ヒロイントラップ
誰か、助けてください。
何ですか、この状況。
顔は平凡。頭も平凡。スポーツも平凡で人生そのものが平凡とも言うべき存在、それが今までの俺だったはず。
女にモテるようなことはした覚えもない。
なのに なのに
教室でクラス全員の女子から告白されている今現在の状況がよく分かっておりませんーーーーー
日々は、滞りなくいつも通りに過ぎ去ってゆく。
うららかな朝の風景に始まり
学校で半日を過ごし
たまに寄り道もしながら
家へと帰り着く。
この平凡で凡庸な日々が常に繰り返されるのだ。
たまに、そんな日々にアクセントが加わったりもする。
例えば体育祭や文化祭などのイベントだ。
それぞれ個々の努力が結集し、共に成功&勝利へとひたすら奔走する。終わった後には素晴らしい達成感もあるだろう。
さて、そういう汗臭かったり涙が垣間見えたりするアクセントは今回どうでもいい。
問題なのは、もっとささやかなアクセント。
そう、転校生、とか。
「今日も平和だなぁ…」
春のポカポカ陽気に包まれながらほのかに吐息をもらす。
中学2年生へと進級してから、約1カ月後の今日。新しい風景と環境に戸惑いながらも、大分落ち着いてきた頃だった。
世界が変わり始めたのは。
「んぅ…あ…ふぁ〜」
思わず眼を閉じてしまいたくなるような気温に、丁度昨日の夜更かしが重なって。
つい朝っぱらから机で寝てしまった。
キーンコーンカーンコーン
つかつかと担任が入ってくる音が聞こえる。
「え〜、皆さん今日の日程についてですが、…」
いつも通りの予定の確認。
たまに変更もあったりするけど特に聞かなくてもいいだろう。それよりも、授業が始まるまで出来るだけ睡眠をとっていたい。
「ーーれー、そ………で、ーー転校生ーーー」
…ん?今転校生ってーーーまぁいいや。
ぐー。
◇◇◇
気づいたら、教室の前列、窓際の隅っこに知らない女の子がいた。
言っておくと、今は一時間目の数学の時間。
僕らの担任の女先生、もとい女教師が黒板に向かって何かカッカッカッカッ!と書いている間に教室を見回してみたのだ。
体型は小柄で髪はショートで、花柄のヘアバンドのようなものをつけていて、顔は…見えない。
何故か窓の外を見るように顔をかたむけている。
丁度教室の真ん中らへんなので、横顔ぐらい見えるものだと思ったが。
まぁ…いいか。
◇◇◇
下校の時刻。
笑ったり、叫んだり、キャーキャーとわめく周りの談笑を聞きながら、校門を出る。うん、実に平和だ。
ちなみに俺は1人である。
友達がいないとかじゃなくて、帰り道が同じ人がいないのだ。
結局、転校生が来たといっても俺のいつもの日常は変わることはなかった。
あの後、一時間目は何とか眠らずにいたのだが、他はうつらうつら眠ったりしてしまった。
別にそれのせいではないと思うのだが、転校生の顔は見れずに終わった。
…何か、故意的なものを感じて悲しかった。俺、何かしたっけ…。
確かに眠ってたのは失礼だったかもだけど…うぅ……。
ま、明日があるし。
平和な日々が変わらなければそれでいいし。
どこからともなく、桜の花びらが落ちてきた。
ーー平和な日々は、今日も終わった。
いや、今日で、終わった
タッタッタッタッタッ。
「はあっ、はあっ、はあっ…」
いつもとは違うあわただしい朝。
なぜか久しぶりに寝坊してしまい、急がざるを得ない状況になっている。昨日あれだけ寝たのになぁ…。
…のんびりと朝の風景を堪能しながら登校するのがひそかな楽しみなんだけどなぁ…。
朝食もろくにとれないので、食パンをくわえながら登校…とまではいかないけど、小さな菓子パンを食べながら走っている。
少量なのですぐに食べ終わり、菓子パンの袋を鞄にしまいながら小走りで路地の角を曲がると
何かに、ぶつかった。
「きゃあ!」
「わっ!」
お互いに衝突し、その場にしりもちをついた。
「いたたた…」
「あ、ごめん、大丈夫?」
「ううん、こっちこそごめんね、大丈夫だよ♪」
その女の子は、にこやかに笑った。
さらりとした栗色の髪は、ちょうど肩まで伸びていて。可愛らしい髪留めがそれを華やかなものへと変えて。
清純で、正統派な趣を感じさせる女の子だった。そして
…なんか、路地の角でぶつかったせいで、よくあるラブコメのヒロインのように感じられた。
とすると、この女の子が恋する男は俺じゃないか。なーんてね。
そういえば、と遅刻しそうになっているのを思い出し、たちあがろうとした。
ぐにゃり
…ぐにゃり?
自らの手の下を見てみると
食パンが、あった。
「ああっ!私の朝食が!」
「えっ!?あ、ごめん」
とっさに手を引っ込めるが、既に食パンは砂まみれのヘロヘロになっていた。
「…っぐすん……私の朝食ぅ〜…」
本当に食パンをくわえながら登校してくるというシチュエーションにツッコむのを我慢しつつ。
「ごめん、俺のせいで…」
「ううん、私が不注意だったのが悪いの…」
「いや、俺も不注意だったから…えっと、弁償するよ」
「ええっ!?わ、悪いよそんなの」
「いや、俺がトドメというか、つぶしちゃったし…」
食パンの方を見る。ものの見事に潰れていて、黒ずんでいる。せっかくのきれいな正四角形が台無しだ。
あれ?正四角形?
…なんでかじった跡がないんだろ?
「そ…それならね…」
「あっ、うん」
「私と…付き合って下さい!」
…え?
のどやかな朝。
空を自由に飛び回る小鳥たちは。
透き通るような青い空で楽しそうにさえずりわたっていた。
そして、地に這いつくばる少年は。
路地でぶつかって食パン潰して女の子に告られていた。
「…えっと、どこまで?学校まで?うん、なら早く走って…」
「違うよ!そっちの付き合うじゃないよ!その…彼女にして欲しいってこと…だよ…」
彼女の頬がみるみるうちに赤くなってゆく。
それを隠すように、うつむきがちになり、上目使いでこちらを伺っている。
こんな表情で、さらに元が可愛いとくれば、誰もがよろこんで!といいたくなるだろう。こんな状況でなければ。
「…冗談だよね?」
「冗談じゃないよ!」
「その、お互いよく知らないし…」
「愛があれば関係ないよ!」
「というか初対面だし…」
「一目惚れだよ!」
…あるぇ〜?
別に外見とかカッコ良くないし、この一連の出来事に惚れる場所なんてないよぉ〜?
…いや、ふざけるのはよそう。
悪いけどきっぱり断らなきゃ。
…まだ、約束は残ってる。
なんとか頭の中を整理し、言葉を紡ぎ出す。
「その、それ」
パサッ
「あ」
ササッ
「あっ、いけないもうこんな時間!遅刻しちゃう!じゃあまた返事はまた今度ね!」
その唐突に現れた可憐な女の子は、駆け抜ける春風のごとく走り去っていった。
カツラを整えながら。
カツラが取れた時の妙な既視感と共に、ある疑問点が浮かんだ。
なんで来た道を逆走してるんだろう、と。
いろいろと引っかかりながらも、それを振り切るように全速力で走ったところ、ギリギリで登校時間に間に合った。
だが、動悸はまだ収まっておらず、教室では違和感バリバリであった
のが自分の他にもう一人いたのに気がついたが、気にせずに席につくことにした。
何故朝からこんな目に………。
あんな違和感に包まれた非日常的シチュエーションで喜ぶのは一部の変態だけです。
俺は嫌です。
変わらない平和が一番です。
ようやく落ち着いてきた動悸に安心しながらも、やはりそのことが頭に引っかかり続けていた。
担任が教卓の上で何か言ってるが、気にしない。
右斜め後ろから女の子がハァハァ言ってるのが聞こえる。
変な意味じゃなくて。
路地の角でぶつかった女の子は、肩まで伸びる栗色の髪に流麗な髪留め、透き通った声に食パン……は関係ないか。というか食パン道端に置いたままだ。
どうしよう。
…帰りに拾って帰ろう。うん。
とこのような女の子だったが、よくよく思い出してみるとうちの女子の制服だった気がする。
そしてあの時ずれた拍子に垣間見えた髪型・身長・体型を総合すると、どうも右斜め後ろの女の子と似ているような気がする。
確かに声と顔が違うという事実はあるが、このクラスで唯一の、そして天才だと言われている演劇部員なことを考えるとどうしても霞んでくる。
……仮に犯人だったとしたら、演技力はハンパないけど、随分とベタな発想だなぁと思う少年であった。
まぁ、そんなわけないよね。大体その一連の行動の意味が分からないし。
きっと、何かの勘違い。
そうそう起こらない、非日常がたまたま起こっただけ。
キーンコーンカーンコーン
一時間目の英語が始まり、流石に今日は眠らないようにしよう、と意気込んでスラスラと黒板にかかれる英文をノートに写していった。
◇◇◇
つかの間の休息。次の授業までの五分休み。
今日の授業を完璧に纏めたノートと、教科書等をしまう。
……ちょっと、いや、凄い疲れたなぁ…。
流石に、集中しすぎたらしい。
気分転換にトイレでも行こうかな…。
よろよろと立ち上がり、早歩きで男子トイレへと向かう。
もうすぐそこだ。
休み時間が短いので、ちょっと小走りに切り替えると
本日二回目と言わんばかりに、空き教室から出て来た何かにぶつかった。
今回は、付属品として本の山が襲ってきた。
「うわあああ!」
「きゃああああ!」
ドサドサドサッ。
そんなに痛くはなかったが、やっぱり本の角に当たると痛い。
痛みと本を振り払い、飛び出して来た人物を確認する。
…あ。うちのクラスの女の子だ。
まだ1ヶ月とそこらなのでクラス中の女子を覚えているわけではないが、この地味な感じの女の子は確か図書委員だった気がする。
なる程、空き教室に積まれた本を同じ階にある図書室に運ぼうとしていたのか。
そりゃ五分という短い時間なら急いでも仕方がない。
「あっ、すいませんっ、ごめんなさいっ」
慌てて散らばった本を元のように積み上げる。そんなに高いというわけでもなかった。
「大丈夫?手伝おうか?」
「えっ、いやっ、そんな…」
「いいよ、暇だし」
そんなにトイレ行きたいわけでもなかったし。
薄暗い空き教室に積まれた本を見た。
…あれ?結構多くない?
分厚い本に薄い本、合わせると軽く二百冊は越している。
「えっと、あれ全部一人で運ぶつもりだったの?」
「その、他の図書委員さん達が今日お休みしていまして……でも、今日中に運ばなきゃならないので…」
「放課後に運べばいいと思うけど」
「あ、その、用事がありまして…」
なる。つまり数回ある五分休みだけでこの山を運ばなければならないと。
「あっ、すいません急がないと…」
「じゃあ俺も運ぶよ」
数十冊に分けられた本の中から分厚くて重そうな本の塊を選ぶ。
「えっ、そんな…」
「いいよいいよ、これも何かの縁だし」
「あ、ありがとう御座います…」
カァァ、とショートカットの黒髪に包まれた眼鏡の奥が赤くなる。
……あれ?このパターンは……
……大丈夫だよね?
その後、順調に二時間目、三時間目の五分休みと給食後の余った時間を使って、全ての本の塊を運び終えることが出来た。
今日は五時間授業だったので、ギリギリセーフである。
そんな今は、薄暗い図書室の中。
カーテンは開いてるので、日の光は入ってくる。
開けられた窓から、サアッと爽やかな風が舞い込んできた。少しばかり疲れているので、丁度心地よい。
「今日は、ありがとう御座いましたっ」
軽くお辞儀をする女の子。ショートカットが風に吹かれて踊るように揺れている。
正面に向かいあった形で、お互い立っている。
女の子の方は背が小さめなので、目を合わせると見上げる形となる。
少しの間、見つめ合ってしまった。
我に返ると、すぐに慌てて言葉を紡ぎ出す。
「あ、ううん。いいよ。困ってたら助け合うのが人ってもんだし」
「ふふっ、今時そんな人居ませんよっ」
ささやかな。本当にささやかな微笑。
どくん。
心にーー少しのざわめきが生まれるのを感じた。
「そうですね…だったら、私、少し困ったことがあります」
彼女は、天使のような微笑と共に俺の目を見つめて
こう囁いた
あなたが、好きになってしまいました。
俺は。
俺はーーーーーーー
俺は、一目散に逃げ出した。
「ちょ、ちょっとどこ行くんですかあ!?」
入り口付近で腕を掴まれた。
「ほら、もうすぐ五時間目が…」
「まだ五分もあるじゃないですかぁっ!!!」
「だって!朝からおかしいじゃねえか!!!何だよこのシチュエーションの連続!!」
「な、何のことですかぁっ?」
「大体お前もお前だ!ちょっと助けられただけで好きになるとかおかしいだろっ!」
「そ、それは………」
腕を掴んだ両手を離し、うなだれる。
…まさか
「だって……だって………私、話すの苦手だから……すぐに友達出来なくでっ……それでっ……手伝っても"らうごどもでぎなぐでっ……ぞごにっ……あなたがあら"われでッ………」
彼女は、滴る涙を袖で拭った。
「あなたが……優しさを与えてくれた」
ああ。
俺はなんて馬鹿なんだ。
今日の朝、何があったって関係ない。
瞬間瞬間を。
今を大切に向き合わなきゃならないのに。
自分勝手な思い込みと都合で。
相手を 傷つけてしまった。
…何してんだ、俺。
馬鹿野郎。
「……ゴメン」
「え?」
「俺には」
キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
……無情にも五時間目を知らせるベルが鳴った。
予鈴だけど。
何で俺の日常は悪いタイミングで溢れているのだろう?
「ねぇ」
「ん?」
「えいっ」
「あだっ!?」
ほっぺたを叩かれた。
微かに残った涙が光っている。
彼女は屈託のない笑顔でこう言った。
「乙女の純情を汚した罰です。でも今のでその罪は終わりです。では」
そのまま去ろうとする彼女に思わず声をかける。
「え、まだ全部言ってな…」
「その位わかります。伊達に本は読んでいません」
くるっと振り返って一言だけ残していった。
「頑張って下さいね」
彼女は、去ってゆく。
図書室には、一人佇む少年だけが存在していた。
帰り道。今日は、部活がないので帰りが早い。いつもなら嬉しくも思うが、今はそんなはずもなく。
ただただ、たそがれていた。
足取りがおぼつかない。
視点が定まらない。
何も、考えられない。
頭から、一つのことが離れない。
◇◇◇
昔、男の子と女の子がいた。いつも仲良しで、
「私たち結婚するー」とまで言っていた仲だった。それはそれは楽しい日々だった。楽しむことしか知らなかった。それでもたまに、ほんの些細なことで喧嘩することがあった。
でも、そんなのは2,3日ですぐ忘れてまた遊んでいた。
ちょっとした喧嘩があった次の日、隣の家に引っ越しのトラックが来ていた。
「急に引っ越しが決まったらしいのよ」
「ほら、最後にお別れを言ってきなさい」
「……べつにいい」
その男の子は、トイレから出て来なかった。
まだ、昨日からの意地を張っていたのだ。馬鹿みたいに。
体感したことのない焦り・悲しみ・苦しみから目を背け、あいつがわるいんだ、べつにさみしくない、と必死に思い込んでいた。
ついに、女の子の家族は出発してしまった。
隣の家には、そのうち別の人が住み始めた。
男の子は、変わってしまった日々を、こっちが本当の日々なんだと考えるようにした。
苦しみのない、とても素晴らしい世界なんだと思い込むようにした。
◇◇◇
ーーようやく、忘れたものだと思っていたのに。
なんで、いまごろおもいだすんだろう?
きっと、必要以上に女の子に関わってしまったせいだ。
もう、苦しむのは嫌だ。
関わりたくない。
逃げだしたい。
それでもーー
やっぱりあの子は今でも忘れられない。
心の奥底では再開を待ち望んでいるのかもしれない。
図書室のときだって、
「子供の頃の忘れられない女の子がいるから」
と言いそうになった。
もう一度会って素直に謝りたい。つまらない意地を張ったことを全身全霊で謝りたい。お別れを言えなかったことを本当に本当に謝りたい。
そして、再会の喜びをあの頃の笑みで分かち合いたい。
気がつくと、もう家の前にいた。隣には、あの頃のままの、あの子の家。
もちろん、あの子は住んでいない。
今の自分が感じる非日常は、あの頃の日常だったりするのかな。なんて。
普段思わないこと思ったりもした。
明日には、何が起こるのだろうか。日常だろうか、非日常だろうか。
そんなものでは説明がつかないものだったりするのか。
うん、楽しみだ。たまには平和以外も、いいかな。
すいませんでした。
俺が悪かったです。
誰に謝ればいいですか?
神様?
仏様?
拾い忘れた食パン?
今は、早朝の登校中。足取りが重い。
ーー図書室でのことを胸に抱き、もう自分勝手な思い込みはやめよう、逃げるのをやめようと誓ったその日から一週間後。
誓わなければよかったと切実に思いました。
一週間に何があったかって?
ふふ、それは…
同じような非日常シチュエーションが後14回繰り返されました。計16回。つまり、クラスの女子の人数。
………。
順を追ってどのような感じなのかを説明しよう。
……誰に語りかけてんだ俺は。
…………
【校門付近の木の下】
サアアッ。
新緑の木の葉が風で舞い散り、桜吹雪を感じさせる。
伏せた目を開き、こちらをしっかりと見据えてその女の子は言う。
3人目
「私、キミのことが頭から離れなくて……、好きです!付き合って下さい!」
うん、実に平和で普通でいいです。
密かにこういうのは望んでいたりしましたよ。
俺だけではないはずですよね?
もちろん、惜しい気持ちも湧き上がりましたが、必死に押さえつけ、丁重にお断りしました。
断る理由にあの子のことは言わないようにしたけど。恥ずかしいしね。
ちなみに1人目と2人目は天才ベタ演劇部員と図書委員の女の子です。
…………
【放課後の教室】
教室には誰もいない。
二人以外、誰もいない。
外の夕焼けをバックにして、女の子がこちらを睨んでいる。
金髪のツインテールを振り振り、こう言い放った。
4人目
「か、かんちがいしないでよねッ!!
べ、べつにキミのことなんてなんとも思ってないんだから!!!!!
………でも……やっぱり……………好き///」
どっちですか。どっちなんですか。自分が鈍感なつもりはありませんが、女心はよくわかりません。
次いきましょう、次。
…………
【学校の階段】
5人目
「わ、わわわわわわたしっ、キ、キキキキキキキキキミのことががががががががががががすきゃああああああっ!?」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロどーん。
ナイスキャッチ俺。
全く何が何だか。
……思い出してないですよ。や、柔らかい感触なんて思い出してないですよ……。………。
…………
【グラウンドのど真ん中】
6人目
「私はああああああああああああああああああ、キミのことがああああああああああああああああああ、好きだあああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!」
あの、そんなに全力で叫ばなくても聞こえるので。
…………
【保健室】
7人目
「もぅ、こんなにいたそうにしてぇ〜〜ばいきんはいったらいけないんだよぉ〜〜〜?お兄ちゃん♪私が舐め」
保健室から飛び出しました。
そして全速力で逃げました。
流石にあれはねぇよ。お前の兄でもねぇよ。
……なんか、どんどんレベル上がってきてるような気が……
…………
【男子トイレの前】
8人目
「……………………………………………………………………………………好き。」
何故あなたは男子トイレの前に立ってるんですか。ドア開けた時びっくりしたじゃないですか。あとどんだけ一言いうのに時間かかるんですか。他の人達が困ってたじゃないですか。
…………
【廊下】
9人目
「おーーーーっほっほっほっほーーーーー!!!!!
すっころんで惨めな姿なことですわねぇ!ほらほら、私の足で頭をぐりぐりして差し上げますわ!あなたはこうやって地に這いつくばってきゃあっ!?
ちょっ、ちょっと汚い手で私の足首を掴む何ひっ、痛っ、わ、私を仰向けにさせて一体何をぅ〜〜」
……何もしてませんよ。ええ。他の人もいたことですし。当たり前じゃないですか。
…………
【商店街】
10人目
「ひ、酷い………!!
こんなにも可愛い女の子が告白したというのに!!
ふんだ!!
もう知らない!!
財布は貰ってくかんね!!!!」
返せ泥棒。
…………
【理科室】
11人目
「頭脳明晰、容姿端麗、私程完璧を兼ね備えた女性は全世界、全宇宙、全量子世界にも類を見ないだろう。私と付き合うと仮定すれば、〜〜〜〜」
ごめん。もう覚えてない。
…………
【生徒会室】
12人目
「会長命令です。私と付き合いなさい」
権力乱用はやめて下さい。
…………
【校舎裏】
ドゴォ!!
13人目
「私の決死の告白を断ったらぁ………どうなるかぁわかってるよなぁあああああ?」
あの。壁にヒビはいってるんですけど。
つまり俺の日々にヒビをいれると?
はっはっは、誰が上手いコト言えと(ry
ドゴォオオオオオ
一発ボディーブローだけで許してくれました。
もの凄く痛かったです。
…………
【家の前】
14人目
「キミの事が大好きだ死ぬ程大好きだいやもう何度か死んでいるかもしれない朝キミでハァハァ昼キミでハァハァ夜もキミでハァハァ頼む私と付き合ってくれいやもう強く抱き締めてくれ」
帰って下さい。
…………
【学校の屋上】
15人目
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!
つ、付き合ってくれなきゃ飛び降りてやるんだからねーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
何をそこまで必死にさせるんですか。
愛ですか。愛ゆえにですか。
だったら俺だって愛ゆえに断りますよ。
説得するのにとてもとても時間がかかりました。何か辺りが真っ暗です。
これ以上何か起きなきゃ良いけど。
…………
【真っ暗な夜道】
16人目
「あは…あはは………?
どーして私と付き合ってくれないのかなぁ〜………?
私はこ〜〜〜んなにキミのことが好きなのに…………ねぇ、どうして?私がまわりの子より劣っているから?なんにも取り柄がないから?魅力がないから?ねぇ、どうして?あなたを好きな気持ちは誰にも負けないよ…?
ふーん…やっぱりダメなんだ
フフフ………いいよ…………別に……………
来世で…結ばれるから」
スッ
「ふふ…あなたの血は何色かなあ………?
どんな匂いがするのかなどんな味がするのかなぁ………?
ううん、やっぱり血も涙もないのかなぁ?罪な男だもんねぇー、あはっ
…え〜〜?今から何をするかってぇ〜〜?そんなコトもわかんないんだ〜〜〜?
もう、頭悪いなぁ。
キミを殺して私も死」
ガガーッ、ガガーッ、ピーッ。
以上、15名でした。いやあ、大変だったなぁ。最後の屋上の子なんて、下手したら飛び降りてたよ。本当に頑張ったなぁ自分。
いやぁ、それにしてもよかったよかった。あの後何も出なくて。何か通り魔でも出て来るんじゃないかってくらいビクビクしてたよ、ほんと。心配し過ぎだよね。
……ともあれ。
これで、クラス中の女子に告白されたことになる。もちろん全部断った。
これで、今日は何も起きないだろう。
……だよね?
キーンコーンカーンコーン。
「え〜、今日の予定についてですが…」
ふぅ。とりあえず、登校中には何もなかった。現在はいつもの担任の予定確認中。
……まさかこの人もその内……
いや、さすがにそれは考えすぎか。犯罪だもんそれは。昨日も犯罪まがいのものはあったけど。
そう。これでクラス中コンプリート。他クラスの介入さえなければ、それで終わり。何の陰謀か知らないけど、それが筋ってもんだ。
これで、平和な日々が戻るーーー。
一時間目の体育。このクラスは女子が着替えることになっているので、男子はクラス移動となる。
俺も体操着をもって、廊下を移動中だったんだけど、後から肩を叩かれた。
誰かと振り向いてみると、図書委員の子だった。
そういえば、話すのは一週間ぶりだ。
「えっと、何?」
「ちょっと来て下さい」
「え!?いやそっちは」
袖を引っ張られて連れて来られたのは、ついさっき出てきた教室のドアの前。
さっきと違い、今は入れない。何故ならーー
「え、いや、今女子が着替えてい」
ガラガラ。
「連れて来ましたよー」
「う、うわ」
教室内に引っ張られる。中ではもちろん女子が着替えてーー
なかった。あれ?
皆さん…何か殺気だって俺を見ています。
左を向くと、昨日の夜道に俺を*しにかかった16人目の女の子がいました。
というか殺気とやらはこの人が全て出しているように思えます。
教訓:視線を合わせない
あ、よく見るとその列の一番後ろに1人だけこちらを熱っぽい視線を向けながら着替えている人がいます。
保健委員の女の子ですね。
背は二学年全体、いや学校全体で一番小さい人です。
つまり何が言いたいのかというと。
別に見ても何も感じないからこっちを見るなということです。
とりあえず無視しておくことにしました。
って何で冷静に解説してるんだ俺は……
後の比較的ましな方々は、一点にこちらを見つめている。
張り詰めた空気の中、口火を切ったのは図書委員の女の子。
「あなたは」
笑っているのか
悲しんでいるのか
よくわからない微笑を浮かべながら。
「このクラス全員の女子からの告白を断りました」
「………うん」
「最低です」
「なッ!?」
「皆さん、怒っていらっしゃいます」
「え、その……ごめんなさい」
「謝ってすむ問題ではありません!」
なんでだろう。なんで俺怒られているんだろう。
「全く、皆さんが精一杯の気持ちで思いを告げたというのに。ホモですかあなたは」
「違いますよ!」
「知ってます叫ばないで下さいうるさい」
あの……キャラ変わってません?
「とにかく。あなたには最後にもう一度チャンスをあげます。もし選択肢を間違えるようなことがあれば…」
バキッゴキッ
教室の後ろの方から闘気が迫ってきた。
校舎裏の人ですねあれは。
「ぶちのめされます♪」
「わーたいへんだーじゃなくてちょっと待」
「せーのっ」
「「「付き合ってください!!!!!」」」
◇◇◇
◇◇◇
流石に、もう逃げはしない。
真正面に向き合う。
沈黙に包まれた教室の時間が止まっているように感じる。
俺は何を選択するべきなのか
冗談だと思って笑い飛ばすか?
それはない。
なにせ今起きているのは非日常だ。常識は通じない。
やっぱりごまかして逃げるか?
不可能だ。
理屈とか関係なしに、今逃げてしまったら一生後悔するだろう。
ここにいる誰か一人を選んでしまえば
楽になれるのだろうか
いや、きっとそうだ。
またはそれ以上。
今まで自分の知らなかった世界ーーー
素晴らしい日常を与えてくれることだろう。
それは
俺の望んでいること。
考えが纏まった。
うつむいていた顔を持ち上げ、背筋を伸ばし、握り拳を口に持っていき軽く咳払いをする。
授業開始のチャイムは、もうさっき鳴った。
俺の言葉を遮るものはもうない。
声を澄まし、最大限に意志を込めた自分の選択を皆に告げた。
俺は、頭を下げた。
「ごめんなさい」
教室内がざわつく。
俺は、頭を下げたまま続ける。
「俺には幼い頃、喧嘩をしたまま引っ越しで別れて、心残りになった女の子がいます。
もちろん、その感情は好きという気持ちじゃないと思う。けど……
また、いつか出会えた時、自分だけ幸せになっていたら、その子とは一生仲直りができなくなると思う。だから……
ごめん。本当にごめんなさい」
もう一度、頭を下げ直す。
「自分勝手だとは思います。でも、断る原因がみんなにないことはわかって欲しい」
視線が突き刺さるのが肌で感じられるほど痛い。
今、どんな目で俺を見ているのだろうか。
失望、憐憫、怒りーーー
いや、もしかしたら初めからそんなものはなく、全てが冗談だったのかもしれない。というか、それが普通の、通常の思考。何故気づかなかったんだろうか。
日常から逃げすぎて、日常と非日常の区別がつかなくなっていたのか。
だったら、今俺がしていることはとんだ見当違いじゃないか。
全くもって、笑えない。
ここにいるのは、冗談を信じこんだ自意識過剰の気持ちの悪い男。
今俺に突き刺さっているのは、異物を見るような冷たい目。
ーーそろそろ、顔を上げなければ。
何があっても逃げ出さない。そう決めただろ!
虚構の中で生まれたであろう信念を貫くのも、おかしなことだとは思うけど。
でも、やっぱり、最後まで信じてみる。
俺はゆっくりと、顔を上げた。
そこに広がっていたのはーーー
ぽかんとした表情と
慈愛に満ちた表情と
拗ねた表情だった。
予想していたのとは、全てが違っていた。
…………ええっと?
「あの…えっと…本矢さん?」
図書委員の子に話しかける。
「あ!すいませんついポーっとな……いえ、何でもありませんっ」
さっきからは想像もつかないような、わたわたとした動きで顔を赤らめる。
「あ!さっきの選択肢ですが……」
「はい」
覚悟は出来てる。
「これ以上無い程大正解です」
「……え?」
そんな馬鹿な……というか、そもそもこの3種類の反応の意味が分からない。どういうことだ。
「すごーい…こんな事ってあるんだ~」
と、普通の女の子の絵美さん。
「ふ、ふん!元から関係のない私からすればこんな事悔しくもなんともないんだからねッ!……ぐすっ」
金髪ツインの女の子。神鳴さん。
「わ~……本当にドラマチックです」
目を丸くする、丸くなって階段から落ちた泡里さん。
「ははは!!!こっちも頑張ったかいがあるというものだ!!!!」
全力すぎな赤羅さん。
「ふぇ~~、納得いかないですよ~~~」
着替えを中途半端にしないで下さい保健委員の魅杉さん。
「……………………………………………フフ」
相変わらず間が長い長町さん。
「ふん!もともと庶民になんて興味なくてよ!!!」
いやあなたも庶民ですから。他の人に聞いたら金持ちでもなんでもないじゃないですか成城さん。
「あ~あ……諦めるしかないのね……
結局私はあなたの心を盗めずに、反対に私の心は盗まれてしまった
こうなったらその分イロイロ盗んでやるんだからっ♪」
程々にしてくださいよ、瑠坂さん。
「実に合理的で簡潔で青春を彷彿とさせる艶やかな見せ物であった。流石の私でも不可抗力で微笑みを表してしまう」
相変わらず変な説明口調の理聡さん。
「実に喜ばしいことです。……どうしましたか?もっと喜びなさい。会長命令……いえ、委員長命令です」
会長で委員長な、命令が口癖の盟嶺院さん。正真正銘のお金持ち。
「へえ。単なる雑草程度に思ってたんだがな。なかなかじゃねぇか」
ヤンキー風の岩越さん。怖いけど、優しい。
「ああ……これでは今まで隠し撮りをしていたあらゆる写真が全てパアに……秘密の写真とかハアハア脅迫に使ってハアハア色んなコトをする計画が……うぅ」
そんな事してたんですか壁梨さん。ちゃんと燃やしておいて下さい。
「ひっく……ひっく……頑張ったのにうええええええええええええええええん」
窓に足をかけないで下さい危ないです。
飛鳥さん。
「なーんてね。びびったかな?びびったかな?あははっ!
も~すっかり騙されちゃうからこっちもつい真剣になっちゃったよ~~~~っ!
ーー武器が」
さらっと怖いオチを付けないで下さい黒藍さん。
「と、いうわけ何だけどそろそろ分かったかねキミ?」
いつの間にか近くにきていた天才演劇部員の常成さん。
「……えっと?何が?」
「も~照れちゃって可愛いんだからぁ!」
「……突然キャラを変えるな。ある意味一番怖いから」
「何か私にだけ失礼ね~。まーいいけど。
あと一人、誰か女の子を忘れてないかナ~~~?」
「あと一人?だってこれで全員……はっ!まさか先生……」
「……時々おかしな事を言うねキミは……本当に忘れたのかね……
本矢~~、そろそろいいんじゃない?」
「うん、そうだね」
本矢さんがドアに近付く。
手をかけて、開く。
そこに立っている人物を見て
ようやく思い出す。
この一週間、ドタバタ騒ぎの非日常のせいですっかり頭から抜け落ちていた。
転校生の3文字を。
そこには、一人の転校生。
一人の、女の子。
でも。
真正面に向かい合って見てみると
忘れるはずがない。
あの子は。
あの面影はーーー
かつて好きだった女の子。
今ならわかる。
やっぱり、好きだったんだ。
「あーーーー」
「久しぶり。きーちゃん」
本当に。本当にーーー
りんちゃん、だ。
「りん………ちゃん…」
「ふふっ、今だとなんだか恥ずかしいよ、その呼び方は」
「う……その……ゴメン」
「あはっ、謝らなくてもいいのにっ。別にいいよ?きーちゃんがそう呼びたいんなら」
「あ……じゃあ……りんちゃん」
「くくっ、そうやって呼んじゃうのがやっぱりきーちゃんだなぁ」
なんだかんだですっかり忘れてしまっていたと思っていたが
りんちゃんはやはりりんちゃんだった。
でも。言わ、なきゃ。
「りんちゃん」
「ん?」
「あの時の、こと」
「…………」
りんちゃんは俯いてしまった。
やっぱり……許しては…貰えないのかな…。
「くくくっ」
「?」
「いいよ、許したげるっ。きーちゃん面白かったからっ」
ショートカットを揺らめかせて、悪戯な笑みを浮かべて舌を出した。
「面……白……い?何が?」
「ふっふっふ、全ては私のシナリオ通りだったのさ!!!」
唐突に常成が割り込んできやがった。
「……何が?」
「この一週間及び今日の告白」
「……………」
「ちょっ!コラ!髪を掴むな!
………ふぐっ、ひぇ〜〜〜〜ん、お兄ちゃんが苛めるぅ〜〜〜」
「あーーーっ!私のキャラ取らないでよ〜〜〜!」
ギリギリギリギリギリ
「ひっ!た、助けて岩っち!」
タタタタタッ
「任せろ!どぉらぁああ!!!!!!」
どごぉ
めきぃ
ばーん。
「………なぁ……俺何か悪いことしたか?」
ダラダラダラ
「ッ!大変だ!きーちゃんから血が!私が吸い出して」
「何さりげなく名前呼んでんのよ変態!悪化するでしょ!……し、仕方ないから私がき……ちゃんを介抱して」
「み、皆さん落ちついてててててててててててててて」
「貴様が落ち着け慌てん坊。この場合最適と思われる対処は私の研究所に連れて行って献血を」
「学校を勝手に研究所に変えないで下さい。会長命令です。取り巻きはとっとと家に帰れ」
「うおおおおーーーーー!!救急車ぁーーーーー!!救急車ぁーーーー!!」
「おーっほっほっほ!!無様!!!無様ですわぁ!!!!」
「………………………………大変」
「しっ、死んじゃいやだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!私も心中するぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「財布財布財布………あった!」
「みんな………普通に手当てしてあげようよ…」
「あはははははははははははははははははははははははははあはははははははははははははははははははははははは」
「わ〜、きーちゃん人気者〜〜」
「ふっふっふ、私のおかげだなキミ!!」
誰か…助け…て
「と、言うわけだ。わかっただろうキミ」
「ああ…うん…嫌と言うほどわかったよ……。
つーかなんでお前はキミって呼ばせるようにしたんだ?」
「え?だってその方が紛らわしくていいかなって」
「なんだそれ……」
「ハイハイ、きーちゃんきーちゃん」
「君吉だ!100歩譲っても君吉って呼べ!!」
俺の名前は佐藤 君吉。
佐藤という名前が多いのでクラスの男子には名前で呼ばれる。
ちなみに今は授業中のはずだが、女子の体育の先生は出張中で、自習らしい。
で、それを利用して告白、と。
……はぁ。
あ、もちろん男子は普通に体育あるんだけどね。
俺は後でこっぴどく叱られます。
……はぁ。
りんちゃんがまたこの町に戻ってきて、転校してきた初日。
俺が寝てて。
りんちゃんに気づかなくて。
りんちゃんは、不服に思っていた。
そうして、一時間目が始まるまで女子の輪に囲まれて、色々と打ち解けてゆくうちに俺について話したらしい。
すると。
「面白いこと思いついた!!!」
常成が言い出しやがった。
この一連の騒動を。
内容は、簡単。
この一週間以内に、一人一回俺に告白をして了承させたものが、勝ち。
了承したら、俺の負け。
ちなみに今日のは誰も成功しなくて悔しかったから最後の悪あがきらしい。
このやろう。
何でこんなことをしたのかというと、俺があの事を反省しているのかを試したらしい。
“浮気をしない”。
…まあ、何があったかは聞かないでくれ。
ささいなことさ。
…だってガキだぞまだあの時。
…はあ。
「てことは……さ」
「ん?何かなキミ?」
「……全部、嘘だったんだよな……
全部の……告白……
つまり………本矢の告白………も」
何だったんだよ俺の葛藤も決意も……
結局全部………虚構。
「本矢の告白だけ本当」
「そうだよな………」
やっぱりそんな上手い事起きるわけ…
え?
「今なんて?」
「本矢の告白だけTrue」
「英語じゃなかったでしょトキちゃん」
「え……?だって一週間」
「本矢ちゃんの告白は一週間“外”だよ、きーちゃん」
…………あ。
「いや〜びっくりしたよホント。作戦立てたはいいけどさー、キミがすぐに了承したらつまんないからまだみんなに作戦伝えなかったんだけど、試しに私が変装して告白した当日に本矢が告白するなんてねー」
「え………」
本矢の方を振り向く。
本矢はーーーー
物凄く赤くなっていた。
「う゛…ええと……その…」
「ほ……本矢……」
「あれあれ〜?きーちゃん本矢ちゃんに今頃惚れちゃったのかナ〜?」
「まー私の告白がなかったらちゃんと上手くいってたかもだからね〜」
「いいんだよ、きーちゃん。本矢ちゃんと付き合っても。もうあの約束は無し。恋愛は自由です」
………。
「本矢」
「っ!……えと、何?」
「ごめん。俺、他に好きな人がいる」
「……もう。わかってるっていったじゃない……」
「その、ちゃんと言っておきたくて」
「……ありがと」
少し涙ぐんだ、微笑。
もうこの微笑を見るのが最後だと思うと、少し悲しいかな。
「この幸せ者がぁああ!!!」
ドゴォォッ
「ごはあっ!!
ってテメぇ!!そろそろ怒るぞ!!」
「酷いよぉ……あの路地での出会いは嘘だったっていうのぉ……?」
「ーーーーーっ、」
いつの間にかあのカツラを被っていた。メイクもキャラもあの時のまま。
何でコイツにだけ反応が冷たいのかって?
……実はこの状態が物凄く好みだからです。
そしてそれは、コイツもわかっててやってる。最悪だ。
でも、一番好きなのはーーー
「りん、ちゃん」
「はい」
「付き合って下さい」
「はい、喜んでっ」
ヒューヒュー、と教室から野次がとぶ
わけもなく。
「お幸せに〜」
「ふん!べ、べつにくやしくないんだからッ」
「ふわわわわわわわわわわわ〜羨ましいです〜
…仕方ないわねだったらまたわざと」
「諦めは肝心!だが!!諦めてはいないがな!!!!」
「むぅ〜…妹がだめなら今度はちっちゃい姉設定で」
「…」
「おーっほっほ!この程度の壁など何の問題もございませんことよ!」
「財布の中身少ないじゃない!私の愛はこれっぽっちじゃ足りないわよ!」
「冷静に分析すると今の私と君吉の関係は儚すぎる。より詳しく調べ合うべきだ」
「会長命令…、委員長命令…、ううん、私個人からの命令です。首を洗って待っていなさい」
「ま、いいサンドバックにはなるかな」
「敵は幼なじみ……だがそれが燃える!萌えるッ!!!ハァハァ」
「もう逃げない……窓から飛んだりしない!だってキミの胸に飛び込むんだもん!きゃっ」
「私にも良識ぐらいあるわ。お幸せに。
夜道に気をつけてね☆」
「あのさあ」
「ん?」
「もう終わったんじゃないの?」
「いや~それがね、どうやらキミの愛を貫き通す姿が格好良かったらしくてさ、みんな本当に惚れちゃったみたい」
「……はい?」
「あはは、きーちゃんこれから大波乱だねっ」
「……いや……ちょっ」
「……だったら私も参加しようかな?」
「何?!本矢が参戦だと!?ならば私もあの格好で」
「うーん…じゃあ私も1から初めようかなぁ?きーちゃん」
「もう……勘弁……して下さい……」
教室が笑いに包まれる。
ヒロイントラップは、まだ始まったばかり。
…と、いうことでいかがでしたでしょうか。
疲れた…。
はい、初めて物語というものを完結致しました。
今までポンポンと思い浮かんで考えたりはしても、結局始まりと盛り上がりとクライマックスしか出来ず物語が全然つなげられずにいたんですが、頑張ってみました。
もう下手くそで拙くて吐き気がする程意味が分からないとは思いますが、最後まで読んで頂いてありがとうございます。
…ちゃんと読みました、よね?
いや、疑心暗鬼はいけませんよね。
とにかく、これが人生で初めて完成させた小説です。
悲しくないですよ。
これでも小説ですよ。
うぅ…。
では、また。
いつか逢える日を望んで。
あなたに、素敵なヒロインが現れますように。