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13.残されたもの

恭子がこの作品を明るくしてくれてます。

 あれからしばらく経つが、変わったことと言えば翔琉が訓練場に顔を見せなくなったことだ。

 それに皆が気付いたが、誰も何も言わなかった。

 そう、この人物が気付くまでは。


「最強の村人にたる駿河君は何処に!? すべてのカプに入れても、リバでも大丈夫な彼は何処にー!!」


 ご想像の通り、灰原はいばら 恭子きょうこである。

 闇の属性を持つ彼女はその特性を伸ばすべく、地下の暗闇の中に幽閉されていたのだ。

 そのお陰で視界を暗闇にするブラインドなる魔法を身に付けた。

 それに付随して暗闇でも何の支障もない夜目を身に付けていた。

 だが、長期間の幽閉生活はストレスが堪ったようで、癒しを求めているようだ。


「恭子~今そんな空気じゃないし」

「やっぱり、僕のせいでしょうか」

「芹菜さんのせいではありません」

「では私の……」

「エル。お前の指導に不備はなかったと思うぞ」


 誰も彼もが自分のせいなのではと考えてしまう。

 そんな空気を恭子が許すはずもなかった。


「しゃーらっぷ! 男なんて股の剣さえ扱えれば無問題! 魔法ナニソレ、オイシイノ?(^q^) 大事なのは皆仲良くでしょうがー! じゃなきゃナマモノで楽しめナッシング」


 恭子の言いたいことを全ては理解出来ないが、仲良くしたいのは同意だ。

 折角、何かの縁で異世界にまで来たのに、このままではよろしくない。

 まさか恭子にそのことを気付かされるとは。


「というわけで、手塚君。この衣装を着て駿河君をゆうわく、もといオハナシしてくるのです!」

「は、はい!」


 人の良い芹菜は疑うことなく、恭子の言うことに従うのでした。



――――――



 芹菜から必要ないと言われた後、翔琉は呆然自失と王城を徘徊していた。

 出来ることなら、この王城から抜け出したい。

 しかし、自分には力も知識もない。

 ここで外に出ても盗賊にやられるか、奴隷になるかしかないだろう。

 翔琉は冷静に自分の力量を把握していた。


「あっ、すいません」

「ちっ……」


 少し考え事をしていたせいで人とぶつかってしまった。

 相手は五人、男が三人に女が二人。

 その誰もが高貴な雰囲気を纏っている。


「おい、てめぇなにしやがる!」

「俺達を貴族と知ってのことだろうな?」

「謝って済む問題じゃないでしょう」

「痛い目に合いたいみたいね」


 ただぶつかっただけで結構な言われようである。

 しかし、ぶつかってしまったのは翔琉の落ち度。

 謝る以外に選択肢はない。


「すいません。僕には謝ることしか出来ません」

「はっ! 男のくせに謝るだけかよ」


 その中でもぶつかった赤髪短髪の男が言い放った。

 目には獰猛な光を宿しており、血の気が多そうに見える。

 すると、赤髪の男は翔琉の腰の辺りを見て、笑みを浮かべた。


「木剣か……ちょうどいい。俺が相手をしてやるよ」

「ひゅ~さすがアルト! 優しい~」

「こんな民草を思って出来ることじゃないわ」


 勝手に盛り上がっているが、翔琉は戦うつもりはない。

 今後、翔琉が戦うことはないのだ。

 しかし、目の前の状況がそれを許さない。


「ちょうどいい獲物もあるし、いくぜ!」


 赤髪の男は腰に帯刀した剣を抜くと魔法を施した。

 どんな魔法かはわからないが、殺さないようにしてくれたのだろう。

 それが真剣であった方が色々諦めも付いたのだが。

 翔琉は仕方なく、木剣を抜いた。


「おせー!」

「あっ」


 赤髪の男が一回剣を振っただけで翔琉の木剣は空中に舞った。

 それもそのはず。

 翔琉のボロボロの手ではもう剣を握れないのだから。


「これで終わりじゃねぇぞ!」


 赤髪の男の剣が翔琉のお腹に深く入る。

 突きではなかったため、胴体を貫通しないが内臓が傷つくのがわかる。


「おらぁ!」


 続いて翔琉の顔面に激しい痛みが走る。

 頬を強打され、口の中に血の味が広がった。

 歯も何本か折れているに違いない。

 翔琉は痛みに地面に突っ伏すことしか出来ない。


「おいおい、その剣は飾りか? ただの素人じゃねぇか」

「アルトが強すぎるだけだって」

「いったそ~」


 ゲラゲラと品のない笑い声が響く。

 だが、翔琉に悔しさはなかった。

 もう悔しさを感じる必要もない。


「ん? こいつもしかして勇者の一行じゃね?」


 取り巻きの男が翔琉を見て言った。

 どうやら気付かれてしまったらしい。

 王城に出入りする人間は限られる。

 単純な推理だった。


「これがか!? 嘘だろ、弱すぎ!!」

「こんなのが魔王退治とか冗談きついぜ」

「寝言は寝て言いなよ~」

「この国の王女もこんなのと一緒じゃ、たかが知れてるわよねぇ」


 翔琉にはもう関係のない話。

 だが、立ち上がらずにはいられなかった。

 お腹が痛い。

 顔が痛い。

 心が……痛い。


「取り消せ」

「おいおい、あれで立ち上るのかよ」

「うわっ、きも」

「さっきの発言を取り消してくれ」


 だから、これは翔琉のただのわがままだ。

 自分のことは何を言われても良い。

 ただ彼らを、芹菜達のことを悪く言われたくない。

 それだけだった。


「じゃあ、取り消さしてみろよ!」


 赤髪の男は翔琉を殴る。

 子供の喧嘩のようにただ殴る。

 翔琉の鼻は折れ、眼窩も陥没している。

 見ようによってはゾンビに見えることだろう。

 しかし、翔琉は膝を付くどころか、相手をきちんと見据えていた。


「ちっ! 帰るぞ」

「えっ、アルト君!」

「待ちなさいよ!」


 赤髪の男は不気味さに耐え兼ね、その場を後にした。

 異常な光景に他の四人も付いて行く。

 その場にはボロボロになった翔琉だけが残された。


「ははっ、なにやってるんだ僕は……」


 立っているのもやっとといった感じで翔琉は遠くにある木剣を拾いに行く。

 やっとの思いで木剣の近くまで来たが、それは無駄だったと気付く。

 木剣の刃の部分が折れてしまっているからだ。

 どうやら最初の衝撃で折れてしまったらしい。

 翔琉は思った。

 自分の心もこの剣のように折れてしまえば楽だったのにと。


「もう剣はこりごりだ……」


 翔琉は剣を使うことを諦めた。

 魔法を使うことも諦めた。

 残されたものはこの思いだけだった。



翔琉君は苦悩が似合う。

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