗に目を移しながら言った。

 その声に安堵の息が混じる。

 どうやら自分の国に帰って来られた喜びも含まれているようだ。


「陛下が参られる! 静粛に!」


 騎士団長の声と共に芹那は片膝をついた。

 それに習い、五人も片膝をつく。

 五人の顔には、王に対する緊張と異世界に来たという期待が入り交じる。


 カツカツカツ。

 規則正しい足音が聞こえる。

 足音が止むと、威厳に満ちた声が響いた。


「面を上げよ」


 その声を聞き、芹那を筆頭に顔を上げた。

 五人は王に謁見するような経験がない、いわば平民だ。

 貴族の教養など一切ないと言ってもいい。

 そんな彼らに出来ることは失礼にならないように芹那を盗み見ることだった。


「我はこの国の王、ルーベンス・セレナーデという。して、お主達は何者だ? 何故、城の中におったのだ」


 確認するかのように尋ねる。

 王は声の通り、威厳さを持つ面持ちをしている。

 深い皺。力強い目。立派な髭。

 そのどれもが王であることを証明しているようだった。


「私は第一王女ルーセリナ・セレナーデ。お父様、お元気そうで何よりです」


 萎縮している翔琉達とは裏腹に芹那は笑みを溢していた。

 家族の久しぶりの再会だ。

 喜びもひとしおだろう。


「そなたがルーセリナか。その立ち振舞いに声。間違いないようだ……それは異世界の召し物か」


 どうやら王は翔琉達の珍妙な格好が気になるようだ。

 軍服に近いとは言え、その装いはあまりにも違う。


「はい、これは異世界の礼服にございます」


「その……そなたが来ておるのは男性用ではないのか?」


 王様にかしずく五人。

 その中で由実、晴香、恭子のスカートを見ていた。

 芹那が着ているのは明らかにズボンだ。

 その違和感に気付いたのだろう。


「お父様。実は私、魔王の呪いによって性別を変えられてしまったのです」

「なんと! 異世界に飛ばされただけでは飽きたらず、そのようなことまで……」


 王は魔王の非道さを痛感していた。

 そして、同時に驚いていた。

 まさか、そのような呪いが存在するなどとは。

 芹那が異世界に飛ばされた事実は同行していた騎士から報告を受けている。

 その魔法だけでも未知であったというのに。

 どうやら、魔王には人の常識では抗えないのかもしれない。


「そうか……それは大変であったな。しかも、そのような目にあったとなれば……魔王退治などやめて平穏に」


「お父様」


 芹那は王の言葉を途中で切った。

 確固たる意志を持った、強い口調だった。


「私は魔王と遭遇し、辛くも生き永らえました。ですが、異世界へ飛ばされ、あまつさえ性別まで変えられたのです。この私の現状を見た国民はどう思うでしょうか?」


 芹菜の言いたいことはわかる。

 魔王の呪いを受け、生き残った者。

 魔王と繋がりを持った者。

 その者を果たして王座に着かせて良いものかと。

 だが、王は人の子であった。


「我はお前を失いたくはない。王城で平穏に……婿、いや嫁でも娶って幸せに暮らしてほしい。これは父親の願いだ」


 先ほどまでとは打って変わって弱気な発言。

 王の命令と頭ごなしに言えない父親の姿があった。


「それは出来ません。こうしている間にも魔王に苦しめられている人は大勢います。今回はたまたま召喚陣が起動して、事なきを得ましたが、また攻められれば二の舞です。また都合よく生き残り、異世界に行っても戻れる保証などありません。こちらから打って出るべきなのです」

「やはり、あの召喚陣が起動したのか……。藁にも縋る思いであったが、残して置いて正解だったようじゃな。して、魔王退治はそちらにいる異世界人の方々も同意しておられるのかな?」


 王は翔琉達に芹菜を止めて欲しいのだろう。

 芹菜ではなく、翔琉達に話を振った。

 芹菜は苦い顔をしている。


「いや、俺……私たちはその話を聞いていません」

「あたしも初耳、みたいな~」

「魔王退治……怖そうです」

「はいはい! 魔王はイケメンですか!」


 四人は困ったような顔をする。

 めまぐるしく変わる状況に頭が付いてこない。

 そんな状態での解答は保留しておきたいのだ。


「あの、質問いいですか?」


 翔琉が手を上げた。

 この決断を下す為にはどうしても聞いておかなければいけないことがあった。


「何かな、え~と」

「翔琉です」

「うむ、翔琉殿」

「私たちは異世界から召喚されたのですが、元の世界に戻る方法はあるのでしょうか?」


 王はしまった、という顔をする。

 翔琉の質問は芹菜を援護するものになるからだ。

 

「そうじゃな。君たちのいた世界に戻れる方法は我々にはわからぬことだ」

「それはつまり魔王以外は、ということでしょうか?」

「うぐっ、うむ。そのとおりじゃ」


 魔王は芹菜を異世界へと召喚している。

 芹菜にとっては異世界であったが、翔琉達にとっては元の世界だ。

 そこから考えれば、誰でもこの解答に辿りつこう。


「つまり、私たちが元の世界に戻るためには魔王と接触するのは必須、なのですね」


 翔琉以外の四人はようやく合点がいったのか。

 結局やれることは一つしかなかったようだ。

 魔王退治をしなくても、接触する必要がある。


「翔琉君。ありがとう」

「あぁ」


 芹菜は素直に礼を述べていた。

 翔琉は力になると決めていた。


「お二人の意思は固いようだが、他の方々もそうなのかな? こちらには王女を帰還させた恩義がある。無理強いはせぬし、衣食住は補償しよう」


 王は四人を味方に付けても、芹菜を止められないと悟った。

 ならば、勝手に異世界に召喚してしまった責任を取る。

 王の人の良さが表れていた。


「まぁ、せっかく異世界に来たんだ。その魔王の顔とやらを拝むのも良いかもしれねぇ」

「そうですね。このままここにいても出来ることはなさそうですし」

「爪割れるのは勘弁だけど、そんなこと言ってられないし~」

「魔王×王? 王×魔王? ふひひ、逆カプもありかも……」


 六人の目的は固まった、のか?

 固まったということにしておこう。




お父さん、娘さん♂を僕にください。


……何かがおかしい。

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