7.異世界召喚
総合評価にブックマークがある……。
呼んで下さる方がいるという驚きと感謝を。
そろそろ異世界に行きたいですね。
その日は不穏な空気が満ちていた。
春の麗らかさが嘘であるかのような曇天。
通学路の途中で黒猫に横切られ、霊柩車は既に三台見送った。
小動物は警戒するかのように鳴き喚いている。
「(嫌な予感がする……)」
翔琉は珍しく怯えていた。
これが以前の翔琉であれば、視界に収めても記憶にも残さなかっただろう。
しかし、昨日聞かされた話。
それを聞いてしまえば話は別だ。
「(今日あたり魔王来るんじゃないか?)」
完全に信じたわけではない。
だが、もし本当なら王女を生かす理由はなかったはずだ。
もしかしたら、王女は魔王の斥候としてこの世界に送った、とか。
「(別の世界を牛耳ろうとするのは出来る奴の特権だしな)」
カッ。カッ。カッ。
黒板を走るチョークの音。
翔琉はぼんやりと黒板を見つめる。
そして、重大なことに気付く。
「(はっ! 僕が寝ずに授業受けてる!)」
今日一番の不安材料だった。
キーンコーンカーンコーン。
今日の授業が終わる。
それと同時に芹菜が翔琉の前までやってきた。
「今日も図書館ですか?」
「あ、あぁ……まずは元の世界に戻る為の資料をね」
昨日は衝撃告白を昼休みに受け、放課後は二人で図書館を調べた。
現代の蔵書に異世界のものがあるとは思えないが、何もしないよりはいい。
そう思ったからだった。
インターネットを使った方法も考えたのだが、ネット小説にそういった情報は溢れている。
有力な情報はないだろうし、そういうのを好んで読み漁っていた時期がある翔琉にとっては今更な知識である。
ならば、手堅く行こうという考えだ。
図書館。
その中で剣や魔法といったファンタジー系を取り揃えた区画。
UMAや未確認飛行物体とうったオカルト系を取り揃えた区画を中心に調べる。
「どうやら召喚には二つの世界を魔法陣、召喚陣か。それによって出入り口を作るのが主流みたいだ。基本的には召喚する側が召喚陣を敷いてないといけないらしい。つまり出口が先にあって、入り口は後付けってことだね」
翔琉は今までの知識と情報を照らし合わせ、口頭で説明する。
芹菜は腕を組み、手で顎を押さえながら「なるほど」と言った。
「僕が異世界に飛ばされた時は召喚陣がありませんでした。つまり、あれは魔王が使った特殊な魔法だったのかもしれません。そんな魔法を扱える相手によく殺されなかったと思います」
単なる気まぐれだろうけど、と小さな声で呟く。
しかし、困った。
こちらから異世界に干渉するには恐らく魔法が必須だ。
それもとびっきり強力なものが。
これも過程だが、この世界は魔法の代わりに科学が発展した可能性がある。
そうなると、現代で魔法を扱えるものは恐らくいないだろう。
だが、そこでふと翔琉の脳裏に一つ疑問が浮かんだ。
「芹菜……もしかして、君って魔法とか使えたりしない?」
一縷の望みを賭けた質問だった。
「えっ、はい。火、水、風、土、光の属性なら中級魔法までなら、使えます」
「そうか、やっぱり使えないか……え? 使えるの?!」
「仮にも魔王に戦いを挑んだので、それくらいは使えます」
さも当然だと言った感じで答えた。
「でも、大気中のマナが薄くて発動するには至らないと思いますが」
上げて落とす。
というか、この世界で魔法を使えたら苦労しないよね。
「となると、芹菜の王国が召喚陣を敷いていないと……勇者召喚とか定期的にやってたりしないの?」
「勇者召喚をしていたかは不明ですが、王国の地下に開かずの間がありました。あまり近くで見せて貰えませんでしたが、召喚陣があったと思います」
非常に有力な情報だった。
もしかしたら、後一歩かもしれない。
「そうそう、確かこんな感じの模様でした」
芹菜が一冊の本を手に取った。
それは翔琉が見た時には明らかに置いてなかった本だ。
本は淡い光を放っている。
やばい空気をビリビリと感じていた。
「芹菜! それを捨てるんだ!」
「えっ」
芹菜に手を伸ばし、本に触れた瞬間。
凄まじい光が二人を包み込んだ。
そして、その場に二人の姿はなく、一冊の本だけが地面に転がっていた。
――――――
「ブフォ。ブフォ。堪りませんなぁ~」
恭子は図書館から二人の生徒を見ていた。
その生徒とは勿論、駿河と手塚のことだ。
二人は昨日から急接近のカッポォなのだ。
「私はなんでここに……」
「……」
由美はどうやら無理やり恭子に付き合わされたようだった。
それに金髪の不良、信治も何故か巻き込まれている。
「委員長。これは由々しき事態です。不純異性交遊ならぬ、不純同性交遊が繰り広げられているのでありますよ。委員長が把握せずして、この悪が裁けましょうか」
「仲が良いことは普通に良いことだと思いますが」
「……」
ご多分に漏れず、信治は由美に対して口止めをしようとして巻き込まれただけだ。
そして、訳もわからないうちにストーキングまがいのことをしている。
典型的な巻き込まれ体質であった。
「ってか、恭子~。あんまし委員長いじめちゃダメっしょ。ってか、こういうのは秘密のまま楽しむのが味噌でしょ~」
「さすが、わかってらっしゃる晴香ちゃん!」
そして、ギャルな成宮 晴香もこの不思議な集まりにいた。
このギャルな晴香とオタクな恭子が実は仲良しだというのにも驚きだ。
恭子が晴香へと少し目を離した瞬間。
凄まじい光が四人の視界を埋め尽くした。
光は先ほど駿河と手塚がいた場所から起こったようだ。
「目が! 目がぁ!」
「ちょっと大佐! 今のマジでやばいんじゃない?!」
「爆発でしょうか」
「ってか、あいつらどこにいったんだ?」
四人の目の前には先ほどいた駿河と手塚の姿はなかった。
そして、その場所には一冊の本が転がっているだけだった。
「コンプリート! 時空を捉えました!」
「えっ、あの本の中に入ったってこと?」
「それはさすがに……でも、あれが原因とみて間違いないはずです」
「とっとと調べようぜ」
信治が本に触れてみるが何の反応もない。
恭子は本を開いて中を見るが、白紙のページが続いているだけだ。
由美も晴香も恐る恐る触れてみるが、普通に古臭い本だった。
「神隠しでしょうか」
「それ以外考えられねぇな」
「うわぁぁん! 神が私の楽しみを奪ったぁぁぁぁ!!」
「恭子、もちつけもちつけ」
「やっちまったなぁぁぁぁ!!」
恭子が奇声を発していると、何の変哲もなかった本に再び光が満ちる。
「おい、これやべぇんじゃ」
「灰原さん! その本を捨ててください!」
「恭子~! 早く捨てなさい!」
「手から離れないんじゃー!!」
先ほどと同じ凄まじい光が四人を包み込んだ。
それがまさか波乱の幕開けになるなどとは、そのときの彼らには知る由もない。
四人の姿が消え、本が地面に落ちる。
落ちた衝撃で本が開いた。
本の中には六人の少年少女が描かれていた。
異世界に行きましょう。