5.委員長の悩み
一気にキャラが増えます。
「(はぁ~、一体どういうつもりなんだろう)」
委員長こと平林 由美は悩んでいた。
頬杖をつき、右手に持った物体を見ては考えを馳せる。
右手に持った物体。
ファンシーなうさぎのぬいぐるみである。
HRの前に喧嘩していた金髪の不良。
真田 信治から貰った物だ。
「(私にはこういう子供っぽいのがお似合いだ! みたいなことでしょうか)」
いくら考えても答えは出ない。
一限目の休み時間をフルに使ってもダメだった。
そして、この二限目の休み時間を使っても答えは出ない。
当の本人である信治は由美の方を見てすらいなかった。
むしろ、来るなと威圧している。
「なに、委員長。それマジファンシーじゃね!」
由美の持っていたぬいぐるみを見たギャル。
成宮 晴香が話し掛けてきた。
「委員長マジ受ける~。とうとう自分のキャラを理解した系?」
「成宮さん。私はこういう可愛いぬいぐるみが似合うキャラではありません。あとスカートが短いですし、色付きのリップは禁止だと言ったはずです」
「固いこと言いっこなし~。そんなに目くじら立ててたら、人生行き苦しくなっちゃうっての~」
晴香の言うことには一理あった。
あまり厳しく規制しても、それに反発する人は必ず現れる。
ならば、小さなことは容認すべきなのかもしれない。
それがエスカレートすれば、結果は同じなのだけれども。
「ところで、成宮さん。男性経験が豊富そうなあなたに質問があるのですが」
「委員長、それって遠回りにビッチって言ってる? 言っとくけど、あ~しのガードめっちゃ固いからね。んで、な~に? 聞くだけ聞いたげる」
「男性が女性に贈り物をするのに、一体どういう意味があると思いますか?」
我ながら頭の悪い質問をしているなと由美は思う。
結論が出ないからといって、目の前のギャルに教えて貰おうだなんて。
答えが出なくても、参考くらいにはなるはず。
そんな軽い気持ちだった。
「えっと、そりゃ好きってことでしょ~。それ以外に何かあるの?」
「ブッ!」
由美は思わず吹き出していた。
年頃の女子としてちょっとした問題行動だ。
「きたなっ! 何、吹き出してんのよ~」
「だって、成宮さんが変な事。その、すすすすすすすすすす」
「はい、黒酢」
「あっ、ありがとうございます。ごくごく……す、すっぱい! じゃなくて、学校に健康食品を持ってこないでください。あと好きってなんですか!」
「若いうちに健康に気を付けとかないと後々後悔する羽目になるし~。あと好きってのは男子と女子がちゅめちょめしたいって気持ち~的な」
好きと言っても家族とか友達に向ける好きでしょ。
そんな由美の逃げ口上は防がれてしまっていた。
男子と女子。
異性間の好きということはその、家庭を持ちたいと言うことで。
その為には子、子どもとか作る行為にふけるわけで。
つまり、真田君は私とそういうことをしたいと。
「ふ、不潔です! 贈り物で性的欲求を満たそうだなんて! セクハラです!!」
「委員長……男子の優しさなんて全部そっちへの道に繋がってるって」
「嘘です! 誠実で性欲なんて持たない人だっているはずです!」
「そりゃ、もう仙人しかいなさそうだし」
二限目の休み時間で答えは出ず、あえなく終了してしまったのだった。
――――――
「(さっきからやけに委員長がハッスルしてるな)」
二限目の休み時間。
委員長はギャルと一緒にはしゃいでいた。
その手にうさぎのぬいぐるみが握られていたのを確認している。
「(ってか、デブには言ったけど。委員長には口止めしてねぇ)」
信治は頭を抱える。
もしかしたら、委員長が信治の秘密に気付いたかもしれない。
そうなったら……信治の学校生活は終わってしまう。
三限目の休み時間。
そのとき、委員長にそれとなく伝えなければ。
生憎、委員長は勘が鋭いタイプではない。
どうにかなるはずだ。
ともかく今は授業中。
信治に出来ることは何もなかった。
手持無沙汰になった信治はクラスの連中を見渡す。
「(HR終わった後からずっと寝てるやつがいるな。なんで先公は注意しねぇんだ。わけがわからねぇぜ)」
一人の生徒に目が留まった。
名前はなんだったか。
確か駿河とか言ったか。
久しぶりに学校に来てはずっと眠っている。
信治は自分以外に素行が悪い生徒を初めて見た気がする。
金髪で不良っぽい外見をしているが、信治は決して馬鹿ではない。
だから、なのだろう。
その駿河を一心に見ている生徒に気が付いていた。
「(手塚か……)」
手塚は基本的に誰かと関わろうとはしない。
その見てくれから男子や女子からは人気があるようだが。
自分から誰かに興味を持つ姿を見せたことはなかった。
「(どうでもいい。俺も寝よう)」
クラスの連中を見飽きた信治は眠ることにした。
三限目の休み時間。
委員長に注意することだけを考えながら。
――――――
「おい、委員長!」
「はっ、はひっ!」
由美は突然の大きな声に驚いていた。
しかも、その相手が金髪の信治だったからだ。
「ちょっと話がある」
「私はありません……」
「そっちにはなくても、こっちにはあるんだよ!」
「ひっ!」
間違いない。
真田君は私に乱暴する気だ。
え、えっちなことを強要するつもりなのだ。
逃げなきゃ。
「ラブコメしてんじゃねぇ!」
その影は由美と信治の間から突然現れた。
三つ編みに眼鏡を掛けた不気味な女子生徒。
灰原 恭子である。
「てめぇ、いきなりなんだよ!」
「ふふふ、春だからといって困りますな。インモラル共」
「灰原さん? いきなりどうしたの」
ふふふと笑い声を上げながら、メガネをくいっと上に上げる。
一瞬、メガネが光った! ような気がした。
「お二人さん。良いから、あれを見るのです」
「あれって、手塚のことか」
「珍しいね。手塚君が誰かに興味を持つなんて」
そこには美少女と見間違う少年がいた。
その視線は机に突っ伏した生徒に向かっている。
「これは間違いありません! 恋です! しかもボーイズなラブです!」
「ボーイズラブ?」
「少年達? 愛?」
「ザッツラーイト!! これは男同士の禁断の愛。男同士なんて、おかしいのに……なんで好きになったんだよぉ。好きなんだからしょうがないだろぉ。もう、我慢出来ねぇ! うっひょー!!」
灰原のハイテンションに二人は完全に置いてきぼりである。
「恭子~。二人が迷惑してるから、こっちね~」
恭子がハッスルしていた灰原を回収していく。
残った二人は未だに何が起こっていたのか理解出来ていない。
キーンコーンカーンコーン。
三限目の休み時間が終わりを告げる。
信治は自分が何をしようとしていたのか。
それすらも忘れ席に着いていた。
二人のラブコメは恭子によって未然に防がれたであった。
恭子はヤバい奴だと伝われば幸いです。