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15.初めての戦闘

戦闘回。

「「「「「 戦闘!? 」」」」」

「はい、戦闘です。何をそんなに驚かれているのですか?」


 騎士団長エルの言葉に五人は驚いていた。

 避けられないとは思っていたが、異世界召喚されてまだ日が浅い。

 それでいきなり戦闘。

 流石に命のやり取りとなれば、つい気後れしてしまうだろう。

 現代では当たり前の反応かもしれない。


「銭湯ではなく、戦闘ですか」

「委員長が動揺してダジャレを言ってるわ~」

「いや、確かにそうだけど。ってか、字にしなきゃわかんねぇだろ」

「はいはいはーい! 手塚君はどっちに入るんですか?! やっぱり男湯ですか!?」

「王女だったら専用のお風呂があるのでは……」


 ついマジレスをしてしまう翔琉。

 どうやら本調子でないのは翔琉も同じらしい。


「最初の戦闘なら、やっぱりゴブリンやスライムでしょうか」

「そうですね、セレスティーナ様。そのあたりが定石かと」


 芹菜は動揺していなかった。

 仮にも前回、魔王に迫っただけのことはある。

 それに比べれば、ゴブリンやスライムなど取るに足らない存在だろう。


「まぁ、いずれ通る道だ。自分が強くなっているか確認するだけでも意味はあるだろ」

「そうですね。初級魔法はある程度使えるようになりましたし」

「委員長は風と水は中級まで使えるようになってるしね~」

「ぐふふふ、私の深淵なるアビスをご覧にいれよう」

「それは同じ意味……いや、ツッコミ待ちか」


 なんだかんだで異世界での初戦闘にテンションが上がっているらしい。

 付いて行けない翔琉には関係のない話であった。

 つい距離を感じてしまう翔琉。

 そんな翔琉の肩に手が置かれていた。


「今回のは初めての戦闘ですが、危険はほとんどありません。なので、駿河殿さえ良ければ見学されてはいかがですか。勿論、無理にとは言いませんが」

「そんな言い方、ずるいですよ。見たいに決まってるじゃないですか。これから始まる旅を。その戦いを」


 それを見届ければ、きっと安心して自分の役割を担える。

 未だに少し心に残る、この思いを、しこりをなくすことが出来るはずだ。

 それに。


「万が一、億が一にでも芹菜に危険があれば、守れるかもしれないし……」

「何か言われましたか?」

「いえ、何でもないです。ありがとうございます、エルさん」


 そんな一抹の不安が翔琉を過ぎった。

 虫の知らせというやつだろうか。


「じゃあ、あ~しと金髪君が前衛をやって、セリナが中衛、委員長と恭子が後衛を務める感じ?」

「ってか、お前が剣を振れるってのが驚きだけどな」

「能ある鷹はってやつ~」


 信治と晴香が作戦について確認している。

 前衛同士思うところがあるようだ。


「由美さんと恭子さんは落ち着いて魔法の詠唱を行ってください。戦闘中の緊張感に慣れて貰うのが主となりますので」

「うぅ、そういわれると緊張しちゃいます」

「前衛のヤンキー達にフレンドリファイヤかまして、燃え上がらせるのも悪くない! 純粋なNLも嫌いではないのだよ!」

「あはは、恭子さんに緊張は無縁かもしれませんね」

「うぅ、羨ましいです」


 その様子に翔琉は先ほどの不安は杞憂であると思った。

 勇者や賢者がいるパーティが弱いはずがない。

 ここにはいわゆるチート能力を持った人間しかいないのだ。

 ならば、凡人である翔琉が心配するというのはおかしな話である。


「エルさん。みんなのことをお願いします」

「任せてください、駿河殿」


 願わくば笑って終えられる異世界生活を。

 誰も欠けることなく、誰も変わることなく、平和に過ごせますように。

 翔琉は柄にもなく、希望を胸に抱いていた。



――――――



「ここが外の世界ですか」


 馬車に揺られながら、由美が言った。

 初めて目にする広大な自然。

 山が森が空が、まるで作り物に見えるくらいだ。

 人工物が見当たらないのもその凄さに集約されている。


「王国の外はこんな感じか。ってか、訓練ばっかりで外出てねぇ!」

「異世界人に王国内闊歩されても面倒事が増える、的な~」

「獣人とかエルフのカポーを見ていたかった……」

「恭子さん?! なんで力尽きてるんです?!?!」


 芹菜が力尽きた恭子を必死に揺り動かしている。

 戦う前からその調子で大丈夫かと言いたくなる翔琉。

 だがよくよく考えてみると、異世界人が召喚されたことを大々的にしてしまえば余計な柵が増えることだろう。

 それも勇者や賢者だ。

 諸外国が王国を敵視する可能性だってあるのだ。

 だから、半ば軟禁状態でも仕方がない。

 異世界の常識を学ぶ時間も必要なのだから。


「どうしましたか、駿河殿」

「いえ、立派な城壁だと思いまして」


 王国をぐるりと囲む城壁。

 その高さは3メートルは優に超えていた。

 しかも、かなりの厚さである。

 これだけのものを作らなければならない理由。

 それを考えただけで翔琉の心は冷え切ってしまった。


「この城壁は権利の象徴のようなもの。実際に何かに備えていると言うわけではありません」

「そうですか。それなら良かったです」

「まぁ、ドラゴンが攻めてきたらもひとたまりもありませんがね」


 豪快に笑い出すエル。

 これは異世界ならではのジョークのようだ。

 というかドラゴンとかいるのか。

 脅威は魔王だけじゃないらしい。


「さて、そろそろ着きますね」


 エルがそう言うと馬車は停まった。

 どうやら目的地に着いたようだ。

 エル、芹菜、翔琉達の五人が順に降りた。

 翔琉達に緊張が走る。

 恭子だけは不敵な笑みを浮かべたままだ。


「あそこに動物の死骸を置いておいたので、魔物が集まっているはずです」

「うげぇ」

「吐きそう……オロロ」

「ちょっと恭子!? もしかして馬車酔い!?」

「エチケット袋は……ないようですね」


 由美はここが元の世界でないことを思い出し、諦めた。

 どこまでも締まらないのは良いことなのだろうか。

 翔琉には判断出来なかった。


「ゴブリンの姿が見えます。数は5」

「この数ならば余裕でしょう。作戦通りに動けば問題ありません」


 芹菜とエルの言葉に従い、翔琉を除く四人が動き出した。

 その足は覚束ないながらも、しっかり前へと進んでいた。


「じゃあ、行きますか!」

「お先に~」

「なっ、てめぇ!」


 信治と晴香がゴブリンに突っ込んだ。

 初陣とは思えない肝っ玉である。


「では私も張り切りマッスル! 闇に飲まれ…オロロ」

「風よ、全てを切り裂け。ウィンドカッター」

「火よ、全てを燃やせ。ファイヤーボール」


 信治と晴香がゴブリンの頭を切り落とす。

 そこには自分の力の大きさに戸惑っている部分が見られた。

 残りの3匹も体が腐り、切り刻まれ、燃やされていた。

 ゴブリン達は何が起こったのかを理解する前にその命を散らしていた。


「これは……想像以上ですね」

「初陣で心配でしたが、問題なかったようです」


 遠くからその様子を眺める翔琉は驚いていた。

 エルはどこか納得したように頷いている。

 翔琉が調べものをしている間にも確実に力を付けていたのだ。


「こりゃ、叶わないな……」


 翔琉は改めて自分の力不足を痛感した。

 同時にこのメンバーならと安心した。

 喜びの声を上げる仲間達を笑顔で見つめる。


「では、戻る準備を……あれ、御者は何処に」


 エルが馬車に入り、御者の姿を探す。

 だが、その姿は何処にもなかった。

 翔琉は悪寒を感じた。


「っ!?」


 そして、いつの間にか走り出していた。

 御者の男が芹菜達の方へ歩いていたからだ。

 嫌な予感と共に足が自然と動く。


「魔王の寵愛を受けし者よ」


 御者の男がそう口にすると手の甲に描かれた魔法陣が淡い光を放つ。

 それはあのとき、本から放たれた光に似ていた。

 だが、そんなことは今はどうでもいい。


「大罪を受け入れよ」

「あなたは一体何を……」

「芹菜!」


 翔琉は芹菜と男の間に割って入る。

 男の手から芹菜を守る様に触れた翔琉。

 瞬間、光が強くなる。

 誰もが眩しさに目を背けていると、そこに翔琉の姿はなかった。

 

「翔琉君?」


 芹菜の声が虚しく響いた。

 それが“今の翔琉”との最後の別れとなるとは露ほどにも思っていなかった。



戦闘回と言いつつ描写はほとんどなし。

あまりの難しさに心が折れそうです。

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