もちこまれた面倒事(めんどうごと)
ここは傭兵部隊の天幕───
現在、敵対している相手との戦争事を行っている部隊となる領主にやとわれた傭兵部隊が駐屯している場所である。
先ほどの総当たりともいえる突撃戦が行われてから数時間が経過し、お互いの陣営が疲弊や疲労という形で消耗していたために、一度、お互いともが示し合わせたかのように後退をしては体制を整えなおす事になっていた。
その後退した先にある野営地となっている傭兵部隊が駐屯している場所の、さらにその部隊長用の天幕の中で、自分は傭兵部隊の偉いお方(いうなれば、この傭兵団の団長)とその副官ともよべる副団長さんとご対面であった。
「手綱はしっかりと掴んでいろと言ったはずだ。なぜ単独行動を許した?本隊の騎士団から被害を被ったと苦情が来てるぞ」
「単独行動を許す許さない以前に、自分が止めようとした時には、もう居なかったんです。本当です」
副団長からお叱りとも言える言葉を投げかけられては、自分なりの精一杯の反論にもならない反論を行ってみていた。
先ほどの戦闘で、本隊である騎士団の方から"お前たちの傭兵が被害をもたらした"という話がきたみたいで、その被害の思い当たる事といえば、単独行動を勝手に行った人物しか思い当たるモノがない。
というか、もう"アレ"しかいないわけで。
解ってはいたけれど、こちらとしても全部が全部抑えきれないと最初から伝えてもいたが、反論できる有力な材料にもならない為、事実を事実として述べるしかなかった訳である。
「副長、もうそれぐらいでいいだろ、"てんさい"の単独行動は今に始まった事じゃないだろ?」
「ですが団長、今は一応は戦時です。勝手な行動をとって戦術、しいては戦略に影響を及ぼす事を鑑みれば‥‥‥」
「解った解った。いつも通りに後始末は彼がするだろうから。それでいいだろう?」
生真面目な副長に対して、団長は何時も通りの事なかれ主義を貫いている。
そして、何気に「いつも通り」とこちらに視線を投げつけてくる。
つまり「面倒事の責任」を自分に対して抱え込ませようと、"さりげなく"してきているのであるが、相手が職場の上司では、簡単に"お断りします"という意味の言葉を放つこともできずに、もうそれだけでお腹がキリキリと痛みだしてくる。
それでも、"面倒事"を受けまいと、なんとか回避しようと口を開いて
「ちょ、ちょっと待ってください!!単独行動を制止できなかった事実はありますが、その役目は最初から無理だと伝えておいたはずです!」
と、何とかそれなりな事を言ってみては、その擦り付けてくる事案を避けるべく討って出てみた。
この戦争事がはじまる前に、いろいろと釘をさしてはみたのだが、それでも自分しかいうことを聞かせれないということで、自動的にお守り役にしたてたのは、団長と副団長の意図でもあったはずである。と、
つまり、責任の一端は、少なからず二人にもあるはず。
暗にそう言いたかったのだが‥‥‥
「私は、一言も"おもりをしなさい"とはいってはいないのに、いつのまにかお前が一緒にいなかったか?」
「ええ、私も、一語一文なりとも、"そういう命令"は言ってはいませんね」
と、平然と自分の意見に対しての回答を返してきますか‥‥‥
そうですね、たしかに言ってませんもんね!お二人とも!!
なんというかこの傭兵団の中で、空気の流れ的に自分がやらされている感で、そういう役割についている状況に、いつの間にかされてたんですけどね!!
しかも、二人の視線が、どこか"にやけている"のも腹立たしい。
「まぁ、それでも"てんさい"は、君の言う事ならば、大抵は素直に聞いてくれるのだろう?」
団長からは、さらりと笑顔で先ほどの打った手のさらなる追撃を喰らってしまった。
ですよね、逃げ道あっさりと塞ぎにかかってきますよね。
ああ、誰かキリキリと痛む自分の胃袋を助けてくれないかなぁ………
そう、団長の言う通りこの傭兵部隊で"てんさい"と称されるアレと相棒を組んでいる状況を続けさせられている自分は、単独行動を制止するだけの方法を一応持ってはいる。
そもそも、力尽くで"てんさい"押さえつけれる人物がこの傭兵団にはいない。
なにしろ、その"武"に関しては部隊の中で頭一つどころかとてつもなく飛び抜けていて、誰も一対一で勝ったためしがない。
それどころか、一対一に加え、一対二十でも勝ったためしがないというか、二十人側の方が手も足も出すこともなく"一方的な蹂躙"で終わったぐらいである。
その二十人の中には、魔法を扱う部隊員も含まれてたのにもかかわらず、その放たれた攻撃系魔法ですら「斬ってかき消す」とか意味わからない現象を発して圧倒というか、もう暴力というレベルで、である。
そうして団内でつけられた二つ名が『歩く天災』からそのまま『天災』と呼ばれていた。
まぁ、他にもその戦闘行為があまりにも理不尽すぎた為に『同居する不条理と理不尽』とか、対戦した相手の武器をことごとく壊していった為に『武器の壊し屋』から『壊し屋』『破壊者』に、気が付いたら空に飛ばされていた事から『飛ばし屋』や『投人鬼』とか、報告書を作るために状況説明を求めても、擬音表現ばかりで何を言っているのか要領をつかめなかったので『脳みそが栄養失調』や『頭の中がお留守』とか、えーっと、他にはなんだっけか、たしか『肉がパワー』とか種々様々。
あ、最後のは本人が一部の人たちに色々言われていた二つ名が嫌らしく、"天災"さん自身がそう口走ってた奴ですけどね。
ただ、今のところ"天災"という呼称に関しては、ご本人が"天才"として誤認している様で"天才!すごい!カッコイイ!"と喜んでいた為、部隊内で大抵こちらの方で呼ばれていたりする。
下手に機嫌を損ねないようにという魂胆も含まれているのだが、これ、本当の事知ったらどうなるんだろうかね。
もしかしたら、"天災"その物の文字的な意味を知らないかもしれないけど・・・
とまぁ、そんな部隊内での扱いも「歩く危険物」とされているのだが、その危険物体を抑制するための手綱として、そしてその相方として強制される決定的な事件がおこる。
それは、自分が初めての炊事当番の時に起こった。
「ほひょほひふひょうひほひひい!ひゃれはふふっはほ!?」
(意味:このお肉料理おいしい!!だれが作ったの!?)
と、炊事担当の時につくったオリジナルの創作肉料理を口いっぱいにほおばりながら、巨漢な女性が放った言葉で、自分の部隊内での運命が決定づけられた。
「管理不行き届きと言う事で、まずは"天災"を探して連れ戻してくるように」
現実を逃避するため、過去の事を思い出していたところに、"君が担当者責任だろ?"とでもいう事を強調するかの如く言葉をねじ込んでくる副長さま。
そうだよね、自分には"逃げ道"なんてなるモノはないんだよね・・・
はぁ‥‥‥
「ハイ、ワカリマシタ・・・デハ、イッテマイリマス」
あきらめの境地というモノを悟り、そのまま二人の前から早々に去ってしまおうと、その天幕から出ようと入口の布を開けたら、その先には人垣が出来る中を遠くからこちらに歩いてくる大柄な存在が見えた。
見えたのだが、どうも様子が異様で・・・
「はなせ!!はなさんか!!!この筋肉女!!私を誰だと思っている!!!!」
「いいかげんうるさいな、静かにしてろって」
どうみても、片手で持ち上げられるレベルの大きさでもない人物を、軽く片腕で担ぎ込むように抱え、猿ぐつわの代わりという風に、折れた剣の"柄側"を相手の口の中に放り込んでいた。
相手は、その行為になすすべなく口奥深くに突っ込まれては固定されて・・・
「おぅぁ・・・ぉぅぁ・・・!」
嘔吐しようとしても出来ないという、この無常なるジレンマ感みたいな、うわぁ・・・自分だったらアレ、やられたくないわ・・・
ふと耳に自身の心の声が漏れたのかとも思える「うわぁ‥‥‥」という声が発せられた方を見てみれば、自分と同じ声を発しながらも眉間にしわをよせる様に団長と副団長もその状況を眺めていた。
そうして、自分たちのドンビキな視線に気づいたのか、彼女は無邪気な笑みをこぼしながらこちらに声をかけてきた。
「飯屋!!相手の大将つれてきたよ!!これで明日から飯屋の飯くえるな!!」
えーっと、自分の名前、そろそろ覚えてくれませんかね?
ってぇ、ちょっと待ってください?!今、すんごく聞き捨てならない言葉が混じった内容が聞こえましたよ?
何事かと出てきていた副長さんや団長さんも、目を大きく見開きながら、その彼女に抱えられて目を白黒してみている相手を見るや否や、「敵となってる何とか公爵じゃないか‥‥‥?」とか言いあい初めていますよ。
あーあー、自分は聞こえなーい。聞きたくなーい。
聞きたくないが為に、その二人の会話が聞こえない場所へと天災さんの方へと逃げ出していっては
「というか、うわぁ‥‥‥ほんとマヂで何やってんですかあなたは‥‥‥」
「それほどでもないよ?」
「いや、褒めてないからね?全然これっぽっちも褒めてないからね?」
すんごく誇らしげな笑顔を向けてくるのは何故なのか。
「それでだ。ほかの敵はどうしたんだ?」
あ、再起動した副長が冷静に状況確認をしようとしてる。流石です。
「敵?うーん、強い奴なんていなかったけど?」
えーっと、あなたにとって「敵=強い奴」でしたっけ、そうでしたね。
というか強くないと敵とすら認識しないっていう思考が非常識という事に気付いてくれないかなぁ‥‥‥ほら、副団長も「何いってんだコイツ?」みたいな顔してるよ?
仕方がない、自分がうまく話を引き出していくしかないか・・・
「えーっと、その抱えている人物の回りにいた人たちがいたでしょ?」
「あ、そういえばいたな!」
「で、その人たちをどうしたのかな?」
「ちょっと撫でたらおとなしくなったぞ?」
はい、"ちょっと撫でておとなしくなった。"頂きました。
あなたのその撫でておとなしくなったってのは、相手気絶したとか戦意喪失したとかなんですよ?
その言葉を聞いて、団長や副長も「またか・・・」という顔にかわったよ?
まぁ、そこらはちょっと無視してさらに聞き出してみようと
「それで、どうしたの?」
「一番大きい天幕の一番奥に座ってる奴が大将と教わったから持ち帰ってきた」
「・・・」
あのね、捨て猫とか捨て犬とかを持ち帰る感覚で言わないでくれるとすごく助かるんですけど?主にこちらの精神面に対して。
自分からは見上げなきゃいけないくらいの体躯に対して、似つかわしくない綺麗すぎる顔でにっこりと笑顔になっていても、全然魅力的に感じないのは何故なんですかね?
しかも、その回答を聞いていた後ろのふたりは、片手で顔を半分隠したり、眉間を指でつまんでたりしてますね、ええ、ええ、その心境よーくわかります。
「まいったな、本隊の貴族様にはどう申し立てしようか」
「同感ですね。彼らは面子を気にしますから、我々が手柄を立てる事すら嫌うでしょうし」
「だが、この状況を報告しない訳にもいかないだろう」
「ええ、そこが問題です。報告するとすれば、懇意にして頂いているライン侯に話を通すべきかどうかかと」
「うむ、それぐらいしか手がなさそう・・・か」
「はい。あとは、誰を行かせるか、ですかね」
「誰にするか・・・か」
とまぁ、視線を正面にもどせば、背後から自分が何とか聞こえる程度の小さな声で話をすすめないでくれませんかね、あと何故か視線らしき物が背中に突き刺さってるのを感じるんですけど?
ああ、これって自分が連れていけという流れなんですね?わかりたくありませんよ?
それよりも、なんであなたは毎度毎度厄介事を持ち込んできますか?ああ、また、お腹痛みだすし・・・
「あぁ、もう(傭兵団)辞めたい・・・」
「え?飯屋、辞めるのか?なら私もついていくぞ?」
ちょっと待ってください、なんでそうなるの!?というか付いてこないで!?
〇おまけ
キャラ設定
相方さん(名前は決めてない)
通称:天災(本人は天才と思っている)
種族:ハーフ・オーグリス(※:オーグリス(女性の大鬼の意)
身体:六尺八寸、三十貫(206.0cm,102.5kg)
得物:火緋色の大剣(六尺二寸:187.8cm)
(※:片刃形状の両手剣で、刃が元からついていない)
特徴:
・力(理不尽な物理)で全てをねじ伏せる。
地方戦の武力衝突ですらも力で両軍(敵味方含めて)をねじ伏せた。
・INT固定(例:知力25)みたいなものです。(種族特性もある)
・がっつりと胃袋を相方につかまえられている。(食的な意味)
趣味:
食う、寝る、遊ぶ(暴れる)
主人公さん(名前は決めてない)
通称:飯屋
身体:五尺七寸、二十貫(172.7cm,75kg)
・魔法を使った中距離支援タイプ
・がっつりと胃袋を相方につかまえられている。(胃痛的な意味)
・料理の腕は上手というレベル、極めて上手い訳でもないが・・・
・ストレスが胃にくるタイプ
趣味:
創作魔物料理(素材がゲテモノであればある程燃える)
団長さん(名前は決めてない)
呼称:団長
・昼行燈タイプ
副団長さん(名前は決めてない)
呼称:副長・副団長
・とくに決めてない