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4.彼? 彼女?

ヒロインとの邂逅。

 一旦落ち着こう。

 まず美少女に声を掛けられた。

 大層可愛い女子であった。

 その美少女が男子の制服を着ている。←New


「(……なるほど、わからん)」


 コスプレか。

 それとも道場を継がせる為に男として育てられたか。

 答えのわからぬ問答に翔琉は思考を手放した。


「少しお時間いただいてもいいですか?」

「はい、大丈夫です」


 翔琉は即答していた。

 疑問は残るが、仕方がない。


「(道場は俺が継いでやろう)」


 そんなことを考えているとは知らず、美少女? は翔琉の腕を引く。


「(おいおい、子猫ちゃん。そんなに必死にならなくても、ぼかぁ逃げないぜ)」

  

 格好なんてどうでもいいじゃない。美少女なんだもの。 かける

 翔琉は再度思考を手放していた。



――――――



「ここなら、誰の耳にも入らないでしょう」


 美少女? に掴まれていた腕が解放される。

 翔琉は無理に引き剥がそうとはせず、そのまま付いて来ていた。


 そこは今はもう使われていない焼却炉だけ残される、人気のない場所だった。

 近くには大きな木が植えられており、二人はその影の中にいた。


「(この伝説の木の下で告白したら、幸せになれそうだな)」


 翔琉はこの期に及んでも、考えることをやめていた。

 だが、足りない頭でも告白でないことだけは理解出来ていた。


「あなたは一体、何者ですか」


 それは問いだった。


「何故、そのような目をしているのです?」


 問いは2つ。

 正直に答えなければ、いけない気がした。


「僕は 駿河するが 翔琉かける。そのような目って、一体どんな目のことかな?」

「全てを諦めたかのような……成し遂げたかのような目です」


 自分の質問に質問が返ってくることを予想していたのだろう。

 間髪入れることなく、答えが返ってきた。


「実際に成し遂げたからかな」

「それは、どういう?」

「それ以上はプライベートなものだよ。君にだって聞かれたくないことがあるでしょう、お嬢様」


 翔琉の言葉に目の前の美少女? はギョッとしたような目をした。

 触れて欲しくない部分に触れてしまったような。

 そんな反応である。


「確かにそうですね。そういえば、自己紹介がまだでした」


そして、意を決するようにスカートの裾をつまむ。

 カーテシーと呼ばれる挨拶だった。


「セレナーデ王国、第一王女ルーセリナ・セレナーデと申します」


 あまりにも堂に入ったおじぎであったため、翔琉は驚いていた。

 翔琉としては、相手の性別が分からない以上カマでもかけてやるか。

 その程度のつもりだった。

 お嬢様ということで、何かしらのリアクションをするだろうと考えたからだ。

 そして、返された挨拶に度肝を抜かれていた。


 目の前の美少女? は確かにお嬢様で、まるで本物の王女のようだった。


「(あれぇ~思ってたのと違うぞ。でも、こういうのはきっちり返すべきだよな)」


 そう思って翔琉は地面に片膝を付き、忠誠のポーズを取る。

  

「失礼いたしました。ところで、何故王女様がこのような場所に」


そんな翔琉を見て、ルーセリナ王女は頷いていた。


「ぼ、私はこの世界とは違う世界から来たのです――」


 話をまとめるとこうだ。

 ルーセリナ王女こと 手塚 芹菜 (てづか せりな)は異世界から召喚された。

 異世界で魔王に負け、呪いで性別まで変えられた挙句の異世界に飛ばされた。

 打倒魔王を誓うものの、元の世界の戻り方もわからずに学生をしていたらしい。

 性別が元に戻る兆しもないので、一人称は私から僕にしたのだそうだ。

 ちなみに苗字の手塚は某テニス漫画の好きなキャラクターであるとのこと。

 気付いたら、いつの間にか戸籍にその苗字が書かれてあったそうだ。

 異世界召喚における弊害の阻害だろうが、人の意識が直接影響してくるとは。

 何か超越的存在が自分を……これ以上は怖いからやめておこう。


 とまぁ、色々話を聞いても信じられないものばかりだ。

 目の前にいる王女様もさすがに信じて貰えないと思っているのだろう。

 表情は暗いままだ。

 むしろ「言ってしまった。どうしよう」と後悔しているようにも見える。


 それにしても異世界か。

 憧れたことは誰しもあったはずだ。

 しかも、魔王という単語も出てきていた。

 ということは必然的に勇者なんかもいることになる。

 剣と魔法の世界。

 生殺与奪の世界。

 夢や幻想を抱いて、生きていける生易しい世界じゃない。

 でも、もし行くことが出来たら、彼女と共に魔王を倒すのも悪くない。


「とりあえずは王女様を元の世界に還す方法を探さないとな」

「し、信じてくれるのですか?!」

「本当でも嘘でもどっちでもいいよ。面白そうだから乗ることにした」

「!!」


 芹菜は声にならない声を上げ、涙を流し出した。

 両手で口元を抑え、少女のようにボロボロと。

 その様子に翔琉は焦っていた。


「(まさか、どっちでもいいとか言ったから泣いちゃったのか!? そうなのか!?)」


 翔琉は狼狽していた。

 性別は男とはいえ、見目麗しい美少女が泣いている。

 精神衛生上、かなりよろしくない。


「あり…がとぅ…ござぃ、ます……信じて、くれて」

「!!」


 反射的に芹菜を抱き締めていた。

 今まで誰にも信じて貰えなかったのだろう。

 その度に傷つき、涙した。

 そんな孤独な芹菜を安心させてやりたかった。


 勿論、同性だから捕まらないだろうと考慮もしている。

 そんな冷静な判断をしている自分が少し恐ろしい。

 数分間抱き締めた後、芹菜は泣き止んでいた。


「あ、あの……そろそろ」

「うわっ! ごめん! 警察は呼ばないで!!」


 なんとも格好がつかない翔琉である。


「警察なんて呼びません。僕はそんなに恩知らずじゃないですから」

「あははは、よかった。王女様……えーと、手塚君」

「僕のことは芹菜で大丈夫です。僕も翔琉君って呼びますから」

「わかった。せ、芹菜……」


 慣れない名前呼びだが、不思議と悪くなかった。

 急激に縮まる距離。

 変化していく関係。

 すぐには無理だけど、自ずと慣れていくのだろう。

 翔琉は何故かそう思っていた。


「あっ、ところで僕はプライベートなことまで話したけど、翔琉君は?」

「えっ、成し遂げたとかのやつ? まだ終わってないの?」

「僕の秘密を知ったのに、自分は話さないんですね……」

「あー。うー、あれだ。お金を一生分稼いだからだよ!」


当たらずとも遠からずの答えを翔琉は言う。

 芹菜はそれ以上深く追求することはなかった。

  

「いつか話してくれたら嬉しい、です」

「うん、いつかね……」


 笑顔を見せる芹菜。

 そのいたずらっぽい微笑みは翔琉の心を揺さぶる。


「(芹菜はまだ男! 芹菜はまだ男! 女に戻るまで我慢! 我慢!)」


 一人の少年の性癖が危険な兆候を生み出していることに芹菜は気付いていなかった。




元王女♂。

これはNLなのか。BLなのか。

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